Vol.7 No.2 2014
8/78

研究論文:通信の大容量化に対応する「長さ」の国家標準(稲場ほか)−72−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)い、最終的には時間周波数・長さ標準の信頼性向上に寄与したいと考えた(図4)。しかし、当時ファイバーコムがTi:Sコムと同等の性能が得られる保証はなかった。実際にファイバーコムを開発し、Ti:Sコムを置き換えるまでには、いくつかの研究ステップを踏む必要があった。ここでは光コムの開発初期に企業と行っていた共同研究の段階から、システム全体を産総研内で製作する体制への移行、そして製作ノウハウを確立していく過程について述べる。4.1 オフセット周波数の検出から絶対周波数計測へ-企業との共同研究モード同期Ti:Sレーザーは波長800 nm帯で、モード同期ファイバーレーザーは波長1550 nm(光通信帯波長)帯でそれぞれ発振する。また、Ti:Sレーザーの出力と光パルスの時間幅がそれぞれ300−800 mW、10−30 fsであるのに対し、ファイバーレーザーではそれぞれ1−10 mW、100 fs程度である。このように特性が大きく異なるパルスのスペクトルを広帯域化する条件を見つけなければならなかった。また、Ti:Sレーザーでは800 nm付近にゼロ分散波長を持つフォトニック結晶ファイバーを用いて広帯域化するが、波長1.5 µm帯で発振するファイバーレーザーには直接利用できない。当時共同研究を行っていた企業はモード同期ファイバーレーザーで世界有数のシェアを持ち、最先端の開発品でありながら信頼性に優れたレーザーを産総研に提供した。我々はそのレーザーを用いて波長778 nmと1556 nmの周波数リンク[9]など、モード同期ファイバーレーザーとしては世界初の周波数計測を実現した。さらに、このレーザーの第二高調波をフォトニック結晶ファイバーで広帯域化することでfCEO信号検出を目指した。Ti:Sレーザーの場合と比較して長いフォトニック結晶ファイバーを用いても、広帯域化された光コムのスペクトル拡がりは1オクターブに満たなかったが、レーザーの第三高調波と、フォトニック結晶ファイバーにより広帯域化された光コム成分を波長520 nm帯で干渉させる、新しい自己参照法を開発し[10]、世界で初めてファイバーコムのfCEO信号を観測することに成功した。そしてほどなく、1.5 µm帯にゼロ分散波長を持つ高非線形ファイバーにより、1オクターブに拡がった光コムが得られるようになった。制御系も含めたシステムについても企業と共同で開発し、ファイバーコムを用いた安定化レーザーの絶対周波数計測に世界で初めて成功した[11]。4.2 自家製作への移行から長期連続動作へファイバーコムによる絶対周波数計測が可能になると、次の段階として「目的や用途に応じた仕様のカスタマイズ」「異なる用途のために複数の装置を準備」などの要求が生じた。そのためには企業からレーザーシステムの提供を受けるのではなく、自身で部品から組み立てるのが早道であろうとの結論に達した。幸い、波長1550 nm帯用のファイバー部品や光学部品は大きな産業分野である光通信で用いられるため、安価で優れた製品が多い。また、我々はコムの研究に従事する以前にCWファイバーレーザーの研究開発にも携わっており、ファイバー光学系について技術的な知見があった。そこで、ファイバーコムシステムを所内で製作すること(以下、自家製作)が次の目標となった。2004年末頃、自家製作を開始するに当たり、上述した 光格子時計への応用企業への技術移転、大学との共同研究長さの国家標準器の開発国際比較への貢献光通信帯波長のレーザー周波数の校正研究目標(夢)要素技術 ・電気光学変調器の採用 ・共振器長制御の高速化 ・低雑音レーザーへの位相同期 の実現光コムの制御帯域の広帯域化 ・出力スペクトルの評価 ・オクターブ広帯域化の実現高非線形ファイバーの評価 ・多ブランチ化 ・分散調整による光パルスチャープ 量の調整と高出力増幅の実現増幅器の設計・製作 ・ファイバーレーザー製作の経験 ・オシレーターの分散調整モード同期ファイバーレーザーの設計・製作 ・778 nmと1556 nmの周波数リンク ・新しい自己参照法の開発 ・オフセット周波数の検出 ・絶対周波数計測の成功ファイバーコムの初期の評価時間周波数・長さ標準の信頼性向上堅牢で低雑音なファイバーコムの自家製作図4 ファイバーコムを自家製作するための要素技術から、研究目標へのシナリオ

元のページ 

page 8

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です