国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)機能化学研究部門【研究部門長 北本 大】界面材料グループ 亀田 直弘 主任研究員、増田 光俊 研究グループ長は、ペプチドやタンパク質といった中分子や高分子を封入できる十数種類のナノカプセル(内径5~40 nm)を開発した。化合物の大きさに適した内径サイズのナノカプセルに封入するとその化合物が孤立して凝集や会合が抑制され、化合物の構造や機能を安定化できる。
今回開発したナノカプセルは、アミノ酸、糖、脂肪酸だけから容易に合成でき、従来のナノカプセルに比べて格段に少ない工程で量産可能である。また、水溶液のpHを変えて化合物の封入や放出を制御できる。分子量の大きい化合物に対して安定化機能を持つ包装剤として、機能性化粧品、産業用酵素、バイオ医薬品などへの応用が期待される。
なお、この技術の詳細は、2017年2月10日につくば国際会議場(茨城県つくば市)で開催される産総研 材料・化学シンポジウム 「21世紀の化学反応とプロセス ―快適な生活を支える機能性材料の新展開―」で発表される。
 |
内径サイズが異なるナノカプセルの構造(左)と透過型電子顕微鏡像(右)
右図の黒い部分はカプセル内空間を示す。 |
近年、ペプチドやタンパク質といった中分子(分子量:数千~数万)から高分子(分子量:数万~数十万)が、医薬品や機能性化粧品の有効成分として、また産業用酵素として注目されており、それらをカプセルに封入するなどして安定に保護したり、貯蔵・送達したりする技術が求められている。しかし、これらの分野で実用化されているナノカプセルであるリポソームは、低分子には優れた貯蔵・送達機能を示すが、中分子から高分子に対しては、それらが相当量ナノカプセルの外表面へ吸着してしまうため、効率的な封入は困難であった。また、リポソームの場合には、その空間サイズを数ナノメートルスケールで制御することも難しかった。
産総研は、天然由来物質を利用して、さまざまな特性を持つナノカプセルの開発に取り組んできた。これまでに、分子量3万の緑色蛍光タンパク質の凝集を抑制し、安定化できるナノカプセル(内径10 nm)を開発している。しかし、このナノカプセルは、分子量1万や10万のタンパク質に対しては安定化機能を示さなかった。また、合成には高価な原料を必要とし、製造工程も多く煩雑で、量産化は困難であった。
そこで、今回、使用する原料を見直して、さまざまな分子量のタンパク質を安定化でき、量産も可能な新しいナノカプセルの開発に挑んだ。
今回、安価な天然由来物質であるアミノ酸、糖、脂肪酸をカプセルの原料として選定した。合成条件を最適化した結果、数工程から成る一度の合成で、数十グラムのナノカプセルを調製できるようになった。開発したナノカプセルは、室温では溶液中、乾燥状態のどちらでも長期間安定である。
これまでに、ナノカプセルがタンパク質を安定化する機能とカプセルの内径サイズとの間に相関があることが判明していた。そこで、内径サイズを制御するため、大きさの異なるアミノ酸や糖を用いたところ、5 nm、8 nm、12 nm、20 nm、25 nm、30 nm、40 nmなどの内径サイズをもつナノカプセルを製造できた。ナノカプセルの外側に配置されるアミノ酸が大きいほど(図1 アミノ酸A)、ナノカプセルの壁面に並ぶ分子の数が少なく、内径サイズが小さくなる。逆に、外側のアミノ酸が小さい場合には(図1 アミノ酸B)、壁面に並ぶ分子の数が多く、内径サイズが大きくなる。また、アミノ酸や糖の種類を変えて、ナノカプセル内側をプラスやマイナスに荷電させることもでき、対象とする化合物のサイズや荷電に対応した内径サイズ・荷電のナノカプセルが調製できる。
開発したナノカプセルは、両端が開放しているチューブ形状であることもあり、化合物は混ぜるだけでカプセルの外表面へ吸着することなく、最大でその90 %以上を封入できる。また、pHによってナノカプセル内側の荷電状態が可逆的に変化するので、この性質を利用して化合物の封入と放出を制御することもできる。
 |
図1 今回開発したナノカプセルの構造図
大きさの異なるアミノ酸や糖、脂肪酸を用いることで内径サイズを制御する。 |
分子量の異なるタンパク質をナノカプセルに封入し、タンパク質の触媒活性を評価することで、ナノカプセルによる安定化効果を検証した。その結果、例えば、分子量1万のリゾチームを内径が5 nmのナノカプセルに、また分子量10万のクエン酸合成酵素を内径が20 nmのナノカプセルに封入した場合、4週間経過後もそれぞれ90 %以上の触媒活性が保持された(図2)。一方、ナノカプセルに封入しない場合や内径サイズの異なるナノカプセルに封入した場合には、時間の経過とともに触媒活性が減少し、安定化効果は見られなかった。これは、タンパク質が、その大きさにフィットしたナノカプセルに封入されることで孤立し、凝集や会合が抑制されて構造が安定するためと推測される。したがって、内径が20 nmより大きなカプセルを用いれば、抗体のような極めて分子量の大きなタンパク質を安定化する効果も期待できる。
 |
図2 分子量の異なるタンパク質に対するナノカプセルの安定化効果とその内径サイズ依存性
調製直後の未封入酵素の触媒活性を100 %とした。 |
今回開発したナノカプセルは、安定化機能を持つ包装剤として、機能性化粧品、産業用酵素、抗体医薬品などへの応用が期待される。
今後は、分子量のより大きいタンパク質を用いて安定化効果の検証を進めるとともに、ナノカプセルの内径サイズや荷電状態のより精密な制御をめざす。また、企業と連携して、産業用酵素や抗体医薬品のカプセル化・安定化の検証も進める予定である。