Vol.7 No.2 2014
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シンセシオロジー 研究論文−105−Synthesiology Vol.7 No.2 pp.105-117(May 2014)1 はじめに1)なぜ糖鎖解析が困難か糖鎖は複雑な構造と多様な存在形態をもつ生体情報分子である。核酸やタンパク質とは異なり、さまざまな結合様式と分岐構造をもつことや遺伝情報から糖鎖構造を予測できないことが糖鎖の解析と理解をたいへん困難なものにしている。糖鎖の構造的特徴の一つに多くの異性体の存在が挙げられる。これら異性体は互いに類似した性質をもつため、それぞれを完全に分離することが難しい。一方、糖鎖はミルクや尿中に遊離形で存在する場合もあるが、多くはタンパク質や脂質に結合したかたちで存在し、細胞上に提示されるか血液等の体液中に分泌される。糖タンパク質では、その生合成過程でおびただしい種類の糖鎖修飾を受けることが知られている。図1に典型的な糖タンパク質のモデル構造を示す。糖鎖構造には単糖組成など基本的な共通性があるが、このことは糖鎖に対する抗体の調製を難しくし、糖鎖の組織分布や特異検出を困難にする。一方、糖鎖構造は生物ごとに少しずつ異なることが多い。近年では、動物細胞を用いてバイオ医薬品となるホルモンや抗体を生産させることが主流だが、多くのバイオ医薬品は糖タンパク質である。このため、タンパク質のアミノ酸配列はヒトと完全に同一でも、糖鎖構造は生産宿主に依存した異種型となってしまう。糖鎖構造を完全にヒト型にする技術は完成しておらず、CHO(Chinese hamster ovary)細平林 淳糖鎖は、遺伝子、タンパク質に次ぐ第3の生命鎖と言われるが、複雑な構造等が障害となり機能の解明は大幅に遅れている。近年、グライコミクスと呼ばれる糖鎖の総合解析が、プロテオミクスの隆盛に後押しされるかたちで進行し出した。その中で、糖鎖プロファイリングと呼ばれる簡易解析法が注目を浴びている。レクチンマイクロアレイは、特異性の異なる数十種の糖結合タンパク質(レクチン)をスライドガラス上にプリントし、蛍光標識された糖タンパク質や細胞抽出液を反応させるという新たな解析手法である。従来法と異なり、糖鎖の遊離と相互分離を必要としない点が利点であり、これにより、細胞の起源や状態を反映した糖鎖プロファイルが迅速、簡便に得られるようになった。レクチンマイクロアレイは、今や、腫瘍マーカー探索、幹細胞品質管理、バイオ医薬品開発等、さまざまなバイオ分野で利用される先鋭技術である。しかし、その実現には先行技術であるフロンタル・アフィニティ・クロマトグラフィーの高性能化とそれを用いた原理検証が必要であった。開発からの10年を振り返る。糖鎖プロファイリング技術がもたらすパラダイムシフト− フロンタル・アフィニティ・クロマトグラフィーからエバネッセント波励起蛍光検出法へ −Jun HirabayashiGlycans are called third class repeating biopolymers, after nucleic acids (first class) and proteins (second class). Elucidation of glycan functions has long been hampered by the difficulty in analyzing their structure. Recent progress in proteomics technology has accelerated progress in glycomics, which is the systematic study of glycans. Glycan profiling has increasingly attracted attention as a method that enables rapid analysis of complex features of glycans. Lectin microarray provides a novel platform and a simplified experimental procedure, which does not require glycan liberation and separation prior to the analysis. It is now being applied to tumor marker investigation, stem cell qualification, and biologics development. The author reviews the last 10 years of lectin microarray development, a period that began as a national project in which he has been actively involved.キーワード:糖鎖プロファイリング、フロンタル・アフィニティ・クロマトグラフィー、レクチンマイクロアレイ、エバネッセント波、GLIT(Glyco-innovation and Industrial Technology)Keywords:Glycan profiling, frontal affinity chromatography, lectin microarray, evanescent wave, GLIT (Glyco-innovation and Industrial Technology)産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター 〒305-8568 つくば市梅園1-1-1 中央第2Research Center for Stem Cell Engineering, AIST Tsukuba Central 2, 1-1-1 Umezono, Tsukuba 305-8568, Japan E-mail: Original manuscript received August 2, 2013, Revisions received October 14, 2013, Accepted October 15, 2013Development of lectin microarray, an advanced system for glycan profiling- From frontal affinity chromatography to evanescent wave excitation fluorescence detection method -

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