Vol.7 No.2 2014
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研究論文:ソーラー水素製造の研究開発(佐山ほか)−82−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)2 ソーラー水素製造とは何か人工光合成技術の中で、光触媒や光電極を用いた「ソーラー水素製造(Solar hydrogen production)」という言葉が使われはじめている。2012年度には経産省の未来開拓技術実現プロジェクトにおいてソーラー水素という言葉を用いて光触媒や光電極による水分解水素製造の研究がスタートしている。ソーラー水素製造は太陽エネルギーによる水分解水素製造に特化し、かつクリーンで持続可能な水素社会実現のために用いる(図1)。人工光合成およびソーラー水素製造技術の研究の期待される最終ゴールはどちらも地球規模でのエネルギー問題の解決であるが、後者は目的指向の意味をより強く含んで用いられている点が重要である。光合成機構は明反応と暗反応に大別されるが、光子によりエネルギー蓄積型の化学反応を直接進行させているのは水から酸素を引き抜きながら高いエネルギー状態の還元体を生成する前段の明反応であり、水の分解反応が光合成の基本反応である。もし水を原料として太陽エネルギー由来の水素さえ膨大に製造できれば、後段の暗反応に相当する炭酸ガス固定化反応には多くの既存技術を応用できる。人工光合成の研究の中では暗反応の有機物合成のみに注目した研究例も多いが、明反応のエネルギー蓄積型の化学反応と結びつかなければ、エネルギー問題の解決にはつながらない。人工光合成という言葉から連想される目的や方向性は不明確であり、多くは第1種基礎研究の範疇である。この段階から第2種基礎研究に早急に移行するには目的指向の言葉を意識して用いる必要がある。以上の考えに基づき、この論文では人工光合成技術の中で、太陽エネルギーによる持続可能社会の構築という目的指向で、かつ水を分解して水素と酸素を製造する技術を「ソーラー水素製造」として第2種基礎研究に位置づけて議論する。(なお、太陽光発電と電気分解の二つの技術を組み合わせるシステムは広い意味ではソーラー水素製造になるが、直接光子を化学反応に利用していないので人工光合成の範疇には入らない。また、太陽光を集光した高熱を用いる発電利用や熱化学サイクルによる水分解はこの論文では扱わない。)図2にさまざまな太陽エネルギー変換利用技術に関して縦軸を太陽エネルギー変換効率、横軸をコストやシステムの複雑さとしてイメージした技術マップを示す。太陽光発電や太陽熱利用、バイオマス利用による燃料製造は右肩下がりの実用ラインに乗っている。現状の光触媒や光電極を用いたソーラー水素製造技術はまだ実用化には遠いが、第7章で議論するように、将来的には少なくとも太陽光発電+電気分解の組み合わせシステムと比較して、圧倒的にシンプル・低コストでありながら実用的な効率を示す必要が当然ある。ソーラー水素製造技術の実用化と普及、および将来の化石資源に頼らない再生可能エネルギー社会の実現は、決して容易ではなく長い時間がかかるので、今から方向性を見定めて段階的かつ戦略的に研究することが望ましく、将来的にどのような技術が一番早く実用化ラインを超えて最終的なゴールにたどり着くかを見定める必要がある。この論文では、さまざまなソーラー水素製造技術を比較し、その将来性を議論する。特に著者らが開発した「光触媒−電解ハイブリッドシステム」[1][2]について、他の技術と比較しながら、その有効性や経済性、実用化に向けたシナリオを示すこと、第2種基礎研究のスタートラインに立てるかどうか議論することを主な目的としている。図1 ソーラー水素製造の位置付けおよび中間目標と最終ゴール図2 さまざまな太陽エネルギー変換利用の技術マップ光触媒ー電解ハイブリッド法光電極光触媒実用化ライン太陽光発電バイオマス太陽熱最終ゴール:エネルギー問題の解決太陽光発電 +水電解法低い高い効率単純システム複雑低い高いコスト光触媒水分解炭酸ガス固定窒素固定光電極水分解光触媒-電解ハイブリッドソーラー水素製造太陽光発電+水電解人工光合成第2種基礎研究(研究目的やシナリオが明確化)第1種基礎研究(方向性がバラバラ)中間目標②:化石資源改質より低コスト最終ゴール:太陽光によるエネルギー問題の解決中間目標①:「太陽光発電+水電解」法を超える

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