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読んで学ぼう

燃える氷 メタンハイドレート

2020年8月掲載

燃える氷


冷凍庫から取り出した氷?に火をつけると…

「燃える氷」と呼ばれるメタンハイドレートの存在が、日本周辺海域の広い範囲で確認されており、新たな国産天然ガス資源として注目されています。

海の底にはプランクトンの死骸などが堆積し、やがて発酵してメタンガスを発生させます。ハイドレートはそのメタンガスの分子を包みこむ形で形成されるのです。つまり、今この瞬間にもメタンハイドレートは増え続けているのです。

ここでは、このメタンハイドレートを天然ガス資源として利用するための研究開発について紹介します。

メタンハイドレートとは

水とメタンガスを低温・高圧の条件下で混ぜると、水分子でできた「かご」の中にメタン分子が取り込まれ、氷のような化合物ができます。これがメタンハイドレートです。

図2

見た目は氷とそっくりですが、動画のように火を近づけると炎が上がることから「燃える氷」と呼ばれています。なぜ氷とそっくりのメタンハイドレートが燃えるかというと、メタンハイドレートは室温、常圧で水とメタンガスに分解するため、分解したメタンガスが燃焼して炎が上がります。このメタンハイドレート1cm3あたりには、約160ccのメタンガスに相当するメタン分子が取り込まれています。

どんな場所にあるのか

メタンガスと水があり温度が低くて圧力の高い環境であれば、メタンハイドレートが自然界に存在する可能性があります。実際に、地表が氷雪で覆われた永久凍土地帯や海洋の海底面~海底下でその存在が確認されています。この関係を図でみてみましょう。

メタンハイドレートが自然界で存在する条件のイラスト
メタンハイドレートが自然界で存在する条件
海洋(左)、永久凍土地帯(右)

自然界では深度が深くなればなるほど圧力(赤線)が高くなります。左の海洋では海面から海底面に向かって温度(青線)が下がっていき、海底面から下では地熱の影響で温度が上がっていきます。右の永久凍土地帯でも深くなるにつれ温度が上がります。

温度が低くて圧力が高い条件が揃った領域(点線内)にメタンハイドレートが存在する可能性があります。

自然界のメタンハイドレート

自然界のメタンハイドレートは、地層の中で微生物が有機物を徐々に分解して生成された(微生物起源)メタンか、あるいは有機物が地熱の作用で分解された(地熱分解起源)メタンによってできていることが確認されていて、地層(砂/泥など)の違いによってその存在形態が大きく異なります。

世界で見つかっているメタンハイドレートのほとんどが、海底面付近の泥砂中に大きな塊状の結晶として存在していたり、泥の多い地層に板状や層状に存在していたりします。このようなメタンハイドレートは、「表層型」もしくは「泥層型」と呼ばれます。また、小さな砂粒でできた地層の細かい隙間にメタンハイドレートが充填して存在する場合もあり「砂層型」と呼ばれます。

メタンハイドレート試料
自然界から取得したメタンハイドレート試料
表層型(左)、泥層型(中央)、砂層型(右)

日本のメタンハイドレートと資源開発

海に囲まれた日本周辺にもメタンハイドレートの存在が確認されていて、日本では南海トラフや日本海で集中的に調査が行われています。

南海トラフでは海底下150〜350m程度の地層にたくさんの天然メタンハイドレートが眠っています。これまでの調査結果から、東部南海トラフでは砂層型と呼ばれる存在形態であることがわかりました。この砂層型メタンハイドレートは世界でも珍しいだけでなく、石油・天然ガス掘削の既存技術をメタンハイドレートからのガス生産技術に転用できる可能性があることなどから、東部南海トラフに分布しているメタンハイドレートは天然ガス資源候補として注目を浴びています。

一方、日本海では表層型と泥層型のメタンハイドレートが数多く確認されており、日本周辺の海域だけでも色々な形態のメタンハイドレートが見つかっています。

経済産業省主導で2013年と2017年に東部南海トラフ海域にて天然ガス生産テストが行われました。これらのテストは2023年から2027年度の間の民間主導の商業化プロジェクト開始に向けた大きな一歩です。実際のフィールドでの生産試験と実験室でのテストを繰り返しながら、メタンハイドレート資源の商業化に向けた研究を行っています。

