Vol.7 No.2 2014
28/78

研究論文:ソーラー水素製造の研究開発(佐山ほか)−92−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)的であるエネルギー問題の解決につなげていくプロセスを記述しました。議論4 「人工光合成」について質問・コメント(柳下 宏)この論文では、太陽光から水素を効率的製造する技術開発について主に述べられています。一方、この論文のような太陽光水素製造技術を含めて、一般には「人工光合成」という言葉も使われ、その名前を冠した国の研究開発プロジェクトも実施されています。「人工光合成」は植物の光合成と同様に太陽光から最終的に有機物を生産するプロセスと考えてよいのでしょうか。回答(佐山 和弘)一般の人が思い浮かべる「人工光合成」は炭酸ガスから有機物を合成するプロセスであり、この論文の対象である、太陽光を用いて水を分解して水素を製造する技術を「人工光合成」に含めることは違和感があると思います。一方、最近の総合科学技術会議の環境エネルギー技術革新計画のロードマップ中では、「二酸化炭素回収・貯蔵・利用」の区分の中で人工光合成と太陽光水素製造(ソーラー水素)が掲載されており、二酸化炭素利用と常にセットで議論されてきました。光合成機構は水を分解する明反応と炭酸ガスを固定化する暗反応に大別されます。エネルギー問題を解決するためには前者を模倣すべきですが、一般には後者に強く注目が集まっています。前者の明反応を模倣した反応の重要性を明快に表す言葉はこれまでは無く、新しい言葉が必要でした。そこでこの論文では、最近少しずつ使われるようになった「ソーラー水素製造」という言葉を用いて詳しく説明することにしました。分野の歴史的な発展の背景や原理を考えると、「ソーラー水素製造」は「人工光合成」の中でまずは位置づけるのが適切と思います(図1)。幅広い人工光合成の分野の中で、太陽光水素製造の研究は近年急速に進んでおり、実用化への段階に進めると著者は考えております。この論文では、太陽エネルギーと水から水素を作る持続可能な社会の実現のための目的指向の第2種基礎研究を表す言葉として「ソーラー水素製造」を意味付けました。一方で、今後に関しては、「ソーラー水素製造」を「人工光合成」の中で継続して位置づけることは弊害を生むかもしれないと考えています。例えば、「人工光合成」の言葉は、化学分野や第1種基礎研究と強く結びついており、「ソーラー水素製造」技術を実用化していくために不可欠である異分野(特に物理や工学、企業)での発展を難しくさせるのではないかと考えています。第1種基礎研究から第2種基礎研究への重心移動を表すキーワードとして「ソーラー水素製造」を今後広く使っていくのがよいと思っています。議論5 実用化時期質問・コメント(柳下 宏)太陽光水素製造技術の実用化には、まだ多くのクリアすべき課題が残されており、遠い将来の技術と考えられている場合も多いと思われます。実用化時期についてはどのような見通しを持っておられるでしょうか。回答(佐山 和弘)太陽光発電が、現在のように一般家庭に急激に普及することを20年前では想像できなかったように、「ソーラー水素発電」についても原理や前提が的確でシナリオが明快であれば、技術のブレークスルーにより実用化の展望は急に開けると考えています。第7章で記述したように、まずは余剰電力での実証研究が第一歩と思われます。議論6 研究開発の今後の戦略展開とシステム質問・コメント(立石 裕)この論文は燃料電池を中心とした水素社会を前提としていると思われます。燃料電池は定置用と自動車用が想定されますが、前者は化石燃料改質、後者は純水素利用が現在の流れとなっています。他方、太陽光発電は電気出力が直接得られるのが、現代社会における強力なセールスポイントとなっています。太陽エネルギーを水素のようなエネルギー媒体に変換して貯蔵することは、出力の時間的・空間的安定化の点では効果がありますが、同時に新たな課題も発生します。どうやって水素を貯蔵するのか−高圧、水素吸蔵物質、液化水素等が考えられます。そしてどのように輸送するのか。また、この論文で提案されているシステムを実際に建設する場合、それが市街地なのか、砂漠や草原のような地域なのか、立地による技術的課題の差が考えられます。このようなエネルギーシステムの設計を同時に進めることが必要であり、研究開発の今後の戦略展開において、ぜひシステムの人との議論をしていただければと思います。回答(佐山 和弘)我々のこれまでの研究の一番の動機は、太陽エネルギーの変換貯蔵の実現であり、もし、太陽と水から大量に水素が製造できればそれだけで非常にうれしいことですし、その利用法を考える研究者は大勢いるので、研究はどんどん進むのではないかと考えています。一方で実用化にはエネルギーシステムとの設計と表裏一体と認識していますので、今後はシステムの関連の研究者を巻き込んで議論し、ソーラー水素製造の実用化を目指していきたいと考えています。

元のページ 

page 28

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です