Vol.7 No.2 2014
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研究論文:ソーラー水素製造の研究開発(佐山ほか)−86−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)媒が見つかっても実用化は困難になる。そこで著者らはより実用化に近いシステムの未来像を考えていた。その時に出会ったのがFe2+イオンによる低電圧電解水素製造のパイロットプラントの論文である[13]。この論文では、石油化学工場から排出されるH2Sガスを焼却処分するのではなく、H2Sから水素としてエネルギー回収することを目的としていた。H2SをFe3+イオンが存在するプールにバブリングすると硫黄とFe2+が生成するので、硫黄はろ過除去する。Fe3+/Fe2+の酸化還元準位(Eº)は+0.77 Vであるため、Fe2+をFe3+に酸化しながら水素を製造すると、電解電圧を1 V以下にすることができる(図4)。通常の水の電解では、理論電解電圧の1.23 Vに加えて、酸素発生の過電圧が大きいためにトータル1.6~2 V程度必要である。一般的な水電解による水素製造コストの大部分は電力コストであり、もし大量のFe2+さえ存在すれば、電解電圧を下げることで水素製造コストを大幅に削減できる可能性がある。著者らはこれらをヒントにして、図5のように光触媒で水を酸化して酸素発生しながらFe3+からFe2+を生成し、水素発生低電圧電解と組み合わせる「光触媒−電解ハイブリッドシステム」を考案した[1][2]。電解ではFe2+をFe3+に戻しながら水素発生を行う。全体の反応式を図5下に示す。従来型の光触媒では上述の通り伝導帯電位と価電子帯電位の制約があるが、このハイブリッドシステムでは、半導体の電位制約が緩くなり、多くの可視光応答性材料が使える。さらに、光触媒表面上で水素を発生しないので、貴金属の助触媒に頼る必要が無く、水素捕集も非常に容易である。レドックス媒体にはさまざまなイオン対が利用できる。もし酸化還元準位が0 V(RHE)に近いレドックス媒体を利用できれば電解電圧はゼロに近くなるので、このレドックス反応の光触媒の理論限界効率としては従来型の一段光励起光触媒と同等になる。レドックス媒体の反応自体が蓄電池と同様の機能を持っている。このように、「光触媒−電解ハイブリッドシステム」は、光触媒のZ−スキーム反応の水素発生側光触媒反応を電解と置き換えることで、これまでの光触媒反応の抱えるおよそすべての問題を解決できる画期的なシステムと言える。光触媒−電解ハイブリッドシステムで用いる外部バイアスの概念はわかりにくいが、単なるエネルギーロスでは無いことは強調したい。外部バイアスにより供給されるエネルギーの大部分は水素として変換されている。通常の水の電気分解を1.23 Vで進行することができれば、電力から水素へのエネルギーの変換は100 %効率であり、過電圧分だけがエネルギーロスになる。Fe3+/Fe2+の過電圧はO2/H2Oよりも小さいので、エネルギーロスとしては小さくなる。外部バイアスを1.23 V以下にできることは、光エネルギーを用いて見かけの電解効率を100 %以上にできることを意味する点で重要である。6 光触媒−電解ハイブリッドシステムの技術的な課題6.1 レドックス反応の改善光触媒−電解ハイブリッドシステムの実用化への要素技術を図6に示す。技術開発要素は光触媒やレドックス媒体以外に、電解装置およびシステム全体設計まで幅広い。光触媒−電解ハイブリッドシステムの実現のためには、特にレドックス反応に高性能な光触媒の開発が最も重要かつ困難な技術開発要素である。このレドックス反応用の光触媒開発の現状を説明する。鉄レドックス反応において、Fe3+還元反応が高効率に進行するためには、Fe3+イオンが光触媒表面に優先的に吸着し、スムーズに電子を受け取らなければならないため、反応活性はFe3+イオンの状態に大きく影響されると考えられる。そこで著者らは、代表的な酸素生成用光触媒であるTiO2粉末を用い、さまざまな鉄塩水溶液からの酸素生成反応を調べた[14]。その結果、過塩素酸塩での酸素生成活性は、従来使用されている硫酸塩と比べ10倍以上高いことがわかった。最適条件でのTiO2光触媒の見かけのQEは55 %(365 nm)であった。これは可逆なレドックス反応において、太陽光に含まれる紫外線波長でのQEとしては最も高い値である。単純な光触媒でこのような高いQEを実現できたことは反応の将来性を推察する上で意義は大きい。次に、可視光応答性のWO3光触媒についても同様に、鉄塩の対アニオン効果を検討した結果、過塩素酸塩での酸素生成活性が最も高かった。過塩素酸鉄水溶液では鉄イオンには水が優先的に配位して過塩素酸イオンは配位しに低電圧電解(1 V以下)H2H2OFe3+Fe2+O2光触媒プール光触媒: 2H2O + 4Fe3+ → O2 + 4Fe2+ + 4H+電解: 4Fe2+ + 4H+ → 4Fe3+ + 2H2合計: 2H2O → O2 + 2H2図5 レドックス媒体を用いる光触媒−電解ハイブリッドシステム光触媒プールは樹脂製で、光触媒粉末を成膜したフィルムおよびレドックス媒体を含む電解質水溶液から構成される。

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