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2021.03.26

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必要とされる地下の地質情報を
よりわかりやすく伝える!
中澤 努 研究グループ長と町田 功 研究グループ長の写真
KeyPoint東日本大震災の際、東京湾岸部で生じた地盤の液状化現象が大きな問題となった。都心に近く、多くの人が住む「安心だ」と思っていた土地が突然沈下してしまう、そのことに衝撃を受けた人も多いはずだ。私たちの足元に広がる大地の内部はどうなっているのか。その地下情報は、私たちにどのように関係してくるのか。産総研は、これらの情報を“見てわかる”形で表現し、伝える努力を続けている。
Contents

立体的な地層の重なりが一目でわかる

 2011年の東日本大震災により東京湾沿岸部で地盤の液状化現象が起きた。特に千葉県の被害は大きく、人気の高い住宅地も多く含まれていたため、数多く報道された。同じ首都圏でも、場所により地震による被害の程度が異なっていたことから、被害に大きく影響する地下の地質構造の情報を整備することが喫緊の課題となった。

 「産総研は、早速、都市平野部の地質情報の整備に取り組むことにしました。これまでの地質図は、地表の地質分布を示したものですが、地下深くの構造までは表示していません。特に都市部など地形の平たんなところは、従来の紙の地質図では地下を表現することが難しいのです。防災・減災の計画などに利活用してもらうためにはわかる情報・伝わる情報であることが重要です。そこで私たちは地下の情報をわかりやすく表現することを第一に考え、紙ではなくウェブ上での公開を前提とした3次元の地質地盤図を作成してはどうかと検討を始めました」

 情報地質研究グループの中澤努は、そう当時を振り返る。

 ウェブ上で表現することのメリットは大きく二つある。ひとつは、平面上ではわかりにくい3次元情報を表示できること。もうひとつは、数値データを提供しやすいことだ。こうして、3次元地質地盤図の作成が始まった。

“点”をつなげて“面”を作成し液状化発生地域の地下構造を解明

 3次元地質地盤図の作成をどう進めるか。モデル地域を設定して実際に作成し、そこで得られた知見をもとにほかの地域にも展開していく手法をとった。はじめに取り組んだのは千葉県北部地域である。この場所は、関東平野を形成する地層が典型的に分布しており、従来から調査研究も十分に行われてきた。また、先に述べたとおり液状化の被害を受けたことから、自治体も地下の地質構造の調査を強く望んでいた。

 3次元地質地盤図の作成には、地質の立体構造把握が重要となる。そのために、大地を棒状にくりぬくボーリング調査から必要なデータを収集する。21ページの図「船橋から習志野付近の詳細3次元地質モデル」中の黄色の縦棒がボーリングデータのある地点だ。

 「ボーリングデータには、土の種類やその層の厚さ、地面からの深さ、土の種類が変わる深さなどの情報が記されています。それらは調査を行った場所、つまり“点”の情報にすぎません。3次元の立体図として表現するには、それぞれの点をつなげて地層という“面”の情報に変換する必要があります」

 各ボーリングデータを解析し、産総研がこれまで調べた基準点となる20地点のデータを参照しながら、点と点の間の見えない部分を慎重につなげていく。千葉県が持つ土木・建築工事のボーリングデータも利用して、解析したデータ数は1万数千本にも及んだ。

 地質構造を再現するにあたって、中澤をはじめとする研究者4人がすべて手作業で行った。地質データの解析分野では、過去に基準点のボーリング調査を行った担当者しかわからない情報もあるなど高度で専門的な知識と経験を必要とする。どの点とどの点を結ぶかの判断はいまだコンピューターには任せられない。

 気の遠くなるような手作業を経て、3次元地質モデルが完成した。そこから何が見えてきたのだろうか。

 「『船橋から習志野付近の詳細3次元地質モデル』を見てもらえればわかりますが、ちょうどくぼみができているところをⒷという軟弱な地層が埋めています。埋立層であるⒶがその上を覆っています。Ⓑは地震動を大きく増幅させるおそれがある泥層で、その上に水分を多く含んだⒶが重なっているため、この地域は液状化が起こりやすいことがわかります」(下記図参照)

 3次元地質地盤図のデータはハザードマップ作成などの防災対策に活用されている。

 現在、中澤は東京都とともに東京23区の3次元地質地盤図の作成を進めている。5万本ものボーリングデータを用いて3次元モデル化したところ、地盤が良いと考えられていた地域の地下に軟らかい地層で埋められた谷状の地形が見つかるなど、新たな発見があるという。この成果は近々公開され、防災やインフラ整備などに役立てられることになっている。今後は全国の主要都市を中心に地質構造の3次元モデル化を進める予定だ。

 「地質情報は、実はいろいろなことで生活に関わっています。地盤の液状化現象によって家が傾いてしまったという例のほかにも、地震で揺れやすい場所があったり家を建てる時の基礎の深さが場所によって異なったりするのもその地域の地質に原因があったりします。地質情報の重要性を多くの方に認識してもらい、今住んでいる地下に関心を向けていただきたいと思います」と中澤は言葉を結んだ。

船橋から習志野付近の詳細3次元地質モデル

船橋から習志野付近の詳細3次元地質モデルの写真

Ⓐ埋立層:沖合からさらってきた砂泥を用いて埋め立てた地層であり、水を多く含んでいる。
Ⓑ沖積層:内湾で堆積した軟らかい泥層を主体とする地層で地震動を大きくする増幅させるおそれがある。
Ⓒ下総層群:約10万年前より前の地層で、しっかりした地盤をつくる地層。

