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2020.04.30

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フィジカルとサイバーを 融合させた街づくり
柏の葉スマートシティ構想
三宅弘人さん、持丸正明さんの写真
KeyPoint千葉県柏市の柏の葉では、2000年から三井不動産、柏市などが中心となって、公・民・学の連携による未来志向の街づくりが進められている。2018年11月、産総研はこの街に新拠点「柏センター」を設立し、2019年4月の本格稼働以降、企業や地域の大学、医療機関などとともに、街を舞台に社会課題の解決につながる人間拡張技術の研究開発を行っている。
Contents

社会課題の解決に向け街とデータをつなぐ課題解決型のスマートシティ構想

三宅三井不動産は柏の葉の街づくり事業を2000年から行っていますが、2008年にキャンパスタウン構想ができ、課題先進国である日本で必要なのは課題解決型の街づくりだと考えました。そこで、「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」という3つのテーマを掲げ、未来のスマートシティをつくろうということになったのです。ただ、スマートシティという言葉の意味は、時間とともに変化しました。当初の目的は街全体でエネルギーの有効活用を図る「省エネルギー」「環境保全」でしたが、2011年の東日本大震災以後は「BCP(事業継続計画)」や「レジリエンス(復元力)」など災害に強い街づくりが求められるようになり、私たちは計画を見直しました。その後はクオリティ・オブ・ライフ(Quality of life:QOL)の改善や、データを活用した社会課題の解決など、より幅広い意味で用いられるようになってきたと感じています。

 そして、それを実現する場として2014年に柏の葉キャンパスタウンの中心となるゲートスクェア街区やKOIL(柏オープンイノベーションラボ)もオープンさせています。

持丸国が「Society 5.0」として、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」という未来像を示したのが、ちょうどその頃でしたね。

三宅ええ、そこで弊社が考えたのが、フィジカルな場である街から取れるさまざまなデータをどのようにサイバー空間に取り入れ、活用していけばよいかということでした。しかし、私たちにはそういう知見はありません。

 そんなとき、柏の葉に産総研が新拠点「柏センター」をつくることになったとお聞きしたのです。産総研の力はフィジカルとサイバーを融合させた課題解決型の街づくりを進める端緒になると感じました。また、柏の葉で公民学連携を進めていく中で、それらをうまくつないでくれる存在がほしいとも感じていたので、「技術を社会に」という言葉を掲げる産総研は、連携の成果を実際に街の中で実現していくためのよいパートナーになるとも思いました。

持丸柏センターが設立され、新拠点でどのような研究を行っていくのか、産総研内外の方々と議論を重ねた結果、人間拡張というテーマを先駆的に進める新しい研究ユニットを立ち上げることになりました。

 準備を進める中で、柏市と三井不動産が未来都市創造という理念のもとにゼロからつくりあげてきたこの柏の葉では、この街を活かすための研究が求められていると知りました。さらに、柏の葉のスマートシティ構想には、インフラ面だけではなく健康長寿やQOL、新産業創造という要素が入っているので、人間拡張研究と結びつけやすいかもしれない、と考えました。

 ただ、街を活かした実験を行う、すなわち街を実験場にすると言っても、街のフィジカルなデータを使うためには、住民の方々の合意が必要です。そこで大切なのが、「社会課題の解決」という共通の目的を設定し、「この課題は解決しないといけない」という認識を持ってもらうことです。そのためには、「データを活用すると、一部の住人だけではなく地域の多くの人に役立つので、データを使わせてください」というお願いに対して応えやすくなる場をつくることから始める必要がありました。

三宅住民の方が納得してデータを拠出してくれなければ、サステイナブルなものにはなりません。その点、柏の葉には先駆的な試みに対して受容性の高い人が集まっています。私たちはここを実験都市にするつもりはありません。きちんとした快適な生活の場であることが大前提で、そのうえで新しいことを試みるには適した街だと思います。

