Vol.7 No.2 2014
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研究論文:糖鎖プロファイリング技術がもたらすパラダイムシフト(平林)−111−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)れた糖鎖・レクチン間の解離定数(Kd)はせいぜい10-6 M(1 µM)であり、多くが10-4 M(100 µM)前後である抗原・抗体反応と比べ100倍以上弱いことになる。ガラス端面から入射することのもっとも重要な利益は、ガラス表面の全域がエバネッセント波で励起されることである。顕微鏡のような微小領域ではなく、マイクロアレイというプラットフォームにおけるハイスループットな解析作業はこの端面入射によって達成される。事実、この点は後の特許査定に際し重要なポイントとなった。エバネッセント波励起法を用いる副次的な利点も多い。洗浄操作がいらないので、操作が簡便になり、解析時間の短縮と再現性の向上に結びつく、などである。今日まで、エバネッセント波励起式のスキャナーを用いているのは著者らのグループのみであり、他はすべて共焦点方式(洗浄操作が必要)を採用している。しかし、それでもレクチンアレイとして一応機能しているのは、実際に解析する糖鎖が多くの場合、糖タンパク質では多価の状態になっていて、オリゴマー構造をとるレクチンへの親和力が実用上十分高いことが理由として考えられる[25]。ちなみに、切り出された糖鎖の結合を測定できた例は、本エバネッセント波励起法によるものだけである[26]。しかし、本システムを用いる実際上の利点は何を置いても検出感度の高さであろう。洗浄操作を不要とする本原理において、ある意味当然と取られるかもしれないが、現実にはそれほど単純ではない。高出力ハロゲンランプの採択は高感度化に必須であったが、それ以上に、バックグラウンドの低減化は重要であった。具体的には、光学的に最適なフィルター、スライドガラスの選択、生化学操作における固定化法、ブロッキング法の最適化、画像処法における各種ノウハウ等である。他機種との厳密な性能比較は難しいが、論文等で報じられている試料の使用量、使用者の感想等から、本エバネッセント波励起蛍光検出スキャナーの検出感度は糖鎖関連装置の中でトップに位置する。現システムにおける公称の検出限界値は、RCA120レクチンに対するアシアロフェツイン(代表的血清糖タンパク質フェツインの末端シアル酸を酸処理して除いたもの)、およびアシアロ2本鎖複合型Nグリカンそれぞれで100 pg/ml、100 pMである(使用量約0.1 ml)[26]。レクチンマイクロアレイ(LecChipTM)とともにエバネッセント励起式蛍光スキャナー(GlycoStationTM Reader 1200)は2006年10月、モリテックス(当時)から製造、販売された。3 装置開発まで:企業連携と知財戦略~バイオベンチャーの現実2002年度補正予算でスタートしたNEDO「糖鎖構造解析技術開発プロジェクト」であったが、レクチンアレイ開発に臨むパートナー企業の日本レーザ電子がスタート直後、経営困難で躓き、翌年経営破たんしてしまう。しかし、その間産総研は単独でレクチンアレイの原理開発に成功する。開発を担当していた久野敦氏と内山昇氏の活躍があって、糖鎖プロファイリング原理、およびレクチンアレイ解析法に関する基本特許を2003年12月25日に出願した。その後、(株)モリテックスNLEプロジェクトグループに事業継承されたレクチンアレイ関連グループは、大企業がもつ経営基盤と技術基盤に支えられ、日本レーザ電子時代の面影を強く残す試作1号機とは装いも新たに、製品第一号として本格的な装置が完成した。本成果はNEDOの成功事例としても注目された(http://www.meti.go.jp/committee/summary/0002220/024_02_12b.pdf)。ところが、2008年世界を襲ったリーマンショックを境に会社経営が急激に悪化し、バイオ関連事業は分社化される。紆余曲折の末糖鎖メンバー10数人がGPバイオサイエンス(株)を設立する。この会社は関連業界のバイオベンチャーとして注目され、NEDOの「研究開発のその後を追う:シリーズ1」でも紹介されたが(http://www.nedo.go.jp/hyoukabu/jyoushi_2008/gp/index.html)、経営のやりくりはやはり大変で、結局2013年4月に破産申請と言う局面を迎えてしまう。4 展開1)糖鎖医工学研究センターと糖鎖産業技術フォーラム(GLIT)話が前後するが、上述のように、糖鎖プロファイリング技術は2003年12月に基本特許出願、2005年12月に図6 エバネッセント波励起蛍光検出法によるレクチンマイクロアレイの原理を描いた図糖鎖エンジニアリングプロジェクトのキックオフを兼ねた日本糖鎖科学コンソーシアムの第一回会議(2003年11月3日、東京)で使用されたスライドを元に作成。前出の図3と比べるとかなり進歩している。ICCDCameraSGNEDO Glycan Engineering Project近接場光糖鎖・レクチン間の相互作用を一斉・高感度に検出するアレイシステム100 nmPCレクチンアレイ励起光レクチンアレイ型糖鎖プロファイラーの開発

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