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2021.03.26

LINK for Society

地質の情報を伝える、とは
日常にないスケールの魅力を共有する
森田澄人さん、竹之内耕さんの写真
新型コロナウイルス感染症の流行により、私たちの生活は劇的に変化し、社会・経済活動はかつて経験したことがない停滞を余儀なくされている。
感染リスクをコントロールしながら、人々の生活に安心・安全を取り戻し、社会・経済活動を維持発展させていく、そのためには医療・医薬の分野だけでなく、社会活動のさまざまな面で感染リスクへの対策が必要となる。
産総研は今のこの未曽有の社会的危機に対して、専門性と総合力を発揮すべく、研究所一丸となって、新型コロナ対策のための研究開発に取り組んでいる。
Contents

わかりやすさと科学的な正確さの狭間で

竹之内フォッサマグナミュージアムは1994年に開館した新潟県糸魚川市立の地質系博物館です。糸魚川は日本列島の成り立ちと深く関わるフォッサマグナ(ラテン語で「大きな溝」の意)の西の境界線(糸魚川-静岡構造線)が通り、地質資源にとても恵まれています。古生代から新生代まで、日本列島の生い立ちがコンパクトにまとまっている地域でもあり、2008年に日本ジオパーク(*)に認定され、2009年には日本で初めて世界ジオパーク(2015年よりユネスコ正式プログラム)となりました。当館はこのような地域の博物館として、フォッサマグナをキーワードに大地の物語を理解してもらえるよう、同時に、地震や火山、地滑りなどの自然災害についても学べるよう展示しています。

 特に意識しているのは、来館者に非日常を感じてもらいたいということです。地質学は1万年、100万年、1000万年という長い時間軸で理解する必要がありますし、また日本列島が割れたり、大陸が合体したりというように、これまた日常とはかけ離れた空間スケールを持っています。しかも、物理学や化学と違って地質学的な現象は再現ができません。このような大地の営みを、非日常的な時間・空間スケールで考え、理解できることが地質学の大きな魅力だと思います。

 そのような魅力を、子どもから大人まで、一般からマニアの方にまで楽しんでもらえるようにと展示物を作っています。展示の解説は、以前は高校1年生が理解できることを目指していましたが、世界ジオパークの審査員から「12歳でもわかるような内容にしたほうがよい」とアドバイスを受け、現在では小学校高学年でもわかるような言葉で説明しています。そんなに平易にして正確に伝わるのだろうかと悩みながら、情報の枝葉を落とし、俳句を詠むような気持ちで解説文を書きました。12歳がわかるようでないと、地学の素人には伝わらないというのは確かにそうだと思います。

森田地質標本館は、つくば市にある産総研の施設ですが、そのベースには、明治15年に地質調査所として設立されて以来、139年にわたって国の地質の調査を担ってきた産総研の地質調査総合センターがあります。地質標本館はこの研究所のミュージアムとして「地質研究の成果発信」と「一般的な地学・地球科学の普及・啓発」という2つの役割を担っています。そのため、私たちも先端的な研究成果と一般向けの科学を並行して伝えるという難しさをいつも感じています。老若男女問わず、一般からマニア、専門家まで幅広い層が訪れる中で、フォッサマグナミュージアムと同じように、わかりやすさと科学の正確さの両立に悩みながら展示や解説に努めています。

 当館の大きな特徴は、地質調査総合センターに所属する200名以上の研究者が後ろに控えていることです。皆、専門性が異なって、全体として広く地球科学をカバーしていますので、ここだから伝えられる科学の広さと深さのメリットを感じています。ただ、施設の性格上、正確さが優先される場合がありますので、来場者アンケートには「むずかしい」と書かれることも頻繁で、両立はなかなか難しいと感じています。

伝わるように伝えるためのさまざまな工夫

森田糸魚川は、古生代から新生代まで、地質時代が非常に幅広く、地層や岩石の種類もとても豊富なので、地質には本当に恵まれた地域ですよね。フォッサマグナミュージアムはそのような地の利がよく生かされた見事な博物館だと感じています。日本列島の形成を語るうえでは、夢を提供できる理想的な場所とも言えると思います。

 ヒスイだけを大量に並べた展示室や、30種類ものさまざまな岩石を一覧できる展示室には圧倒されますね。最後まで見ごたえのある展示が続きますので、初めて訪ねてきたとき、見学を終えた頃にはぐったり、すっかりエネルギーを使い果たしていたことを覚えています。

竹之内博物館なので標本で圧倒すべきだという思いはありますね。第1展示室では市内の海岸などで見つかったヒスイを約700標本、第6展示室では日本や世界の鉱物を約3500標本展示していますが、そのように量で圧倒することで地球の構成物の多様さを感覚的にもわかってもらえるのではないかと思います。それだけ多くのヒスイが並んでいれば、緑だけではなく、さまざまな色のヒスイがあることが、説明しなくてもわかります。1種類の鉱物についても何標本も並べていますが、それは、同じ鉱物でも結晶の形や大きさは多様であることを見てほしいからです。

