Vol.7 No.2 2014
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「Synthesiology − 構成学」発刊の趣旨研究者による科学的な発見や発明が実際の社会に役立つまでに長い時間がかかったり、忘れ去られ葬られたりしてしまうことを、悪夢の時代、死の谷、と呼び、研究活動とその社会寄与との間に大きなギャップがあることが認識されている(注1)。これまで研究者は、優れた研究成果であれば誰かが拾い上げてくれて、いつか社会の中で花開くことを期待して研究を行ってきたが、300年あまりの近代科学の歴史を振り返れば分かるように、基礎研究の成果が社会に活かされるまでに時間を要したり、埋没してしまうことが少なくない。また科学技術の領域がますます細分化された今日の状況では、基礎研究の成果を社会につなげることは一層容易ではなくなっている。大きな社会投資によって得られた基礎研究の成果であっても、いわば自然淘汰にまかせたままでは、その成果の社会還元を実現することは難しい。そのため、社会の側から研究成果を汲み上げてもらうという受動的な態度ではなく、研究成果の可能性や限界を良く理解した研究者自身が研究側から積極的にこのギャップを埋める研究活動(すなわち本格研究(注2))を行うべきであると考える。もちろん、これまでも研究者によって基礎研究の成果を社会に活かすための活動が行なわれてきた。しかし、そのプロセスはノウハウとして個々の研究者の中に残るだけで、系統立てて記録して論じられることがなかった。そのために、このような活動は社会における知として蓄積されずにきた。これまでの学術雑誌は、科学的発見といった基礎研究(すなわち第1種基礎研究(注3))の成果としての事実的知識を集積してきた。これに対して、研究成果を社会に活かすために行うべきことを知として蓄積する、すなわち当為的知識を集積することを目的として、ここに新しい学術ジャーナルを発刊する。自然についての知の獲得というこれまでの科学に加えて、科学的知見や技術を統合して社会に有益なものを構成するための学問を確立することが、持続的発展可能な社会に科学技術が積極的に寄与するための車の両輪となろう。この「Synthesiology」と名付けたジャーナルにおいては、成果を社会に活かそうとする研究活動を基礎研究(すなわち第2種基礎研究(注4))として捉え直し、その目標の設定と社会的価値を含めて、具体的なシナリオや研究手順、また要素技術の構成・統合のプロセスが記述された論文を掲載する。どのようなアプローチをとれば社会に活かす研究が実践できるのかを読者に伝え、共に議論するためのジャーナルである。そして、ジャーナルという媒体の上で研究活動事例を集積して、研究者が社会に役立つ研究を効果的にかつ効率よく実施するための方法論を確立することを目的とする。この論文をどのような観点で執筆するかについては、巻末の「編集の方針」に記載したので参照されたい。ジャーナル名は、統合や構成を意味するSynthesisと学を意味する-logyをつなげた造語である。研究成果の社会還元を実現するためには、要素的技術をいかに統合して構成するかが重要であるという考えからSynthesisという語を基とした。そして、構成的・統合的な研究活動の成果を蓄積することによってその論理や共通原理を見いだす、という新しい学問の構築を目指していることを一語で表現するために、さらに今後の国際誌への展開も考慮して、あえて英語で造語を行ない、「Synthesiology -構成学」とした。このジャーナルが社会に広まることで、研究開発の成果を迅速に社会に還元する原動力が強まり、社会の持続的発展のための技術力の強化に資するとともに、社会における研究という営為の意義がより高まることを期待する。シンセシオロジー編集委員会「悪夢の時代」は吉川弘之と歴史学者ヨセフ・ハトバニーが命名。「死の谷」は米国連邦議会 下院科学委員会副委員長であったバーノン・エーラーズが命名。ハーバード大学名誉教授のルイス・ブランスコムはこのギャップのことを「ダーウィンの海」と呼んだ。本格研究: 研究テーマを未来社会像に至るシナリオの中で位置づけて、そのシナリオから派生する具体的な課題に幅広く研究者が参画できる体制を確立し、第2種基礎研究(注4)を軸に、第1種基礎研究(注3)から製品化研究(注5)を連続的・同時並行的に進める研究を「本格研究(Full Research)」と呼ぶ。本格研究 http://www.aist.go.jp/aist_j/information/honkaku/index.html第1種基礎研究: 未知現象を観察、実験、理論計算により分析して、普遍的な法則や定理を構築するための研究をいう。第2種基礎研究: 複数の領域の知識を統合して社会的価値を実現する研究をいう。また、その一般性のある方法論を導き出す研究も含む。製品化研究: 第1種基礎研究、第2種基礎研究および実際の経験から得た成果と知識を利用し、新しい技術の社会での利用を具体化するための研究。注1注2注3注4注5−i−

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