産総研LINK No.17
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から応用まで幅広い実績がある。その相澤ならなんとかできるのではないかと声をかけたのだ。 「時間がかかる理由は温度の上げ下げにあるので、温度制御が必要な超臨界条件で加工する方法は使えません。それなら室温でできることを考えればよい。そこで液化炭酸ガスに可能性があるのではないかと気づきました」 液化炭酸ガスには樹脂の表面を柔らかくし、可塑化する働きがある。もちろん高温にすればより深くまで柔らかくなるのだが、ナノ単位の加工であれば、表層だけが柔らかくなるだけでも十分だろう。それなら、おそらく室温でもできるはずだ。二酸化炭素の扱いに長けていた相澤は、そう直感した。 試しに表面に傷をつけた平らな金属片で樹脂板をクリップで挟んで液化炭酸ガスで満たした容器に入れたのち、容器から取り出すと、見事、樹脂には傷と同じかたちが転写されていた。この予備実験での成功を受けて宮城県産業技術総合センターとの共同研究が始まり、2013年、判子を押す感覚で簡単に樹脂にナノ形状を与えられる新しいナノインプリント技術が完成した。 二酸化炭素は離型剤としても働くので、プレスした後の型離れがよいのもメリットだった。転写の工程にかかる時間はわずか30秒ほど。それまで20分かかっていた加工時間が圧倒的に短縮され、十分に実用に耐えるものとなった。この技術は、現在光学部品メーカーと実用化に向けた共同開発が始まっているという。 ナノインプリント技術の開発を一区切りさせた相澤は、二酸化炭素を使うこの技術をさらに別の何かに応用できそうだ、せっかくなので世の中をあっと言わせるオリジナルな技術をつくりたい、と考えた。樹脂が柔らかくなる性質を用いるのなら、接着に応用できるのではないか。そこで転写技術で用いた装置を使って、樹脂板を接着する実験をスタートさせた。しかし、予想に反しうまくいかなかったという。 「二酸化炭素を用いるときの型離れの良さが、ここではデメリットとなりました。樹脂板と樹脂板をプレスしても、押し付けるのをやめればすぐに引き剥がされてしまい、接着できなかったのです」 では、どうするか。樹脂板の場合は二酸化炭素が接着面に残ることが問題だった。ということは、二酸化炭素が抜ける素材であれば可能なのではないか? 穴の空いている素材、例えば繊維ならどうだろうか。不織布のような細い繊維でできた安くて薄いシートを積層したものは、応用先もいろいろ考えられそうで、その点も好ましかった。 さっそく、同じシンプルな装置の中に、ほかの実験用に用意してあったティーバッグの袋を容器の大きさに切って重ねて入れ、二酸化炭素を充填してピストンで押してみた。プレスした後は、二酸化炭素を排気して取り除く。ナノインプリント技術とほぼ同じ、室温でできる簡単な作業だ。 「すると狙い通り接着できていたのです。2016年10月、初実験での成功でした」 ティーバッグの不織布の繊維を顕微鏡で観察すると、二酸化炭素を使わずにプレスしたものは繊維がつぶれていただけだったが、二酸化炭素を入れて加工した方は繊維同士の重なった部分がつぶれたうえに変形し、接合していた。思った通り、柔らかくなった樹脂同士がくっつきあっていたのだ。本当に、室温の二酸化炭素の中で布をプレスするだけで、新しい多孔質の材料ができていたのだ。NEW TECHNOLOGY樹脂を接着させる新しいオリジナル技術を▲プレス機に布をセットしてプレスすると、二酸化炭素が液化して、材料が柔らかくなり接合する。その後、排気をするため完成した多孔体には二酸化炭素が残らない仕組み。10 LINK 2018-03

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