Vol.7 No.2 2014
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研究論文:糖鎖プロファイリング技術がもたらすパラダイムシフト(平林)−114−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)おいては、気付く、気付かざるにかかわらず、糖鎖課題に面しているはずである。我々が糖鎖を研究する理由は、それが重要で、普遍的で、そして難しいからである[39]。糖鎖の存在が極めて幅広い点を忘れてはいけない。このことは糖の起源が古いことの裏返しでもある。逆説的な表現になるが、「糖鎖は重要だから存在するのではなく、存在したから重要になった」と言うのが著者の考えである[40]。合成技術には大きな課題が残されている。均質な糖鎖によるバイオ医薬品づくりはバイオロジクスの大きな目標である[41]。ツールとして評価されつつあるレクチン(アレイ)であるが、レクチン自身も大化けする時が来るかもしれない。6 総括:この技術の構成要素と融合の契機最後に、本レクチンマイクロアレイ技術がどのように構成されていったのか、核となる技術要素とそれらの融合、ブレークスルーとなる契機を検証してみたい(図7)。まず、糖鎖に対する解析技術開発のニーズがあったこと。そして、これを開発する契機が2002年に著者に訪れる。当時著者は大学でFACの高性能化を達成するが、このことはレクチンを利用して糖鎖のプロファイリングが可能という発想の転換の契機を与える。およそその直後に産総研への入所、糖鎖構造解析プロジェクトへの参加が決定し、当時絵に描いた餅に過ぎなかった糖鎖プロファイリングの構想が、関連企業との連携、原理検証を経て着実に推進される。2003年基本特許の出願、2005年学術論文の発表、2006年糖鎖プロファイラーの上市が順調に達成される。しかし、この技術の開花はそれ以降も、次の糖鎖機能解析プロジェクトにおけるバイオマーカー開発で活用されるほか、GLITという成果促進のための組織活動により、より幅広い活路を見いだしていく。このことは糖鎖の産業界への橋渡しを強く後押しした。一方、あらたな応用展開の一つとして、幹細胞評価技術におけるrBC2LCNという新規未分化マーカー検出プローブの発見がある。これは再生医療における未分化細胞の検出、除去という新たな筋道や、組み換えレクチンへのシフト、という新たな展開への推進力にもなっている。レクチン工学と言う新しい学問領域への突破口が開けたとみるべきかもしれない。一連の出来事を振り返り、もっとも重要なポイントは何であったか。著者は糖鎖・レクチン間に代表される「弱い相互作用」への徹底した技術探求ではなかったか、と思う。FACが原理的にそれを達成しえたが、糖鎖プロファイリングという着想にたどり着くには高性能化によるハイスループット化が必要であった。しかし、FACでは生体組織由来の粗抽出液は扱えないため、レクチンアレイという全く別のプラットフォームに鞍替えすることが必要であった。そこで、弱い相互作用を捉えることが可能なエバネッセント波励起法に注視した。同時期にレクチンアレイを考案するグループは複数あったが、結局最終性能を出しうる製品開発にまで漕ぎつけたのは、著者らのグループのみであった。弱い相互作用を検出可能とするエバネッセント波励起蛍光検出原理に躊躇なく拘ったのは、実は著者がこの光学分野の素人であり、それ以外の技術によそ見をしなかったためかもしれない。事実、理論上「エバネッセント=高感度」ではないが、本開発によるエバネッセント波励起式スキャナーの精度・感度を上回る装置は今日まで出現していない。図7 レクチンマイクロアレイ技術の構成に関するまとめ がんマーカー、幹細胞、レクチン工学など応用展開、成果普及(GLIT活動、2007~)製品化(2006)重要な技術上のポイントFACもエバネッセント検出原理も「弱い相互作用」の検出に適している点。エバネッセントにこだわったことで世界最高性能(感度、再現性等)を達成・SchriemerらによるFAC-MS開発に啓発(1998年、Ole Hindsgaul のWhistler賞受賞講演)。・基礎研究に没頭した大学時代、FACの原理開発者の研究室でレクチンの物質生化学を探求(1982~)新たな考え方:発想の転換と契機「糖鎖プロファイリング」〈レクチンの特異性をプロファイルするのではなく、レクチンで糖鎖構造をプロファイルする〉〈糖鎖をタンパク質から切り離さずそのまま解析〉筆者の場合、発想の転換はFACの高性能化が契機(スループットが向上し解析数が増えたことでレクチンアレイの具体的イメージが浮かぶ)時代の要請複雑な糖鎖構造を簡便に解析する技術開発日本が世界に先んじていた強み可能性を実現する場産学官連携の土壌が熟成経産省・NEDOプロジェクト契機となる出来事田中耕一氏のノーベル賞受賞(2002.10)産総研への入所(2002.11)要素となる技術レクチン糖鎖相互作用解析法(FAC)エバネッセント波励起蛍光検出原理

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