産総研LINK No.17
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のきっかけは、当時、同じ工業技術院・九州工業技術研究所(現 産総研・九州センター)に在籍していた野中一洋さん(現 イノベーションコーディネータ)が、98年にスイスで開かれた強誘電体応用の国際会議(ISAF-11th)で、私の発表を見て面白いと思っていただき、同じ大学出身で以前から知り合いだったTOTOの清原さんに、AD法のことを紹介してくれたことに端を発しています。私自身はセラミックスの専門家ではなかったので、セラミックスのプロが見て何と言うのか、とても興味があったことを覚えています。清原 私は大学以来35年間、ずっとセラミックスを研究してきました。TOTOではトイレなどの水回り製品のきれいな状態が長持ちするように、表面を焼いて滑らかにしたセラミックスを用いていますが、1990年代には表面をコーティングする技術が重要になると考え、新しいコーティング技術の開発を始めていました。99年にはトイレの新しい防汚技術、セフィオンテクト技術(新釉薬技術)を開発しましたが、AD法を知ったのはちょうどそのころでした。  明渡さんのところに伺って、実際にAD法を見せていただいて驚きました。通常の低温でつくるセラミックスと膜質がまったく違う、これはすごい、と。また、セラミックスの場合、低温でつくるといっても普通は100℃以下という程度のことで、常温で固化するなど考えられません。そんなことができるなど思ってもいませんでした。明渡 低温でセラミックス膜をつくる場合、樹脂とセラミックスを混ぜて塗る方法がありますが、それだと樹脂が混ざるので、ツルツル、カチカチしたセラミックスらしい表面にはならないのです。しかしAD法を用いれば、焼結する場合と遜色のない表面が明渡 最初にエアロゾルデポジション法(AD法)について簡単に紹介しておきましょう。AD法とは乾いたセラミックスの粉を空気と混ぜて攪拌し、ガスとともにノズルで吹き付けることで、基材の表面に緻密なセラミックス膜をコーティングする技術です。セラミックスといえば普通は焼き固めてつくるのですが、AD法では一切焼くことなく、室温で厚さ500μmのツルツルで堅牢な膜をつくることができます。 1994年ごろ、私はセラミックス微粒子を基板上に堆積させ、厚さ1μm以上の圧電膜の実用的な製膜法を実現しようとしていました。セラミックスの粉を基板に吹き付けて加熱したり、プラズマなどで溶かして融着させたりなど、いろいろな方法を試していましたが、なかなかうまくいきませんでした。そんなあるとき、誤って微粒子を加熱せずにそのまま基盤に吹きかけてしまいました。すると基板に黒い汚れのようなものがカチカチに固まって付着していたのです。尖ったピンセットの先で強くこすってもまったく剥がれません。それが何なのか気になって調べてみたところ、有機物の汚れなどではなく、セラミックスの粒子が常温で固化したものだということがわかったのです。そんなことがあるのかと衝撃を受けました。後にこの現象を「常温衝撃固化現象(Room Temperature Impact Consolidation:RITC)」と名付けました。 そこから、その現象を利用して堅牢なセラミックス膜をつくるコーティング技術の開発をスタートさせました。97年に論文発表、学会発表をしたのですが、それを聞いて、すぐに訪ねて来られたのがTOTO株式会社の清原さんでした。実は、この出会いセラミックスが常温で固化する常識外の技術産総研が開発した、焼かないで緻密なセラミックス膜をつくる技術「AD法」をTOTOがニーズを探してマッチングさせ、事業化に成功した。KEY POINTセラミックスといえば焼き固めてつくるものだと考えられていたが、1994年に産総研が室温でセラミックス膜ができる現象を発見して以来、常識は覆った。そこから焼かずにセラミックス膜をつくる技術「エアロゾルデポジション法(AD法)」が生まれ、この技法は2011年、TOTO株式会社によって半導体製造装置のコーティング技術として実用化された。高機能なコーティング技術は半導体の生産効率を劇的に向上させ、現在、世界シェアのトップを占めるに至っている。共同研究から事業化、そしてアライアンス発足までの歩みを追った。産総研 TOTO株式会社▲AD法によるセラミックス膜の断面写真。緻密なナノ結晶構造を形成し、基材に食い込むアンカー部があるため、高い密着力がある。03 2018-03 LINK

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