産総研LINK No.17
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低温プロセスという点と成膜コストの点で競争力のありそうな電子デバイス応用の提案があり、さまざまな出口製品に向け開発を進めました。「世界初」や「世界最高性能」の試作デバイス開発にも成功したのですが、プロジェクトが終わった後、企業の方でさらに製品化に向け検討を進めていくと、具体的なビジネスとして競合する製品との比較や顧客価値評価の面で、実用化につなげることは、なかなか難しいということがわかってきました。清原 基礎研究が商品化されるまでには「魔の川」や「死の谷」があるといわれますね。技術ができても「Quality(品質)」「Cost(費用)」「Delivery(引渡し)」という「QCD」が満たせないと商品にはならず、この関門を超えていくのが難しいわけです。 もともと私たちはトイレなどに用いるコーティング技術を探していたわけですが、AD法をトイレや洗面台などの水まわり製品に用いるのは、やはりコストに見合うとはいえませんでした。ではどこに応用していけばよいかと有効な出口を探し、見つけたのが半導体分野でした。もともと当社には半導体製造装置用のキーデバイスを扱うセラミック事業部があり、半導体製造装置のコーティング技術として製品化していくことでビジネスとしても成り立たせることができるのではないかと考えました。 また、焼き物であるセラミックスは材料の組成や構造で特性が変わることが知られていますが、セラミック材料をコーティングする溶射法などは構造まで制御している技術ではありませんでした。AD法は微細な構造を制御して高品質な膜質をつくる技術であるという点が、半導体業界のトレンドに合っていると考えられました。佐伯 新しいものをつくって世に出していく場合、ニーズが先か、シーズが先かという問題がありますが、重要なのはニーズとシーズのマッチングであり、シーズ側がいかに数多くニーズ側と接点をもてるかどうかが勝負になると思います。そのため私はTOTOでセラミック事業部長になったときに、お客様の困っていることに対して技術を用いてソリューション提案をしていく方針を打ち出しました。 そのような中でニーズとして上がってきたのが、半導体製造装置で発生する塵の問題でした。半導体チップというのはシリコンウェハの上に薄膜を形成し、それを装置内で発生させたプラズマで削って微細なパターンをつくっていくものなのですが、プラズマによって、チップだけではなく装置の内壁まで削れてしまい、削りカスが発生して困っているというのです。 半導体チップのパターンは非常に微細なため、発生したカスが半導体チップに付着すると製品として成り立たなくなるわけですね。これまでも装置の内壁は削れないようにセラミックコーティングしてありましたが、決して万全ではなく、装置メーカーも、さらにはその先のユーザーである半導体メーカーも歩留まりを向上させるため、もっと削れにくくカスの出ないコーティング材を探していたのです。そこで2006年、AD法をこのターゲットに適用させるための研究開発が始まりました。明渡 具体的にどのぐらいの低発塵性能が求められるのか、また、AD法の膜でどこまでの結果が出せるのかは、その時点では明らかになっていませんでした。TOTOさんは辛抱強くメーカーとやりとりを重ねて、必要な仕様を見出していきました。清原 実はその当時の半導体チップのパターンの幅は70〜80nmで、その時点では削りカスの方がずっと小さかったので、発塵の影響はそれほど出ていませんでした。しかし、半導体の技術ロードマップでは、それまでの10年間でその線幅は4分の1のピッチまでパターンの微細化が進んできたことから、今後削りカスによって生じる生産性の低下が深刻な問題になることは明らかでした。そこで、私たちは2011年に照準を合わせ、AD法によるセラミックス膜の製品化に取り組むことにしました。明渡 新しい技術を製品に使うことにはリスクがありますが、そこに踏み切られたことが素晴らしいと思います。佐伯 お客様の課題を解決する技術を先取りし、オンリーワンの製品をお客様に届けることを重視していたためにできたことだと思います。ソリューション提案の過程で、どの程度のスペックが必要なのかを、装置メーカーから具体的に教えていただけたことも大きかったですね。佐伯 AD法はまったく新しい技術なので、お客様に使っていただくには、この技術の価値をわかりやすく伝える必要があります。そのためには価値の定量化、数値化をすることが不可欠であり、私たちはAD法による大面積の成膜技術の開発に加えて、製品の機能性評価技術の開発にも取り組んでいきました。産総研 TOTO株式会社AD法の実用化に向けて05 2018-03 LINK

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