Vol.7 No.2 2014
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研究論文:糖鎖プロファイリング技術がもたらすパラダイムシフト(平林)−108−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)より研究者人口が増え、爆発的に進歩する」。糖鎖プロファイリングはまさにこの目的・ニーズに合致したテーマだった。2 要素技術と新コンセプト「糖鎖プロファイリング」著者は糖鎖構造中のある特徴に特異的に結合するタンパク質(レクチン)に注目し、多種類のレクチンをスライドグラスにアレイ化した解析プラットフォームを考案した(図3)。いかにも「絵に描いた餅」だが、当時ある種の「新鮮さ」をもって各種学会、フォーラム、勉強会で受け入れられた記憶がある。多くの人が何もないところに新しいイメージが生まれることを感じたのかもしれない[7][8]。さて、糖鎖プロファイリングは厳密な化学構造の決定に目的があるのではなく、複数の試料間の構造の「差異」を見いだすことに特徴があると述べた。その原理・発想は突然思いついたものではなく、先行する技術によるイメージが重要なヒントになっていた。以下、糖鎖プロファイリング技術の実現に不可欠となった二つの要素技術について述べる。1)先行技術、FACによる原理検証とヘクト・バイ・ヘクトPJ100のレクチンと100の糖鎖の相互作用を定量分析法FACで解析することで、相互作用情報をデータベース化、個々の糖鎖に(レクチンによって付けられた)固有の「指紋」があることを実験的に立証。レクチンマイクロアレイが糖鎖プロファイリングの目的に適していることは十分予想できた。しかし、個々の糖鎖に本当に指紋のような固有の情報があるのか、どの程度の数のレクチンを用いれば糖鎖構造の識別が可能かについては、誰も検証していなかった。このため、著者は先行技術であるFACによる網羅的解析を行い、多数のレクチンと多数の糖鎖間の親和力を決定するという作業に挑んだ。フロンタル・アフィニティ・クロマトグラフィー(FAC)は前端分析法とも呼ばれ、1975年、北海道大学(当時)の笠井献一氏らが開発した定量的相互作用解析法である[9]。その理論は前年にB.M. DunnとI.M. Chaikenが報告し、後にゾーナル分析法と呼ばれる解析法と本質的に同一である[10]。FACの操作法と原理を図4に示す。この技術はトリプシン等のプロテアーゼとその基質(阻害剤)との相互作用解析法として編み出されたが、20世紀末にアルバータ大学のD. SchriemerらがMS検出との連結に成功した図3 糖鎖プロファイラーの原理を描き表したイメージ図数十種のレクチン(糖に結合するタンパク質)をスライドグラスのようなガラス基板上に固定化し、そこに適当な標識基で修飾した糖鎖・糖タンパク質を作用させ、特殊な検出原理によってこれを微量検出することを想定した。(2002年7月30日に催されたバイオテクノロジー開発技術研究組合主催の勉強会で実際に使用した著者のプレゼンスライドから転載。)図4 FACの原理(右)と操作法(左)カラムに固定化したリガンド(レクチン)に糖鎖が相互作用すると、カラムから漏れ出てくる溶出前端(フロント)容量(V)が、相互作用の無い対照物(V0)と比べ大きくなる。この差(V-V0)は糖鎖・レクチン間の親和性を表す尺度である解離定数(Kd)とKd=Bt/(V-V0)-[A]0 の関係にある(Btは用いたカラムにおける有効リガンド量、[A]0は糖鎖の初期濃度)。一般にレクチンの糖鎖に対する解離定数は大きく(解離しやすい)、蛍光標識糖鎖は十分希釈して用いるため、Kd >> [A]0が成り立つ。このため上式はKd = Bt/(V-V0)となり、用いる糖鎖の濃度に依存しない式となる。FACが弱い相互作用解析に適した方法と言われる所以である。微量親和性定量解析糖鎖構造の同定MSデータ、2-Dマップデータとの照合糖鎖構造の推定レクチンデータベースと照合反応パターンのコンピュータ解析顕微スライド識別用コアレクチンをマイクロアレイ上に固定化したセンサーチップレクチンチップ糖鎖同定装置の原理 [A]0 x (V-V0)標準糖鎖ライブラリー平坦(プラトー)期溶出期溶出前期VV0Aの濃度 (M)溶出容積(ml)相互作用がある場合[A]0カラム内における吸着量相互作用が無い場合PCインジェクターポンプ蛍光標識した糖鎖希薄溶液レクチン固定化樹脂を詰めたミニカラム蛍光検出器カラム体積に対し大容量のサンプルループ0

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