街への思いとエンゲージメント

持丸実は柏に来て、私たちの活動に足りないものがあると感じるようになりました。それは「街への思い」「エンゲージメント」です。柏の葉の住民はこの街への思いが強く、街がよくなることに貢献したいという気持ちで協力してくださるのですが、産総研の研究者はほとんどが市外在住で、社会課題を解決する研究も、エンゲージメントではなくミッションとして進めていたところがあります。以前、「それでは街を利用するだけではないですか」と批判されたこともありました。

 しかし、それが2019年11月の柏センターの一般公開やオープンハウスをきっかけに変わりました。若手の発案で「街の課題発見カフェ」を設け、地元の方々と直接話をしたことで、私たちも街の構成員なのだという思いが出てきました。この街を未来のために変えていくんだ、という思い入れを持つ大切さにも気づきました。

三宅実際ここには、この街だから住んでいるという人が多く、私たちにも、住民の方々のそのような思いに応えなければならないという使命感、義務感があります。だからこそ普通のニュータウンではなく、課題解決型の超スマートシティをつくろうとしているのです。ただ、これまではハードとソフトをつなぐところと企業と住民と大学などの研究機関をつなぐところが欠けており、その点において産総研と私たちは、とてもよい組み合わせだと思っています。住民だけでなく、就業者や学生など「街の生活者」との連携が大切です。

持丸人間拡張研究センターのメンバーは、技術を社会実装につなげるまでの一貫した研究をしており、よい技術でも簡単には社会実装できないことも知っています。実際、経済性やその技術を利活用する側のアクセプタビリティ(受容可能性)がセットにならなければ、社会に浸透させることはできません。

 アクセプタビリティを高める一つの解は、文化を変える力を持つことです。かつては「携帯端末で動画を見るなんて技術的に難しいし、小さい画面で見る人もいない」という説が一般的な時代がありましたが、今や、スマートフォンで動画を見ることは当たり前で、動画をつくって発信することも盛んに行われています。一度動画をつくることが定着すると、カメラの性能は上がり、画像加工技術など追加される技術が増えても受け入れられ、あっという間に文化が変わりました。私たちが直面している高齢化社会におけるQOLなどのさまざまな課題は、このような動きで文化を変えることによって解決できるかもしれません。そのときに重要なのが、アーリーアダプター(初期採用層)を獲得することです。ネット上のサービスの成長の速さは、このアーリーアダプターを全国から、そして世界中から集められることに関係します。一方で、フィジカルな場でのサービス展開は、地域の中に一定以上のアーリーアダプターがいないと難しいものです。私たちは三井不動産と一緒に、この柏の葉に新サービスのアーリーアダプターを育てていきたいですし、この街を社会実装研究の突破口にしたいと考えています。

新産業創造につながる「共創場」づくりが重要

三宅街づくりは時間がかかる事業で、柏の葉でもこれまで数多くのトライ&エラーを繰り返してきました。新しいサービスをつくるにしても、いつ産業ベースに乗せられるかわからないところがあります。その点、性急に結果を求めず、長期的な視点で取り組んでくださる産総研のスタンスは有り難いですね。また、研究機関でもあり、ビジネスコンサル的な視点も持ち、さらに社会実装を目的としているという機能の多様さも、産総研の魅力だと思っています。

持丸技術を企業に「橋渡し」することが産総研の使命のひとつですが、素材をつくって企業に渡せばよい技術がある一方、人間拡張技術のように、さまざまな技術やサービスを組み合わせて一つのシステムとしなくてはならないインテグレーション型の技術もあります。後者の場合は、相手の懐に入り、相手に利益が出るようにしなくては進めていけないので、確かに私たちの研究にはコンサル的な機能も持っているかもしれません。

三宅KOILではベンチャー支援を行っていますが、そこでよく指摘されるのがメンター機能の重要性です。何かと何かを結びつけ、化学反応を起こすいわば触媒のようなメンター機能こそが新産業を生み出す推進力となるわけです。その点、人間拡張研究センターにはメンター的な役割で柏の葉のQOLなどを進化させてくれる可能性を感じています。

