Vol.7 No.2 2014
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研究論文:通信の大容量化に対応する「長さ」の国家標準(稲場ほか)−75−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)光コムとしての性能であることがわかる。Ti:SコムやYbファイバーコムには出力が高い、波長が短い、光パルス幅が狭いなどの長所があるため、紫外領域への展開や時間軸上での高分解能性が重要である分野では、これらの光コムでなければ対応できない分野も多いだろう。しかし、可視領域より長い波長での周波数メトロロジーに限っていえば、Erファイバーコムは最も性能・実用性に優れた光コムであると言える。5 ファイバーコムの展開ファイバーコムを自家製作できるようになったことで、堅牢で使いやすく、かつ高性能な光コムシステムを目的に合わせて使えるようになった。当初のもくろみ通り、光コムを研究や業務で展開していくことは必然の流れであった。グループ内で今までにファイバーコムシステムとして完成させたものだけでも15台を超える。ここでは、その中でも特に重要な「光通信帯波長レーザーの校正」「長さの国家標準」および「高速制御型光コムの開発」について述べる。5.1 光通信帯波長レーザーの校正光通信の伝送容量に対する要求は着実に増加しており、その増加率は年率数十%に及ぶ。通信波長を多重化し、チャンネル数を増やすことでこの状況に対応することは大容量化に有効であるが、現在広く使われているシングルモードファイバーが伝送できるパワー、および伝送損失が低い波長範囲は限られているため、通信チャンネルを設定する際には周波数管理が必要である。このような波長多重技術のプラットフォームとして、通信帯Cバンドのキャリア周波数193.1 THzを中心に、12.5 GHz、25 GHz、50 GHz、100 GHz間隔で周波数グリッド(ITU-T G694.1)が設定されている。近年は急速にデジタルコヒーレント(無線分野で実用化されているデジタル信号処理を光通信に応用・発展させた技術)の実用化が進み、シングルモードファイバーの能力の限界近くまで波長多重の高密度化が進んでいる。フレックスグリッド(6.25 GHz間隔のチャンネル)への対応を考えると、周波数管理技術、すなわち周波数計測の不確かさ低減がますます重要になってきている。光計測器や光デバイス関連メーカー等において、光スペクトルアナライザーや波長計に7~8桁の精度が必要な場合、分子等の吸収に安定化された光源が使用される。これは9桁程度の精密さを持ち、我々は光コムが登場する以前から、このようなニーズを見越して波長1.5 µm帯における波長標準を開発してきている。我々の開発した波長1542 nmアセチレン安定化レーザー[20]は、国際度量衡委員会により1.5 µm帯唯一の波長標準として勧告されている。そして、このレーザーの出力をサイドバンド型光コム[21]により広帯域化することで、波長1510−1570 nmにおけるレーザー周波数の校正が可能になった。しかし、まだ課題が残されていた。第一に、安定化レーザーとサイドバンド型光コムによる校正の場合、基準周波数である安定化レーザー自身の国際比較や光コムによる校正が求められる。次に、波長の国家標準が波長633 nmヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザーであったため、ダブルスタンダート状態となりかねないことである。一方で、光コムは周波数標準を基準に周波数(波長)を測定するため、安定化レーザーを介することなく、633 nmと1.5 µm帯の両波長を直接SIに繋ぐことができる。また、今後他の波長でのトレーサビリティ確保が求められた際の対応も容易である。とはいえ、初期のTi:Sコムでは、広帯域化してもそのスペクトル帯域は500−1100 nmであり、光通信帯波長への適用は困難であった。被測定レーザーはCW光であるために第二高調波発生の効率が低いからである。ファイバーコムは波長1~2 µmにおいて動作し、光通信帯波長をすべてカバーしている。今後ますます細密化される通信グリッドに対応する光源や光フィルター等の部品の製造には、より高精度な波長計や光スペクトルアナライザーが要求され、これらの測定器の参照標準として、光通信帯波長におけるさまざまの波長の安定化レーザーが必要になっている。この波長帯にはアセチレン分子やシアン化水素分子等波長標準として好適な遷移が多く存在しており、それらの安定化レーザーを校正するためにも、ファイバーコムは最適と言える。さらに光コムはパルス光であるために第二高調波発生の効率が高く、可視波長帯にも適用できるため、Ti:Sコムを置き換えることも期待できる。5.2 長さの国家標準長さの国家標準を原子時計(周波数標準)+光コムにすることができれば、両波長についてのトレーサビリティ体系をよりシンプルにまとめることができる(図7)。また、メートルの定義により忠実に長さ標準を実現することができる。これまでの国家標準である波長633 nmヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザーは、コンパクトかつ不確かさが2.5×10−11と小さく、長さ標準として完成されていた。しかし、国家標準として課題がいくつか残されていた。一つには、安定化レーザーであるが故に、光コムによる定期的な校正、あるいは国際比較が必要である。共振器アラインメント等で周波数値が変化してしまう恐れがあるため、複数台の同等な装置の群管理を行い、個々の装置が正常動作していることを確認することも必要である。また、登録事業者が持つ特定二次標準器(国家標準である特定標準器が直接校正する機器)もヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザーであり、特定標準器と性能差がないため、校正結果は被

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