産総研LINK No12
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 植物と一言でいっても、花の色は多彩で葉の形状は多様、樹高もさまざまなら、適応する環境もそれぞれ異なり、無限とも言えるほどの種類がある。花や葉の形を決め、果実をいつ実らせ、乾燥や低温などの環境にどう耐えるか。こうした生体の形状や機能、性質の制御には、すべて遺伝子という生体の設計図が関わっている。 しかし、面白いことに設計図である遺伝子は、存在するだけではその機能を適切に発揮することができない。 「遺伝子がはたらくタイミングや度合いは、転写因子という物質(タンパク質)によってコントロールされています。そのはたらきは、車でいえばアクセルとブレーキに当たるものです。遺伝子に刻まれた情報をアクセルで発現させ、必要に応じてブレーキをかけてストップさせる。転写因子が司令塔となることで、植物は日々の環境変動に適応しながらうまく成長し、生存しているのです」 そう語るのは、産総研生物プロセス研究部門で“スーパー植物”の研究に取り組む藤原すみれだ。藤原はアクセルとブレーキにあたる転写因子(それぞれ転写活性化因子、転写抑制因子という)のはたらきをコントロールすることで、通常はなかなか得るのが難しい、強い特性をもった植物を効率的につくりだそうとしているのだ。 なぜか?それは、この研究が人類の課題を解決することにつながる可能性があるからだ。 産総研は、この植物の転写因子研究で世界トップレベルの実績がある。特に知られているのは、アクセル型の転写因子をまとめてブレーキに転換する「CRES-T法」だ。 「この方法は、転写活性化因子のはたらきを“まとめて”抑制する点が画期的でした」と藤原。遺伝子の作用の確認は、ある遺伝子が壊れたときに植物に起きた変化を観察して行うが、植物の遺伝子には重複が多く見られ、一つの遺伝子が壊れても他の遺伝子がそのはたらきを補ってしまうことが多い。つまり、遺伝子の作用を把握するためには、ある作用を引き起こす遺伝子のはたらきをまとめて抑えなければならないのだ。 そのような植物の性質と、特定の遺伝子をうまく狙って壊す技術が最近までなかったことから、遺伝子の作用の特定は非常に難しいものだった。 「まとめて抑制できるCRES-T法の登場で、ようやく多くの転写活性化因子のはたらきを見つけられるようになり植物の性質や形状などの制御には、すべて遺伝子が関与する。その遺伝子のはたらきは、アクセル役の転写活性化因子とブレーキ役の転写抑制因子がバランスをとりながらコントロールしている。産総研はこれら転写因子のはたらきをまとめて抑え、植物に特別な形質を与える技術を開発。さらに、シロイヌナズナの転写抑制因子ほぼすべてにあたる、約300種類について、ブレーキをアクセルに変えた植物を生み出した。この成果は、単にシロイヌナズナというモデル植物に限られた話ではない。これを野菜など食用植物に応用できれば、開発効率は大きく向上し、温暖化や天候不順による野菜不足などの事態を避けられるばかりか、将来的な食糧問題を解決しうる品種の開発にもつながる。さらには工業原料生産やバイオマス燃料にも使われ、エネルギー問題、環境問題に貢献できる“スーパー植物”の作出も期待される無限の可能性を秘めた技術なのだ。遺伝子の“司令塔”転写因子をコントロール転写因子をまとめて抑制して、強い特性を生み出す植物遺伝子制御技術とスーパー植物13 2017-04 LINK

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