持丸柏センターで開催しているデザインスクールは、まさにメンターとサービス開発者、サービス提供者、サービス利用者らが一つの場に集う「共創場」となることを目指すものです。

三宅新産業の起こる海外の街には、何か面白いタネができると、すぐにいろいろな立場の人が集まり、パッと製品やサービスをつくりあげてしまうというスピード感や、やんちゃさがあります。柏の葉をそのような場として盛り上げていけたらと、私たちは今、コミュニティーづくりと合わせ、さまざまなデータのプラットフォームづくりにも取り組んでいます。

持丸今は、各サービス事業者が持っているデータはそもそも個々でのみ使用することを目的に取得されたものであるため、同じデータでも項目名が異なるなど技術的な面も含め、連携するために必要な調整が数多くあります。しかし、三井不動産がプラットフォームをつくり、複数のサービス提供者がいるのであれば、その間で何らかの合意をとって、ある部分は連携できるようにしたいですね。このとき、技術的にデータをつなぐことができるか、それらのデータを使って何らかの新しい価値を生み出すことができるか、という2点がチャレンジとなります。

三宅そうですね、例えば今、歩数計のデータも検診データもストックしていて、さらに家計簿アプリも使っているという人がいても、それぞれのデータはバラバラに存在しています。しかし、それらを結びつけ、さらに、例えばゲノム解析結果なども組み合わせることで、もしかしたらがんに関する課題が解けてくるかもしれないわけです。しかし、そのデータを買う人がいなければ情報ビジネスにまでは進化しません。いかにそこで価値をつくれるかが、今後は非常に重要になってくるでしょう。

持丸今、私たちは三井不動産と、GPSがなくてもカメラ一つで位置を測定できる高精度マーカーを活用した測位システムの構築や、ロボットを用いた移動支援や介護支援などの実証実験に取り組んでいます。これらのデータがつながると、例えば、街中や施設内の転倒リスクの高い場所を3次元的に抽出することができ、この情報から転倒予防の取り組みや、改善に向けた自治体への働きかけといった次のアクションにつなげられるようになります。

 私たちはここで、①共創の場をつくり、これまでもしてきたように②サービスコンポーネントをつくり、さらに③データをつないで価値をつくることを目指していますが、特に、①と③を考えることから、継続してコンポーネントが生まれる仕組みをつくる役割があると考えています。

三宅柏の葉のスマートシティは国のモデル事業になっていることもあり、よく「成功の秘訣は」と聞かれますが、それには「成功するまで続けること」と答えることがあります。データプラットフォームの構築も同じで、最初はデータが蓄積されていないので、価値が出るまで続けることに意義があります。すぐに結果が出なくても、次世代につなげる価値はあると思っています。

持丸東京一極集中への懸念は高まり、どの地域も活性化を模索しています。この街の取り組みが注目され、課題解決型スマートシティのフラッグシップになるとよいですね。

三宅ここではフルメニューであらゆることを試み、可能性の引き出しを増やしていますが、他の都市でこれらのすべてを実践する必要はありません。それぞれの地域の実状に合わせて何かひとつを試すことで、課題解決型の街づくりを進めることはできるのではないでしょうか。

 私たちもここだけで終わらせるのではなく、スマートシティ構想を横展開して日本全体に広げていくことを考えていますし、さらには社会的企業として、地方創生のために、どのように各地域の社会課題を解決していけるか考え、取り組んでいくつもりです。

 柏の葉自体、まだ成功しているわけではありません。中長期的な視野を持った公的機関である産総研とともに、これから何ができるか、大いに期待し、楽しみにしています。

三井不動産株式会社
柏の葉街づくり推進部
部事業グループ
グループ長 三宅 弘人 Miyake Hiroto
三宅 弘人 グループ長の写真
人間拡張研究センター
研究センター長 持丸 正明 Mochimaru Masaaki
持丸 正明 研究センター長の写真

課題解決型スマートシティで試したい技術がある方は、ぜひ一度ご相談ください。

産総研 柏センター
情報・人間工学領域
人間拡張研究センター

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国立研究開発法人産業技術総合研究所