水文環境図ってなんだろう

 現在の日本では、上水道に利用される水の7割が地表水で、生活用水としての地下水の利用は限定的だ。そのため井戸水や湧水などの地下水について意識することは少ないかもしれない。しかし地下水は、工業用水や農業用水などにも広く使われている今でも大切な水資源である。災害が頻発している近年、災害発生時の水源確保は重要であり、断水時に地下水を使えるように手押しポンプつきの井戸を備える自治体も増えている。

 地下水を持続的に利用するためには、地下水がどこにどのように流れているのか、その水は将来にわたって安全なものなのかといった情報が、重要なものとなる。

 では、地下水の情報はどうしたら手に入るのだろうか。地下水研究グループの町田功に聞くと、

 「地下水にも地図があります。貴重な水資源である地下水を適切に管理して利活用していくために、地下水の地図は世界各地でつくられています。産総研では水文環境図という地図を作成し、ウェブ上で公開しています。水文環境図は誰でもアクセスでき、地下水に関する最新情報を得ることができます」と答える。  水文環境図には、地下水の分布する深さや流れる方向、それに現場測定や化学分析によって得られた水温、pH、鉄やカルシウムなどの含有成分といった水質に関わる情報など、さまざまなことが記載されている。

 「例えば山形盆地の水文環境図を見てみましょう(下図Ⓐ〜Ⓒ 参照)。この地域で井戸を掘ると、金気水(かなけみず)とよばれる鉄を多く含む『おいしくない水』が時々現れます。これは、鉄イオンが原因であり、その分布から『おいしくない水』の場所がわかるのです。なぜこの場所に鉄イオンが多く見られるかということも、地下水位の空間分布を重ねて地下水の流れを見ることでわかります。ご覧のように地下水は最上川に集まっているのですが、金気水の見られる区域は流れの下流側で、かつ地下水の流れが遅くなる場所です。地下水の流れが遅くなると、地下に届く酸素が減り、周辺の地層に含まれる鉄イオンが地下水に溶け出してきてしまうのです」

山形盆地の水文環境図

山形盆地の水文環境図

Ⓐ鉄イオンの濃度分布を地図上に表示したもの。赤いところが濃度が高い。
Ⓑ地下水位の空間分布(どのくらい掘ったら地下水が出てくるかの指標)を表示したもの。
 地下水は等水位線におおむね直行する方向に流れる。
Ⓒ情報を重ね合わせることで、なぜその場所にある物質(ここでは鉄イオン)が多く検出されるのかを知ることができる。
Ⓓ硝酸イオン濃度と地下水位の空間分布を重ねて表示したもの。の順に濃度が高くなる。

地域を俯瞰(ふかん)した水利用が可能に

 水文環境図では、この地域で、ある用途に適した水質の地下水がどこを流れているのか、ということをすぐに見つけることができる。防災、資源開発、環境汚染への対応などを検討する際、地下水に関連する情報が必要となるケースが多い。そのとき、水文環境図から入手できる情報は、地域全体を俯瞰(ふかん)するのに役立つ。

 水文環境図の具体的な利用例として、環境汚染物質による地下水汚染の状態の把握がある。先ほどの山形盆地の水文環境図をもう一度見てみよう(上図Ⓓ)。今度は地図上に、地下水の硝酸イオン濃度の分布と地下水位の空間分布図を表示している。硝酸イオンは岩石中にはほとんど含まれていないため、農地で使用される窒素肥料の影響を見ることができる。

 町田は次のように解説する。

 「東根市の乱川流域には農地が広がります。農地で用いられる肥料の一部が浸透して地下水に入り、それによって乱川下流域の地下水の硝酸イオン濃度が高くなっている可能性があります。なお、環境基準(環境基本法第16条に基づく地下水の水質汚濁に係る環境基準)に照らすと、硝酸イオン濃度が44 mg/Lを超えると基準値超過になります(NO₃-Nの形で10 mg/L)。従来公開されていたのは、『基準値を超えた地点がどの程度あるのか』という情報です。水文環境図は濃度を表示することができますので、『どこで濃度が高いのか』ということがわかるのです」

 これでわかるように、水文環境図を読み取るには専門的な知識が必要だ。このような専門的な情報が「説明書」という形で図ごとにまとめられ、コンサルタントや大学関係者などの専門家に活用されている。

 今後は、地域ごとの地下水利用を見据えつつ、最新情報を加えながら水文環境図を整備し、将来に向けた地下水位の低下や湧水の枯渇、水源涵養機能の持続性など水循環の課題解決につなげていきたいと考えている。

 「地下水資源量の指標となる地下水位は極めてゆっくりと変化しているので、同じ地点の調査を継続的に行い、変化を正確に把握する必要があります。今後、飲み水としての利用が増えていくことを考えると、水質を継続的にチェックし、情報を整備し て、水環境の保護を行っていくことは非常に重要なことだと思います」と町田は締めくくった。

地質調査総合センター
地質情報研究部門
情報地質研究グループ
研究グループ長 中澤 努 Nakazawa Tsutomu
中澤 努 研究グループ長の写真
地質調査総合センター
地圏資源環境研究部門
地下水研究グループ
研究グループ長 町田 功 Machida Isao
町田 功 研究グループ長の写真

地下の3次元情報や地下水について興味があればぜひ一度見てみてください。

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国立研究開発法人産業技術総合研究所