Vol.7 No.2 2014
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研究論文:通信の大容量化に対応する「長さ」の国家標準(稲場ほか)−70−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)トルの集合として観察される。周波数軸上でのスペクトルの拡がりとモード間隔は、それぞれ時間軸上での光パルスの鋭さ(時間幅)と光パルス列の間隔時間の逆数である。そして、これら周波数軸上の各線スペクトルは連続光であり、それらの位相が同期していて全体として光パルスを形成していると考えることもできる。光コムの最も重要な特徴は、線スペクトルの周波数間隔が波長に依らず一定であることである。例えばファブリー・ペロー共振器に代表される光共振器の縦モードは、光コムに良く似たスペクトルを有しているが、その縦モード間隔c / 2nL(cは光の速さ、nは位相屈折率、Lは共振器長)は大気や共振器の分散の影響により変化してしまう(波長に伴いnが変化する)。これに対し、光コムのモード間隔はモード同期により等間隔になるため、波長に依らず一定である。そのため、図1に示すように、ゼロから数えてN番目の、光領域のコム・モード周波数ν(N)はN) = fCEO + N・frep (1)と記述できる。ここでfrepは隣り合うコム・モード間の周波数間隔であり、時間軸上の超短光パルス列の繰り返し周波数に等しい。Nは数万~数百万の整数である。またfCEOは、光コムの各モードのN・frepからの一様なオフセット周波数である。この式から、数10 MHz~数100 MHz(以下、マイクロ波周波数)であるfCEOおよびfrepを決めれば、180~600 THz(近赤外~可視波長に相当)であるν(N)が一意に決まることがわかる。特に、マイクロ波周波数であるfrepが整数倍(逓倍)されて光周波数領域の周波数になっていることが重要であり、光コムはマイクロ波周波数と光周波数を繋ぐ周波数逓倍器(または分周器)と考えることもできる。数百テラヘルツの光周波数に比べて、fCEOの値は極めて小さい。しかし、fCEOは光領域の周波数とマイクロ波領域の原子による標準からの周波数を関係づける重要なパラメーターである。fCEOを検出するためには、光コムのスペクトルが「1オクターブ」、すなわち周波数でν~2ν(波長では2λ~λ)以上の拡がりを持つことが重要である。図1にfCEO観測の方法を示す。スペクトル拡がりが1オクターブを超えることは、N番目と2N番目のモードが実在することと等価である。N番目のモードの第二高調波と、2N番目のモードとの差周波数がfCEOとなることから、fCEOを実験的に観測することができる。モード同期レーザーの出力スペクトルは光コム状であるが、通常その拡がりは1オクターブに届かない。そこで、フォトニック結晶ファイバーや高非線形ファイバー等の大きな非線形光学効果を持つ媒体[7][8]を用いて光スペクトルを広帯域化する。その際、元々のコム・モードは自己位相変調、四光波混合、ラマン増幅等といった非線形光学効果により、周波数間隔を保ったまま外側に拡がっていく。この、光周波数領域で1オクターブもの拡がりを持つ「周波数のものさし」には、周波数の計測・標準分野をはじめとして多くの応用がある。3 Ti:Sレーザーによる光コムの課題とファイバーコムによる解決初期の光周波数コムは、モード同期レーザーとしてTi:Sレーザー、そして、広帯域化にはフォトニック結晶ファイバーという非線形媒質を用いていた。これらは光コムを実現し、大成功を収めたものではあるが、実用化に多くの課題が残されていた。ここでは、その中でも解決しなければならない重要な課題と、ファイバーコムでそれがどのように解決されるかについて述べる。3.1 励起レーザーが大型かつ高価であることTi:Sコムの概要図を図2に示す。Ti:Sレーザーの励起には高出力の固体レーザーを使用し、市販されている典型的なレーザーヘッドと制御装置は、写真のように比較的大きなものである。また、励起レーザーおよびTi:Sレーザー本体には水冷装置が必要である。さらに、光コム用のTi:Sレーザーに使われる出力5−10 Wの励起レーザーは非常に高価であり、定期的に必要となる消耗品交換もまた高価である。一方、ファイバーコムシステムの場合、図3に示された概要図の通り、励起光源として右下の写真のようなバタフライ型パッケージに組み込まれた小型の半導体レーザーが使用される。その制御装置も固体レーザー用のものよりかなり小型であり、システムとしてTi:Sコムよりも遙かに小型化し得る。価格的にもTi:Sレーザーの励起用固体レーザーの1/100程度である。また、モード同期ファイバーレーザーは水冷装置を使う必要がない。3.2 長期連続稼働の困難さTi:Sコムは、長期連続運転させるのが難しい。理由はいくつかあり、一つには光コムの広帯域化に用いるフォトニック結晶ファイバーへの光結合の不安定性である。フォトニック結晶ファイバーはコア径が約2 µmと小さいため(通常のシングルモードファイバーのコア径は約10 µm)、温度変化などによるレーザー光とファイバーコアの相対位置の変動が生じやすい。その上、大型の励起レーザーはそのビームポインティングが不安定であることが多く、Ti:Sレーザーのビームポインティングも不安定になりがちである。その結果、レーザー光のファイバーへの結合効率は時間と共に変化し、光コムの安定化に欠かせないオフセット周波数、お

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