Vol.7 No.2 2014
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研究論文:糖鎖プロファイリング技術がもたらすパラダイムシフト(平林)−112−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)論文発表され、2006年4月糖鎖機能解析を主体とするNEDO新規プロジェクト「糖鎖機能活用技術開発」(MG:Medical Glycomics)が発進する。そして同年12月、医療分野での糖鎖活用を目指す糖鎖医工学研究センターが設立された(成松久研究センター長)。新センターの目標の一つは、これまで蓄積した糖鎖研究成果の普及だった。そのためには、ノンコンペティティブな基礎・基盤研究の状態から、優れた成果をすみやかに産業界へと橋渡しする場が必要と考えた。そこで、産総研内外の関係者と協議を重ね、「糖鎖産業技術フォーラム」(GLIT:Glyco-innovation and Industrial Technology;http://www.glit.jp/wp/)を各種業界団体、関係者とともに立ち上げた。GLITはバイオインダストリー協会(JBA)との共同事業の一環として各種研究会やシンポジウムを通し、産業界に向け糖鎖先端技術の普及と人材交流活動に尽力した。産総研の活動としても新たな取り組みだったことから、所内外でも注目された。産学連携推進の実質的な原動力になる半面、成果主義的な組織ではなく連携推進のためのワンストップ組織だったことから、常に次に何をすべきかを議論し続けなければならなかった。GLITの実質運営には糖鎖医工学研究センター内に新たに設置した連携戦略班の新間陽一班長が大きく貢献した。GLITが直面した課題は、バイオジャパン2008のパネルディスカッション用の以下のスライドにもある程度反映されている。すでに5年前の議論であるが、糖鎖を含むバイオ研究の今後を占う上で参考になる点も多い。•日本の糖鎖研究の位置付けは、世界的にも突出した技術とコア・リソースの保有によりトップレベルにある。 •しかし、さまざまな要因による研究開発の長期化は予算獲得を困難にしている。 •その結果、企業や大学は、新たな糖鎖技術の利用に対し踏み出す「きっかけ」を必要としており、先端技術の利用・普及には多くの課題を残す。•ブレークスルーを目指すには、これらの課題を戦略的にクリアしていくことが重要。•本ディスカッションでは現状分析と課題把握を通し、今後の戦略(技術・人材・しくみ)について討議することで意識の共有を図りたい。GLITの応援もあり、GPバイオサイエンスのエバネッセントスキャナー、GlycoStationTM Reader1200は15台の販売実績を上げている(2013年7月現在)。すでにバイオ関連企業は糖鎖の重要性に気付き、さまざまな業種が糖鎖に興味を示している。ある企業はバイオ医薬品開発や再生医療、さらに腫瘍マーカー等のバイオマーカー診断システムの開発に乗り出している。GlycoStationTM Reader 1200は、バイオ医薬品(特にバイオシミラー)開発支援で海外でも注目を浴びている[27]。販売当初は、学術論文における本システムの使用実績が著者らの研究室が独占状態であったが、現在では形勢が逆転しつつある。販路開拓を進めるが故の学術的なコンフリクトもしばしば発生していることも事実である。GLITはその役割をすでに終えたのかもしれない。しかし、GLITの活動とレクチンマイクロアレイは常に連動していたし、多くの技術を先導してきた。最近、レクチンマイクロアレイの集大成と言うべき総説を著者他、開発者グループ(山田雅雄、久野敦、舘野浩章)が著したので詳細はそちらを参照されたい[28]。以下に、いくつかの研究テーマについてレクチンマイクロアレイ、およびその応用展開がうまく機能した例を示す。2)バイオ分野における実用化例上記MGプロジェクトでは、がん等の慢性疾患に注目し、肝線維化マーカーや難治性の肝内胆管がんマーカー等で優れた成果を上げた。いずれの場合もレクチンマイクロアレイが重要な役割を果たした(詳細は成松による文献[2]を参照)。糖鎖医工学研究センターの主軸であったMGプロジェクトを成功に導く一端をレクチンマイクロアレイが担った。開発者としてこれに勝る喜びはない。さて、レクチンマイクロアレイの応用が最初に進んだのは、幹細胞である。国立成育医療センター研究所の梅澤明弘部長(現、副所長)との協力関係構築のもと、成育医療センターの有するバイオリソースを利用した間葉系幹細胞のラインアップに加え、マウスES(胚性幹細胞)やEC(胎児性がん細胞)の解析も行った[29]-[32]。解析のストラテジーは2006年におよそ出来上がり、翌年には解析プラットフォームの成育医療センターへの技術移転を果たすために、著者はNEDOの橋渡し技術研究開発に関するプロジェクトに参画した(正式名:基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発/橋渡し促進技術開発/糖鎖プロファイリングによる幹細胞群の品質評価、安全評価システムの研究開発、開発期間:2007年10月~2009年3月、先導研究)。研究が開始される時、山中伸弥教授による「ヒトiPS細胞作製に成功」とのニュースが入ってきた。世界中が遺伝子リプログラミングの事実に驚嘆した。残念なことに、当時、幹細胞の糖鎖解析を行っている研究者はほとんどいなかった。しかし、未分化細胞の表面マーカーとして知られているSSEA-1/3/4や、Tra1-60/81は紛れもなく糖鎖マーカーである。未分化細胞も含め、さまざまな細胞を、均質に調製できれば、それらの糖鎖プロファ

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