Vol.7 No.2 2014
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研究論文:糖鎖プロファイリング技術がもたらすパラダイムシフト(平林)−110−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)光検出器が読み取るデジタルデータをPC変換し、溶出前端容量(図4におけるV値)を自動算出するアルゴリズムを開発してくれた[13]。高性能蛍光検出式FACの原型が誕生したのである。その後、FACは改良を重ね、自動FACとして(株)島津製作所から受託製造販売された注4)。著者らの開発した蛍光検出を用いるFACはSchriemerらのMS直結式のFACとは操作法や用途が異なり、ほとんど独立した技術として位置づけられている[14][15]。高性能FACは、冒頭述べたNEDO「糖鎖エンジニアリング」(SG)プロジェクトでヘクト・バイ・ヘクトPJ注5)として先陣を切る働きをした。ここでは、多くの既知・新規レクチンの特異性解析が今までにないスピードでなされた。しかし、高性能FACがもたらした最も重要なことは、各糖鎖に、さまざまなレクチンとの反応性という意味で、固有のパターンがあることを明らかにした点だ。すでにそのことは、大学でマニュアル装置をいじっていた時に感じてはいたが、ヘクト・バイ・ヘクトPJの膨大なデータ(図5)は、このことが正しいことを実証した。図5のマトリックスは縦軸(糖鎖の種類)と横軸(レクチンの種類)から構成され、それぞれのマス目が相互作用の強弱を表す。赤が最強、青が相互作用無し、を意味する。さて、このマトリックスを「縦方向」に切ってばらばらにして見ると、各短冊のパターンが異なることに気付く。このことは、各レクチンの糖特異性に違いがあることを示すので、従来からのものの見方を確認しているに過ぎない。では「横方向」に切ったらどうか。各短冊に示された糖鎖毎のレクチンに対する親和性パターンがやはり相互に異なることがわかるだろう。このことは、レクチン親和性という「測り」にかけたとき、それぞれの糖鎖が異なる「指紋」を示すことを示している。もし、FACが高性能化されなければ、スループット向上によって数多くのデータを一覧することはできなかった。FACが弱い相互作用の測定に特に優れた方法であることを思い起こしてほしい(図4の説明参照)。多くの相互作用測定法は強い結合を探すことに適していて、弱い相互作用を測定することに主眼を置いていない。FACでは弱い相互作用に対しても正確に親和力(解離定数の逆数、1/Kdで表される)を求めることができるので、図5のマトリックスには豊かな相互作用情報が付与され、よって糖鎖固有の指紋も容易に見つけることができた。原理証明はできたので、あとは、どのようにして実際に糖鎖プロファイラーを構築するかである。2)エバネッセント波励起蛍光検出法レクチンアレイに蛍光標識した糖タンパク質を結合させ、洗浄操作なしに液相状態のまま結合分子を選択的に検出する方法。相互作用が弱い糖鎖に有効。新しい研究のアイデアはしばしば、およそ同時期に別のグループが独立に思いつく。事実、著者らがエバネッセント波励起蛍光検出原理によるレクチンマイクロアレイの開発に成功し、論文発表した2005年には、他に3つの研究グループがレクチンマイクロアレイ原理に関する論文を発表している[16]-[19]。論文はずっと後発だったが、イスラエルのベンチャーであるプロコグニアも、これに先立ちいち早くレクチンアレイプラットフォームの開発に注力していた(http://www.procognia.com/)。レクチンマイクロアレイの原理開発に関する論文はその後さらに数編発表されるが[20][21]、その着想には、FACではなく、Serial lectin-affinity chromatography法と呼ばれる先行技術の存在が影響している。この方法では、数種のレクチンカラムを用意し、そこにトリチウム等で放射性標識した糖鎖を順次流し、その吸着の程度(強、弱、無など)を調べて、糖鎖構造を推定する[22]-[24]。理にはかなっているが、手間と時間がかかるため、多くの分析研究者がより簡便な方法への転換を密かに考えていたにちがいない。一方、FACも高性能化されたが、LCであるため多検体の同時解析はできず、解析対象も精製糖鎖に限られる。研究開発の現場で求められるのは細胞抽出液や血清等を直接、自在に扱える技術である。ここで、著者らがレクチンマイクロアレイ開発で主眼を置いたのは検出原理である。エバネッセント波注6)を蛍光の励起光として用いる技術は昔から知られており、エバネッセント顕微鏡等にも応用されていた。それをレクチンマイクロアレイというスライドグラス上で用いるには、顕微鏡のような微小領域ではなく、広視野への応用を可能にしなければならない。著者が産総研入所前に調べたところ、スライドガラスの端面から励起入射光を入れる方式でDNAマイクロアレイの開発を行っている日本レーザ電子(当時)というベンチャー企業があった。社のホームページに掲載されたエバネッセント波の説明図を参考にエバネッセント波励起蛍光検出のレクチンマイクロアレイの構想を描いた(図6)。この技術の一つの特徴は、エバネッセント波をガラスの端面から入射して蛍光励起する点である。エバネッセント波はガラス表面からごく近接領域(<100 nm)に滲み出る光なので、レクチン等を固定化したスライドガラスの表面付近にトラップされた蛍光標識糖鎖(実際には糖タンパク質)が選択的に励起される。レクチンと糖鎖間の親和力が、DNA・DNA(RNA)や抗体・抗原間のそれと比べ一般に弱いことを述べた。すなわち、レクチンに弱く結合している糖タンパク質は、反応後洗浄操作をすると容易に引き剥がされてしまうので、通常用いられる共焦点式蛍光スキャナーでは、この結合を見逃してしまう。FACで観測さ

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