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2020.11.30

LINK for Innovation

スマートシティで
新たな価値を創出
人間参加型デジタルツインが
切り拓く未来の街
情報・人間工学領域
人間拡張研究センター
副研究センター長
蔵田 武志 Kurata Takeshi
蔵田 武志 副研究センター長の写真
KeyPointサイバー空間とフィジカル空間が融合された都市“スマートシティ”。この実現に向け、産総研では、例えば3Dマッピング技術に時間情報を統合し、そのうえで、人・物・モビリティの移動や状態を把握することで、サイバー空間上にフィジカル空間を再現しようと、さまざまな実証実験や関連技術の研究開発に取り組んでいる。
Contents

サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合

 「デジタルツイン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。フィジカル空間から取得されるリアルタイムデータに基づき、サイバー空間にフィジカル空間と双子(ツイン)のような空間を再現することを言う。サイバー空間に実世界の双子をつくり上げ、モニタリングデータを分析したり、それに基づいてサイバー空間上でシミュレーションを行ったりすることで、リアルな世界の社会課題の解決につなげることができると考えられている。

 「実空間の変化をサイバー空間に再現するときには、人や車、ロボットなどの移動体の扱いが鍵となります」

 そう話すのは人間拡張研究センターでスマートシティ関連技術の研究開発に取り組む蔵田武志だ。「Society 5.0」構想が推進する「サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合」においては、道路や建物などの詳細な地図情報に加えて、人の流れや物流、モビリティといった常に位置や状態が変化する移動体の情報をいかに把握し、地図情報とどう連携させるかが重要になる。デジタルツインはそれができて初めてつくられるものであり、その技術があってこそスマートシティの実現が可能となる。これは人間拡張研究センターを含む産総研として大事にしている視点でもある。

街と人を高精度に計測、360度VRを実現

 スマートシティを実現する技術の一つに、現実の道路・建物などをレーザーやカメラなどで撮影し、その形状や位置を現実通りに立体的な画像として合成する3Dマッピングがある。高精度なマッピングをするためには、街中やショッピングセンター内で撮影したデータから、写り込んだ人や車などの移動体の情報と地図の情報を切り分ける必要があるが、産総研には高精度な地理空間情報とその情報を固定物と移動体に分別する技術があり、サイバー空間に固定物のみを地図情報化した「ハコ」を作り上げた。

 この「ハコ」を用いて開発したのが「サービスフィールドシミュレータ(SFS)」(左写真)だ。360度に並べたディスプレイには現実の街並み、通りのCGが表示され、その中央にいる人の向きや歩く速さに応じて、CGの風景が自在に変化する。屋外から屋内への移動もシームレスに行え、街中の人の動きを実際と同様な環境の中でシミュレートすることができる。

 「ゴーグル型の装置とは異なり、このSFSでは常に全方位の画像が表示されているため、視野全体で映像を捉えられ、方向を変えたときの遅延も起こりません。両手が自由に使え、把持した物も見えます。例えば、看板などの配置や案内図の妥当性、スマホを見ながら歩くときの危険性など、さまざまな検証に用いることができます。映画『アバター』のように別々のSFSに人が入り、サイバー空間で会うこともできます。つまり、人間参加型(Human-in-the-loop)シミュレーションが可能となります」

 「ハコ」の中に人が入る技術はできた。では、実際の街の「人・モノ・車」などの移動体については、どのように位置を計測し、「ハコ」情報とともに示すことができるのだろうか。

 産総研はこの技術として、電力不要・通信不要の高精度測位マーカーを開発している(参照:LINK No.30 高精度マーカー)。このマーカーを街中の要所に設置しておき、それをスマートフォンなどで撮影することで、撮影者が地球上のどの位置に立っているかを誤差10 cmという精度で把握できる。車いすや自動走行ロボットの位置確認にも役立てられると期待されている技術だが、さらに、この情報と移動体に設置されたモーションセンサの情報と組み合わせること で、マーカーを見失っても測位を継続することができるようになっている。

データ連携から新しい価値が生まれる

 このように、街や建物という「ハコ」の情報と、その中で活動する「人・モノ・車」などの移動体の情報を取得する技術ができつつある。これらが連携できれば、いよいよ「そこで何が行われているか」すなわち「コト」の情報にたどり着く。「コト」の情報とは、そこで起きている出来事が何なのか、それは緊急性を要することなのか、安全性を脅かすものであるかなどである。これを判別することで今までわからなかったことがわかるようになり、新しい価値が生まれ、新たなサービスを提供できる。

 「混雑緩和や避難誘導のシミュレーション、モバイルのナビゲーションなどのほか、自律走行ロボットによる買い物・配達支援、歩行者やジョギングをする人の身体の動きに基づいた健康支援、各種シェアリングサービス支援などもできるようになるでしょう。サービスがつながり、価値がつながることによって、街と人のデータを連携した意味が出てくるのです」

 スマートシティ実現のためには移動体情報を把握する難しさなどの技術的な課題に加え、得られたパーソナルデータをどう共有するかなど、今後法律的・社会的に解決しなければならない課題も多く、時空間情報を統合したサービスプラットフォームへの道のりはまだ遠い。それでも蔵田は、「Society 5.0が目指す人間中心の社会を実現するために、私たちはスマートシティを構築しなければならないと考えています。そのためには、データ連携に関する社会的コンセンサスの醸成に努めながら、時空間情報プラットフォームの構築や、各種デジタルアーキテクチャの標準化を進め、新たな産業基盤の創出に貢献していきます」と力強く語った。

情報・人間工学領域
人間拡張研究センター
副研究センター長 蔵田 武志 Kurata Takeshi
蔵田 武志 副研究センター長の写真
産総研
情報・人間工学領域
人間拡張研究センター
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