Vol.7 No.2 2014
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研究論文:ソーラー水素製造の研究開発(佐山ほか)−83−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)3 ソーラー水素製造の実用化に向けた研究シナリオの重要性とコスト目標3.1 長期的なシナリオと適切な中間目標の設定人工光合成やソーラー水素製造の研究は化石資源価格に大きく影響を受けてきた。石油ショックの頃に第一次ブームがあったが、1986年以降石油価格が低下すると研究は急速に停滞した。1990年代になると、地球温暖化問題がクローズアップされ、さらに石油価格が上昇したことから、これらの研究が再度注目を集める状況になっている。米国では2010年からエネルギー省(DOE)のソーラー水素製造の大型プロジェクト(Solar Innovation Hub)がスタートしたが、シェールガス革命で天然ガス価格が大幅に下落してからは、太陽エネルギーへの関心が少し薄れてきている。このように、研究に盛衰の波があるのは仕方がないことであるが、実用化まで長期間かかる太陽エネルギー変換の研究開発にとっては望ましいことではない。長期的な研究を継続するためには、最終ゴールの研究意義の明確化だけではなく、実用化に向けた研究シナリオやロードマップ、中間目標、長期展望イメージの設定が非常に重要になる。まさにこの論文で主張すべきことを多くの人に理解してもらうことが、目標に到達するために最も効率的であり、安定して継続的な研究開発の推進につながる。東日本大震災以降、日本では再生可能エネルギー全般について関心が高まっている。期待が大きい反面、単なる理想論ではなく、実用化までの実現可能性やスピードも注目されている。これまでに、政府のクールアース推進構想や日本学術会議、応用物理学会、日本化学会等がエネルギー関連のロードマップを作成している。例えば、東日本大震災以降にまとめられた日本学術会議の夢ロードマップ[3]の中に人工光合成やソーラー水素製造のキーワードが多数出てくるが、その実用化は2030~2040年に置かれている。しかし、遠すぎる未来に単にキーワードが置かれている場合は、研究意義としては認められているが、短中期的な研究推進には役に立たないどころか、ネガティブに働く場合もある。今後は短中期的な戦略シナリオとともに実現可能性の高い中間目標の設定も重要になる。我々は後述のような議論を行い、図1に示すような二つの明確な中間目標、①太陽光発電と水電解を単に組み合わせた方法の水素よりも低コスト化、②化石資源改質の水素より低コスト化、を設定した。3.2 水素製造コストとしての具体的な中間目標新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の燃料電池・水素技術開発における水素製造のロードマップ(2010年)[4]ではコストに関する中間目標が記載されている。オフサイトの水素製造コストは、2020年には再生可能エネルギーを用いて低炭素化しながら、天然ガスの水蒸気改質と同一コスト(30円/Nm3)、2030年にはそれ以下を目指している。一方、大規模太陽光発電コストに関して、政府の設置したエネルギー・環境会議のコスト等検証委員会(2011年末)の報告書[5]での2030年見通しは9.9~26.4円/kWhである。また、NEDOの太陽光発電のロードマップ(PV2030+、2009年)[6]では、2020年と2030年での発電コスト目標は14円および7円/kWhである。これらの値を用いて太陽光発電と大型固体高分子水電解装置を組み合わせた場合のコストを電力中央研究所の報告[7]を基に試算すると、水素製造コストはたとえ7円/kWhの発電目標を達成しても35円/Nm3以上になる。我々の示した二つの中間目標は太陽光発電や化石資源コストに大きく影響を受けるが、水素製造コストとしてはおおむね中間目標①で35~65円/Nm3を下回る、中間目標②で30円/Nm3以下、に相当する。将来このコスト目標を達成し、再生可能エネルギーを用いたクリーンな水素社会の実現を目指すのであれば、これまでの延長線にない革新的な技術の早期開発が不可欠である。理想的な技術であっても、克服が非常に難しい課題が多数ある場合は実用化に時間がかかることも考慮する必要がある。4 半導体を用いたさまざまなソーラー水素製造技術の比較4.1 半導体による水分解の原理太陽光を利用する第一過程は光吸収材料による光子の吸収である。人工光合成の中のソーラー水素製造の研究において、光吸収材料としては半導体と色素に大別されるが、現状では前者の方が進んでいる。世界中で研究されてきた半導体を用いたさまざまなソーラー水素製造技術の研究は、歴史的には大きく光触媒系と光電極系の流れに分けられる。それぞれの原理を図3に示す。TiO2光電極による水分解が日本で発明[8]されて、その後に光触媒水分解の概念が確立された。半導体に光が吸収されると伝導帯に電子および価電子帯に正孔が生成し、それぞれ水の還元と酸化反応に利用される。光吸収と電荷分離の原理は太陽電池と同じであるが、太陽エネルギーを直接水素という化学エネルギーに変換して長期貯蔵できる点でその全体概念はバイオマスを利用した燃料製造に近い。図4にさまざまな光触媒および電解による水分解技術とその電位図を示す。光触媒の水分解では、伝導帯電位は水素の酸化還元電位(E°(H+/H2)=0 V)より負に、価電子帯電位は水から酸素を発生する電位(E°(O2/H2O)=+1.23 V)より正に位置する制約がある。また、通常の光電極は図3のように外部バイアス(外部からの電力)を用いる。外部バイアスの使用により、光電極で用いる半導

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