 実物を見て理解してもらうというか、標本に語らせることは、博物館の重要な役割です。その点では、地質標本館には膨大な標本があることを、とてもうらやましく感じています。

森田静かに標本に語らせ、またそれを感じとってもらうことは大切ですね。当館は、所蔵として15万点以上、館内では約2000点を展示しています。ただ地質の情報というのは標本だけでは伝えきれません。火山や地震、海洋や資源などの研究成果、またそれぞれの地域の地質の成り立ちや、その背景について伝えていくこともとても大事だと考えています。

竹之内地質情報のさまざまな側面を伝える難しさは私も日々感じています。まずは、地球の歴史をひもとく基本材料である岩石というものに、いかに興味を持ってもらえるかを考えています。糸魚川の海岸には、ヒスイをはじめいろいろな石が落ちていて、それらは波に磨かれてさまざまな形になっています。きれいな色のものもあれば、絵のようなシミが浮かんでいるものもあり、楽しみ方もいろいろです。当館では、石の世界に誘う動機付けとして、2019年に「おもしろ石コンテスト」を開催した経験があります。糸魚川市内で拾った色や形などがユニークな石を募集したところ、全国から400点ほどの応募がありました。

森田岩石はそもそもゴツゴツして固いイメージで、なんだか手強さを感じますよね。「おもしろ石コンテスト」はとても楽しめました。このような企画は興味のタネをまく一つになり得ますし、一般の方の視点もわかって勉強にもなります。

 私たちも伝える工夫としては、文字だけの情報よりは絵や動画を、平面的な情報よりは立体的な情報を、抽象的なものよりは実体に即した実物をといった方針で、まずは受け取ってもらいやすいこと、さらに押しつけ情報よりも受け手が能動的に体験・体感できるものを、と意識しています。

 また、今はインターネットの活用もとても重要ですね。ネット関連の技術進展はとても速いので、しっかりと情報にアンテナを張りながら、上手に取り入れ、ウェブサイトなどに効果的に活用していかなくてはならないと考えています。体感という点ではVRやARも有効でしょうね。新しい技術として、近年はプロジェクション・マッピングを取り入れていますが、たいへん好評を得ています。

竹之内当館では情報を受け取りやすくするために、過去の日本列島の姿はグラフィックで伝える、双方向型や体験型の展示を増やす(コロナ禍で現在は使用中止)などの工夫をしています。特にグラフィックは、過去の地球を理解してもらうためには欠かせません。CGは一部の映像で導入していますが、VRやARは予算面や技術面の考慮が必要で、やってみたいですがこれからの課題です。

フォッサマグナミュージアムの写真

200インチの壁・床一体型の巨大スクリーンに展開される日本列島の誕生や、フォッサマグナと日本海の形成の映像はフォッサマグナミュージアムで必ず見てほしい展示

地質災害に関わる情報をどう伝えるか

森田地質は身近なものであるはずなのに、自分が住んでいる地域の地質ですら、多くの人はあまり関心を持っていません。地学という教科を開講している高校も少なく、基礎的な知識が備わっていない人が多いためか、自分たちの地域にどのような災害リスクがあるかでさえ、興味を持たれず、認識もされていないと感じています。

竹之内私たちは地域の公民館で災害関連の出前講座をすることもよくあります。糸魚川の地質が多様だということは、噴火や地震、地滑り、雪崩、津波など、多様な自然災害のリスクがあることでもあるのですが、そこで教科書的な話をしても理解されないので、糸魚川の暮らしと関連づけて話をするようにしています。

 例えば、軟らかい地層でできたフォッサマグナでは地滑りが起きやすいと伝えたいとき「地滑りが、糸魚川の棚田の景観をつくっている」ということからはじめます。平地が少ない山間地では、地滑りによってできた緩斜面が水田の適地になるからです。地滑り地は地下水が豊富で水もちがいいですし、地滑り後に棚田を復旧させると、お米の収量が増えると言われています。地滑りが自動的に耕してくれるというわけです。「禍福は糾える縄の如し」で、地滑りは災害である反面、恩恵をもたらす側面もあるわけです。活火山は噴火の危険はありますが、温泉も楽しめます。そのような身近にある人間と自然のかかわりから、大地の生い立ちの一現象である自然災害について考えてもらうことを心がけています。

ヒスイ、鉱物、岩石の写真

フォッサマグナミュージアムでは、一大産地であるヒスイを中心に、日本国内や世界のいろいろな鉱物、岩石、化石が多数展示されている

森田情報も伝え方次第ということですね。災害にかかわる情報は伝え続けることも大切です。大きな自然災害が起こると地質に注目が集まりますが、これまでも発信しているはずが、うまく利用されず「想定外の災害」と呼ばれます。また、注目されても一時的なものに終わってなかなか浸透しない。

 火山噴火や地震にかかわる新しい情報は、国への報告や、論文、ホームページなどを通して公表していますが、情報は発信された後、普及し、浸透しなくては活かされません。少し似ていますが、情報の階層としてDIKWという概念があって、Data(データ)が集まるとInformation(情報)になり、それが集まるとKnowledge(知識)に、さらにそれが集まるとWisdom(知恵)になるというものです。「正しく恐れる」とも言われますが、私たちが発信した情報が普及さらに浸透にまで至ったとき、それはきっと皆さんの知識や知恵となって、自分たちで考えて行動してもらえるところまで持っていけるんだと思います。

