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2021.03.26

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地下水・地殻ひずみで地震を予測する
変化を見逃さない24時間体制の観測網
地質調査総合センター
活断層・火山研究部門
地震地下水研究グループ
研究グループ長 松本 則夫 Matsumoto Norio
松本 則夫 地震地下水研究グループの写真
KeyPoint地下水の水位や地殻のひずみの変化は、巨大地震の予兆の一つだと考えられている。産総研は南海トラフ地震の震源になると想定されている地域多数の観測拠点を設け、24時間365日、地下水や地殻変動を観測し続けることで、地震の予兆となるデータの把握に努めている。
Contents

井戸と地震観測

 「地震が起こる直前には前触れがあるか」――地震雲が見られる、動物が異常な行動をする、井戸水が濁るなどさまざまな言い伝えが残っている。多くの地震被害に見舞われてきた日本人にとって、地震が起きたときの被害をなるべく少なくするためにも、地震発生の予兆を捉えることは昔から大きな関心ごとだった。

 そして今は、科学の力を駆使して、その予兆を把握しようとする取り組みが進められている。例えば地殻変動を高い精度で観察することによって、その変化分をデータとして収集し、地震発生の前兆とどう関係しているのかを探る方法もその一つだ。

 こうした観察に必要な調査施設として「地下水・ひずみ観測井(ちかすい・ひずみかんそくせい)」と呼ばれる井戸が注目されている。井戸といっても、水や石油を汲み出すものではない。地下水位や地殻ひずみを観測する計器を設置するための専用の井戸であり、通常は100~200 m程度の深さまで掘られる。

 産総研では、東海地震の予知に関する研究を進めるという国の方針に応じて、1970年代後半から静岡県とその周辺、紀伊半島、そして四国地方へと、地下水を観測するために「地下水・ひずみ観測井」を順次設置してきた。

 今では南海トラフ地震の震源域付近に対象を広げ、600 m、200 m、30 mという深さの異なる3種類の井戸をもつ観測地点を、新たに16カ所追加設置した。3種類の井戸では、それぞれの深さを通っている地下水脈(帯水層)の水位や水温の変化をチェック。最も深い600 mの井戸の底には超高精度のひずみ計を設置し、地殻のわずかな変動を24時間、休みなく観測している。

 この観測網を使い、南海トラフ地震の予測に役立つ地下水・地殻ひずみの変化を高精度なデータとして捉えることを目指している。

地下水位と地殻ひずみの変動データからわかること

 そもそも地下水位や地殻ひずみのわずかな変動を観察することで何がわかるのか。1854年に起きた安政東海地震・安政南海地震の前にも井戸水が涸れたという記録が古文書に残っている。1946年の南海トラフ地震の数日前には12カ所の井戸で地下水位の低下や温泉湯量が変化したことが報告されている。つまり、地下水については「言い伝え」だけではなく「実測値」としての変化が地震の起きる前に観察されている記録が残っているのだ。

 「過去に報告された例はありましたが、当時、地下水を用いた地震予測はマイナーな研究分野で、地震予測の専門家の間では信頼度が低いという印象ももたれていました。しかし、数十年間にわたる観測・研究の蓄積によって、地下水位と地殻変動との関係性が徐々に明らかになり、現在は地下水の情報も地震予測につながるデータとして正式に採用されています」

 そう話すのは、地震地下水研究グループの松本則夫だ。

 なぜ、地震の起きる前に水位が変化するのだろうか。一つの仮説として、地震の前にプレート境界付近で人間には感じられないほど地殻がゆっくりすべる「ゆっくりすべり」と呼ばれる現象が原因と考えられている。

 これは、プレート境界の巨大地震を発生させる部分よりさらに深い場所で、プレートが沈み込む方向と逆方向にゆっくりすべる現象と考えられている。この深部におけるすべり現象により、観測井付近の岩盤が計測できるギリギリのレベルで伸びたり縮んだりすることがわかっている。この伸び縮み、すなわち地殻変動が周辺の地盤と地下水に影響を与えていると考えられている。

 産総研は、地殻変動とその周辺の変化を高精度で捉え、統合解析をすることで、地下水位の変化でも深部すべりが検出できることを世界で初めて示した。これにより、現在、深部すべりを解析する際には、地殻変動そのものを感知するひずみ計や傾斜計だけでなく、地下水位の変化も重要な指標の一つと考えられている。

リアルタイムで地震の予兆を察知

 各地の観測井で取得されたデータは自動で産総研に送信され、解析結果とともに防災科学技術研究所や気象庁にリアルタイムで共有される。南海トラフ地震については、観測データの現状を把握するために原則毎月1回定例の会合が開催されている。観測データに異常が現れた場合は、地震との関連性を緊急に評価するための会合が臨時開催され、関連性があると判定されたときは気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を発信する仕組みだ。

 地下水位や地殻ひずみの変動を24時間ずっと監視し続け、異常が見つかったらリアルタイムに対応する。そうした緊張した状況におかれている松本は「巨大地震の予兆が見いだされたときに、すぐに私たちの観測データを役立てられるように、という使命感で取り組んでいます」と語る。

 地下水位や地殻ひずみの観測は、これからデータを観測し続けていく「新しいデータの積み重ね」である。ほかの産総研研究者が行っている地質の過去をひもとく研究とはまったく異なるアプローチだ。どちらも地道な調査・観察を積み重ねる研究だが、研究者の思いは一つ、大地震の予兆を見いだすことにつながる成果を上げることにある。

 「地震予知は実現が強く望まれている分野ですが、現状では完成しておらず、難しい研究です。私たちが日々行っている研究によってどんなことがどこまでわかっているか、ということをきちんと説明していくことも重要だと思っています。多くの人に、地震予知研究の意義と成果を理解していただければありがたいですね」

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