Vol.7 No.2 2014
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研究論文:通信の大容量化に対応する「長さ」の国家標準(稲場ほか)−77−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)用してレーザーの周波数比較を行った。我々のファイバーコムは堅牢かつ正確であり、前述した通り測定もシンプルであるため、測定は極めて順調に行われ、およそ1日ですべての測定が終了した。さらに、各研究所の希望で行った周波数安定度の測定には時間がかかるのだが、夜中でもファイバーコムの無人運転に不安はなく、すべての安定化レーザーに対して性能評価の一助となる長期周波数安定度測定を行うことができた。8ヶ国のレーザーの測定結果は、すべて国際度量衡委員会勧告リストの不確かさ範囲内に入っており、安定化レーザーの同等性が確認された[22]。それらのレーザーは各国において長さの国家標準の役割を担っている。すなわち、これら8ヶ国において、長さのSIへのトレーサビリティを考えたとき、産総研のファイバーコムを必ず通っていることになる。5.4 高速制御型光コムの光格子時計への適用我々のグループでは、次世代の周波数標準を目指した「光格子時計[23]」を開発している。光格子時計に代表される、光周波数領域の時計遷移を基準とした「光時計」においては、その遷移の周波数幅が極めて狭く、また遷移確率が低いため、時計遷移観察用レーザーのスペクトル線幅を狭くする必要がある。そのようなレーザーを実現するため、フィネスが高く、熱膨張率の低い共振器を真空中で温調して高度に安定化し、その共振器の透過モードにレーザーを安定化する方法が採られている。我々はYbおよびSr、二種の光格子時計を開発しており、時計遷移波長はそれぞれ578 nm、および698 nmである。それぞれの時計遷移波長用に高安定共振器を用意するのが一般的な方法であるが、我々は高安定共振器を時計遷移波長とは異なる波長1064 nmで用意し、高速制御可能な光コムを用いてその周波数安定度や線幅を578 nmおよび698 nmに転送する「線スレーブレーザー:所望の(必要な)波長で高安定レーザーになる~1 Hz~1 Hz~1 Hz高安定共振器安定化レーザー③ 光コムが高安定レーザーのスペクトル線幅を他波長に転送②所望の波長のCWレーザーを光コムに 位相同期・・・スレーブレーザーを狭線幅化①光コムを高安定レーザーに位相同期・・・光コムを狭線幅化マスターレーザー:波長1064 nm高安定レーザー(良いレーザーがあり、作りやすい。)光周波数コム~1 Hzsin(2 )πv1t幅転送」(図8)を提案・実現する[24]に至っている。この方法の利点には、①堅牢かつ高性能なレーザーが用意できる波長(例えば1064 nm)用の共振器を利用でき、かつ高安定共振器は一つ用意すれば良いため、信頼性の高い高安定レーザーシステムを構築できる。②二つの光格子時計の周波数比を測定する際、基準となる高安定レーザーの周波数揺らぎを相殺でき、この方法以外では実現できない高い周波数安定度が得られる。③高安定共振器の縦モード間隔(通常2 GHz程度)よりも光コムのモード間隔(40−200 MHz)は小さく、時計遷移周波数へ橋渡しするための音響光学変調器の選択に自由度が増す。などがあり、複数の光時計システムを運用する上で重要な技術となるだろう。6 まとめどこまで分解して自家製作するか、または市販品で済ませるかは難しい問題だが、我々の場合、モード同期ファイバーレーザーおよび超短光パルス増幅器の自家製作化はもくろみ以上の大成功であった。元々我々が得意とする光学系の設計と構築、レーザー制御、および周波数計測といった技術を活かしやすいようにレーザー、増幅器系を最適化して設計・製作することができ、仕様変更も迅速に行えるため、開発スピードが飛躍的に向上した。その結果、短時間だけ使える光周波数計測器、またはデモンストレーションの道具であった光コムが、光通信帯波長の校正に対応し、長さの国家標準の置き換えを実現するだけでなく、光格子時計のレーザーシステム等で実戦配備されるようになったことは、光コムを実用的な装置にするための第2のブレークスルーであったと言えるだろう。国家標準について、我々は早くから光通信帯での校正図8 光周波数コムを用いた「線幅転送」任意波長の狭線幅化マスターレーザーに光コムの一モードを位相同期して狭線幅化し、同時にfCEOも高速制御により狭線幅化することにより、広帯域光コムのすべてのモードが狭線幅化される。この方法により、マスターレーザーの線幅や周波数安定度を、所望の波長のレーザーに転送することができる。この方法を実現するには、「①光コムを高安定レーザーに位相同期」を可能とする「高速制御型光コム」が必要である。

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