 不安をあおるつもりはありませんが、富士山は単純に平均すると100年足らずの間隔で噴火しています。しかし、この300年間は噴火していません。南海トラフの巨大地震も歴史的に何度も繰り返されています。ほかの地域も含め、このような火山噴火や巨大地震がふつうに起こりうる現象という認識が浸透するには、どのような伝え方ができるだろうかと考えています。

竹之内糸魚川市の学校ではジオパーク学習を正規のカリキュラムとしており、毎年、市内の学校が集まってジオパーク学習の発表会を開催しています。そこで近隣の学校の発表を聞くことで地域の地形・地質の全体像がわかり、地域の災害を伝える仕組みとして機能していると感じています。

森田なるほど。学校の先生をオピニオンリーダーとして、また自治体などとも連携して地域の情報を伝えていくことが、今後ますます重要になってきますね。

地質情報を発信し続け社会に貢献する博物館となる

竹之内フォッサマグナミュージアムは開館27年を迎えますが、今後50年、100年と存続していくためにも、一般の人や子どもに向けた社会教育の側面を大切にするとともに、地域から信頼される活動を行う、地域に貢献する博物館でありたいと考えています。

 数年前、地域のある川が白濁して、ニジマスが死んだり、田んぼのイネが枯れたりしたことがありました。市からの調査依頼を受け、私たちは地質調査に出て発生源を抑え、分析を行ったところ、地下から温泉が噴き上げて白い粘土鉱物が川に流れ込んだからだとわかりました。迅速に調査し、原因を特定して公民館などで報告を行いましたが、このようなことも私たちのできる地域貢献の一つです。

 また、2016年に糸魚川で大火がありました。出火場所はラーメン店ですが、一気に延焼したのはその日に強風が吹いていたためです。糸魚川-静岡構造線に沿ってできた谷地形が、強い南風が吹き下ろしてくる通路になりました。調べたところ、この地域では、最近の約200年間で14回大火に見舞われていたことがわかりました。つまり、大火は地形からくる風害とも言えるわけで、その因果関係が認められ、先の大火では自然災害による被災者が対象となる「被災者生活再建支援法」が適用されました。地質情報は、人々の暮らし方や自然災害の根っこの情報ですので、積極的な情報発信をして、地域に役立てていきたいです。

森田産総研の研究は、火山の噴火や、地震、津波などの地質災害から、地下資源、環境など幅広い分野に及んでいますので、これらをきちんと発信していくことがさまざまな社会課題の解決につながっていくと考えています。そのためにも研究成果をできるだけ早く、わかりやすく伝え、浸透させ、活用してもらうため、地質標本館としては先にお話ししたように、発信手段の選択とその工夫が必要と認識しています。

 もう一つ、地質情報を発信し続けていくためには人材育成も大切です。地学の世界においても、研究分野が多岐にわたり実際に山に入らなくても研究できるケースが増えています。しかし、伝える立場になったとき、自ら地層を前にして、その場で語れる研究者を育成し続けていかなくては、情報を伝える手段の幅が狭まってしまうと危惧しています。また、そもそもの課題として、地学への親しみを広げることがとても大切ですね。

竹之内まずはどんなきっかけでもいいですから、地質学に興味を持ってほしいですね。若い職員の発想で、アニメ化もされた『宝石の国』というマンガとコラボレーションしたことがあるのですが、その企画展には従来にない来館者層の多くの入場があり、コラボレーションもいいきっかけとなると実感しました。今後も柔軟な発想で、裾野を広げていく活動に取り組んでいきたいです。

森田地質標本館も『恋する小惑星』というアニメで取り上げていただき、作品のファンの方々の来館がとても増えました。例年、来館者アンケートではほとんどの方が満足と書いてくださっていますから、まずは来てもらいたい。アニメなども、そのきっかけをつくってもらえるのはとてもありがたいですね。

 私たちも、発信する情報についてどのように興味を持ってもらうのか、その興味のタネをどのようにまいていけばよいかなど、戦略的に考え、伝える努力を続けながら皆さんの暮らしに役立てていきたいと考えています。


* ジオパーク…地球・大地(ジオ:Geo)と公園(パーク:Park)を組み合わせた言葉で、重要な地質や地形を保護し、地域社会の持続可能な発展をめざすエリアのこと。

産総研 地質調査総合センター
地質標本館(茨城県つくば市)
館長 森田 澄人 Morita Sumito
森田 澄人 館長の写真
フォッサマグナミュージアム
(新潟県糸魚川市)
館長 竹之内 耕 Takenouchi Ko
竹之内 耕 館長の写真

ぜひ来館して、地球の壮大な歴史を体感してください!

産総研 地質調査総合センター 地質標本館
フォッサマグナミュージアム

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国立研究開発法人産業技術総合研究所