産総研での取り組み

海底からさらに深い地層にあるなんて掘るのが大変なことが簡単に想像できると思いますが、海底の下にメタンハイドレートがあるのか、あったとしてどれくらいあるのか、実際にメタンハイドレートの調査はどうやるのでしょうか。

一般的には、地震波などを用いて調査する地震探査、地層を掘削しセンサーを使う物理検層、そして地層から地質試料を取得して解析するコア分析を行い、海底面より深い地層の状態を調べます。

ここでひとつ問題があります。低温で高圧の環境に存在するメタンハイドレートをそのまま掘り上げると、メタンハイドレートは分解されてしまうのです。

私たちは、実際のフィールドテストを行う試験地の海底下のメタンハイドレート層から、地質試料に圧力をかけたまま、メタンハイドレートの分解なしに研究室まで運搬し分析する、保圧コア解析技術を開発しました。メタンハイドレートの分解がないため、地層の中と同じ状況での物性を評価することが可能となります。

また、得られた保圧コアの物性値と地震探査や物理検層で取得したデータを用いて、メタンハイドレート層のモデル(貯留層モデル)を構築し、生産性や地盤変形を数値計算により評価するための生産挙動予測シミュレータ(MH21-HYDRES)および地層変形シミュレータ(COTHMA)の開発を行いました。

保圧コア分析技術の関連装置写真
開発した保圧コア分析技術

調査する現場(フィールド)での生産試験にあたっては、開発した保圧コア解析技術を使って試験地の地質試料の解析と、生産試験海域のメタンハイドレートの貯留層モデルを使って、生産挙動予測シミュレータにより期待されるガス生産量評価などの事前検討を実施しました。

これにより、実際のフィールドでの生産試験における掘削する位置などの試験計画をたてるのに貢献しました。

また、生産試験後には、実際のフィールドでの生産試験結果とシミュレーション結果との比較検討を実施し、メタンハイドレートの貯留層モデルの精度を高めたり、生産挙動予測シミュレータの誤差をより少なくしたりする研究を進めています。

人工的に作ったハイドレートの活用

水素や窒素、二酸化炭素といったメタン以外のガス分子も、水と低温・高圧の条件下で混ぜると、水分子でできた「かご」の中にガス分子が取り込まれます。一般的にガスハイドレートと呼ばれ、メタンハイドレートもガスハイドレートの一種なのです。

ガスハイドレートのイラスト
ガスハイドレートイメージ図

メタンハイドレートでも述べましたが、ガスハイドレートは、ガス密度が水1cm3あたり約160ccとたくさんのガスを取り込むことができます。また、少し難しい話になりますが、単位質量あたり水の13倍の潜熱を有するなど生成・解離熱が高く、生成・解離の差圧が0℃で350kPa/Kと大きく、さらにガスによって相平衡が大きく変化し高い反応選択性を有するなどのすごい機能的特徴を持っていることが知られています。

私たちはメタンハイドレートの資源開発研究と合わせ、こういった機能的特徴を活用した技術として、高い生成・解離熱を利用した蓄熱材やヒートポンプ冷媒の開発や、高いガス反応選択性を利用した硫化水素や二酸化炭素などのガス分離・回収技術の開発などの研究も行っています。

ガスハイドレートの機能活用技術体系のイラスト
ガスハイドレートの機能活用技術体系

おわりに

メタンハイドレートは、日本の排他的経済水域内にある国産の天然ガス資源候補です。私たちは、経済産業省資源エネルギー庁からの受託研究として、民間が主導するメタンハイドレートの商業化生産の実現に向けて、必要な技術開発研究を、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と日本メタンハイドレート調査株式会社(JMH)と協力しながら実施しています。

いつの日かこの燃える氷メタンハイドレートが地球のエネルギー問題解決の大きな一手となるかもしれません。