Vol.7 No.2 2014
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研究論文:通信の大容量化に対応する「長さ」の国家標準(稲場ほか)−69−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)である。1990年代から、大容量化に向けた波長多重伝送の導入が始まり、いずれ高精度な光周波数管理が必要となることが予想された。そのため波長1.5 µm帯の安定化レーザーを周波数標準として勧告リストに追加すること、および光通信波長帯のレーザー周波数測定技術の開発が求められていた。また、日本ではヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザーが特定標準器となっていたため、光通信帯の安定化レーザーがこの特定標準器へトレーサブルであることも求められていた。これまでの周波数チェーンを用いた光周波数計測の困難を打破する最初のブレークスルーは1999年にやってきた。ドイツと米国のグループがモード同期レーザーを用いた「光周波数コム」(以下、光コム)を用いてレーザー周波数の絶対計測を実現し[5][6]、この分野において極めて大きな技術革新が起こった。光コムは大きな成功を収め、レーザーの周波数をセシウム原子周波数標準の精度(平均時間や発振器の種類により11~16桁)で測ることが可能になった。一方、光コムにより(比較的手軽に)光周波数とマイクロ波周波数が繋がったことは、セシウム原子時計に代わる次世代周波数標準としての「光時計」の研究にも大きな弾みをつけた。光コムの発明に関わったホール(J. L. Hall)とヘンシュ(T. W Hänsch)は、「光周波数コム技術を含む、レーザーを使った精密分光の発展への貢献」が評価され、2005年度のノーベル物理学賞を受賞した。しかし、ホールとヘンシュが開発した光コムによりすべての問題が解決されたわけではない。光コムを実用的なツールとして種々の分野に応用するためには、当時の光コムに用いられてきたモード同期レーザーであるチタンサファイア(以下Ti:S)レーザーやフォトニック結晶ファイバーに関わる問題を克服する第2のブレークスルーが必要であった。Ti:Sレーザーは大型であり、高価で電力消費の大きい励起レーザーを必要とした。また、装置が複雑であるため、光コムとして動作させるには、専門知識を有するオペレーターが必要であった。このため、製品化はいうまでもなく、実験室であっても、長時間にわたり連続動作させることさえ困難であり、実用化には多くの課題を残していた。この研究は、上述した第2のブレークスルーに関わるものであり、これまでのTi:Sレーザーを用いた光コム(以下Ti:Sコム)に代わる、信頼性に優れた光ファイバー型周波数コム(以下、ファイバーコム)の開発がその主体である。この論文では、まず光周波数コムの原理を簡単に説明し、Ti:Sコムの問題点について述べる。次に、これらの問題を解決するためのファイバーコムの概要、およびその製作も含めた研究開発の経緯について説明し、さらに開発の結果得られた代表的成果を3つ紹介する。すなわち、光通信帯レーザーの周波数計測、国際的活動も含めた長さの国家標準、および次世代光周波数標準のための高速制御型光コムについて述べる。2 光コムについて光コムを理解するためには、時間軸上の波形と周波数軸上のスペクトルの両方について考える必要がある。図1に示すように、光コムは時間軸上で観察すると、一つ一つが数~数100フェムト秒の時間幅を持つ光パルスが等間隔で並んでいる超短光パルス列である。一方、周波数軸上ではそのフーリエ変換となり、等周波数間隔で並んだ線スペクfCEO frep (N) = fCEO + Nfrep (N) = fCEO + Nfrep 2 (N) = 2fCEO + 2Nfrep (2N) = fCEO + 2Nfrep X2fCEO 仮想的に延伸したコム・モード群マイクロ波帯の周波数可視~近赤外波長領域の周波数周波数光周波数コム整数(1~1000万)時間軸上では光パルス列フーリエ変換時間図1 光周波数コムの概念図時間軸上で観測される超短光パルス列は、周波数軸上ではフーリエ変換され光コムとして観測される。モード間隔が波長によらず一定なので、仮想的にコム・モードを実在するコム・モードの外側に延伸することに意味がある。RFであるfrepと光周波数であるν(N)を一意に繋いでいる。また、1オクターブ以上に拡がることで、比較的容易にfCEO信号が検出できる。

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