Vol.7 No.2 2014
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研究論文:ソーラー水素製造の研究開発(佐山ほか)−87−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)くいが、硫酸イオンは鉄イオンに強く配位する。この鉄イオンに対する水やアニオンの配位の違いが活性に影響を与えていると推察される。また、さまざまな金属塩を含む水溶液でWO3粉末に対する表面処理を行ったところ、セシウム塩水溶液で表面処理を行ったWO3光触媒が非常に高い酸素生成活性を示すことがわかった[2]。420 nmでのQEは27 %まで向上し、可視光領域では最も高い値となった。セシウム処理により、WO3表面にイオン交換サイトが新たに形成され、鉄イオンやH3O+が吸着と反応をし易くなるメカニズムが推察される。太陽光のエネルギーが、Fe2+イオンという化学エネルギーに変換される太陽エネルギー変換効率(ηsun)を計算すると、0.35 %に達した。この値は、バイオ燃料の有望原料作物として知られる雑草のスイッチグラス(0.2 %)を超える値である。また、WO3よりも長波長が吸収できる他の半導体としてはBiVO4が有望であり、520 nmまでの光が利用できる。鉄イオン以外のレドックス媒体の研究も非常に重要であり、近年いくつかのレドックス媒体が開発されている。IO3−/I−(Eº =+1.086 V)やVO2+/VO2+(Eº = + 1.00 V)[15]、I3−/I−(Eº = + 0.545 V)[16]等である。Eºがゼロに近づくほど電解に必要な電圧が小さくなる利点がある。現時点では光触媒活性やコスト、安定性、非毒性等の観点で鉄レドックス媒体が最適であると考えている。6.2 太陽エネルギー変換効率の理論限界の評価光触媒−電解ハイブリッドシステムの実用化の可能性を議論するために、まず理論限界太陽エネルギー変換効率(ηsun m)の見積もりを行った。図7はJIS-C-8911で定められるAM-1.5全天照射太陽スペクトルデータを基にして、QEを100 %と仮定した場合のηsun mと半導体の光吸収波長端(Lmax、nm)との関係を示している。光吸収効率としてLmaxより短波長の光は100 %吸収(光反射や透過のロス無し)と仮定している。ある反応の電位差(V)に必要な光子1個のエネルギー(eV)は「1240/Lmax」で求められる。VとeVは等価と考えて良い。例として鉄レドックスを用いた場合および酸化還元準位が0 Vの理想のレドックス媒体を用いた場合、光触媒反応における理論限界ηsun m(レドックスに蓄積されるエネルギー分)を示す。それぞれ2700 nmおよび1000 nmまでのより長波長の光も理論上は利用できるが、反応過電圧に関するロス(Uloss)をゼロとすることは現実的ではない。Ulossの見積もりに関して、これまでの水電解法では1.6 V以下の電解電圧(Ulossとして0.37 V以下に相当)を達成している。また、光合成においては非常に多くの電子移動過程でそのレドックス媒体の個々の電位差が0.2 V程度であることも参考になる。仮にUloss値を2種類の電子移動分の0.4 Vとすれば、鉄レドックス媒体および理想のレドックス媒体を用いた場合、それぞれ1440 nmおよび760 nmまで利用することができ、この時のηsun mはそれぞれ最大24 %と30 %となる。このようにηsun mは現状で得られているηsunと比較して理論上はかなり大きいので、実験値は今後十分に伸びる余地があると言える。既存の半導体材料に関して、WO3光触媒と同じ480 nmまでの光をすべて吸収し、QE=100 %で鉄レドックス媒体の還元を行うとηsun mは約2.4 %となる。また、BiVO4やFe2O3のように520 nmおよび600 nmまでの光をすべてこの反応に利用できれば3.6 %および6.2 %まで達することがわかる。鉄レドックス媒体を用いて、QEを変数とした時のLmaxとηsun mの関係を図8に示す。520 nmまでの光を利用してQEが80 %程度とすれば3 %のηsun mを達成できることがわかる。光触媒反応の大きな特徴は、粒子1個で反応が完結するため、複数の光触媒の混合や積層が容易な点である。光電極で異なる半導体を積層する場合は、伝導帯や価電子帯のマッチングが必要であるが、光触媒ではそれを考慮する必要が無い。つまり、複・外部バイアス・電極配線・プールの材質、形状、幅、流速・運用形態(電解時間等)・ポンプ性能、設置位置・自然エネルギーによる流水・不純物混入防止・発生酸素除去・設置場所・光の有効利用・水溶性バイオマス利用・純水または海水利用・藻類とのハイブリッドシステムの全体設計・イオン交換膜・電極材料・高圧水素製造・貯蔵タンク電解装置・無機系・有機系・酸化還元準位レドックス媒体・可視光応答性半導体・助触媒や表面処理・触媒成膜や分散化光触媒実用化へ図6 光触媒−電解ハイブリッドシステムの実用化への要素技術開発とシナリオ太枠の光触媒とレドックス媒体は大きなブレークスルーのために重点的に研究すべき課題である。

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