Vol.7 No.2 2014
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研究論文:通信の大容量化に対応する「長さ」の国家標準(稲場ほか)−74−Synthesiology Vol.7 No.2(2014)させると、増幅器からの平均出力が最大となる光ファイバー長が存在することを発見した(図6)[15]。この条件では光パルスはチャープ補償で圧縮されながら増幅され、高い光パルスのピークパワー、狭い光パルスの時間幅、広いスペクトル、および高い平均出力が得られる。これは1990年に「断熱圧縮」として報告[16]された条件と一致し、スペクトル拡大等は報告されていたが、出力の増大を伴うことは知られていなかった。出力が増大する理由はまだ明らかではないが、利得の不均一拡がりを持つエルビウムイオンが、スペクトル拡大により多数個寄与できるようになるためではないかと考えている。またこの条件で増幅した光パルスは、高非線形ファイバーによるスペクトラムの広帯域化に適しており、同じ光パワーであっても、この条件以外で増幅した光パルスと比べ、遙かに広帯域化しやすい特性を持っていることがこの研究により明らかになった。この発見により、出力やスペクトラムの再現性は大きく向上し、その後の研究室でのファイバーコム「量産」のための重要な礎となった。また、この方法および装置は特許出願し、2013年1月に特許登録(登録番号5182867)された。4.4 高速制御型光コムの開発・・・性能と実用性を兼ね備えた光コムへの進化ファイバーコムは当初、実用的で堅牢ではあるが、位相雑音がTi:Sコムより大きいと言われており、ファイバーコムには特有の比較的大きな位相雑音が観察されていた[10]。フリーランニング時のTi:SレーザーではfCEOの線幅は100 kHz以下であるが、ファイバーコムでは数MHzまで大きくなる場合があり、ファイバーコムの最大の欠点としてしばらく議論の対象になっていた。位相雑音の起源は光パルス増幅器や高非線形ファイバーではなく、モード同期ファイバーレーザー(発振器)にあることが明らかになっている。その後、共振器の分散調整[17]を含むオシレーターの製作ノウハウの蓄積により、位相雑音の面でTi:Sコムに劣ることはなくなった。位相雑音に関して、問題を完全に解決するばかりでなくTi:Sコムを凌駕する決め手になった重要な性能が高速制御性である。光コムの周波数値には二つの自由度がある。例えば光周波数計測では、frepとfCEOをそれぞれ独立に制御する必要がある。多くの場合、fCEOはモード同期レーザーの励起光強度を変化させて制御し、frepは共振器長を変化させて制御する。励起光強度は、Ti:Sレーザーでもファイバーレーザーでも比較的高速に制御することができるが、共振器長の高速制御は難しい。どちらのレーザーでも、普通は電歪素子(PZT)を用いてミラーやファイバーを動かすことで変化させる。しかし、この場合の制御帯域は数100 Hz~数10 kHzに制限される。frepをマイクロ波周波数基準に位相同期する場合は、キャリア周波数が低く位相雑音の絶対量が小さいため、この制御帯域の狭さはほとんど問題にならない。しかし、共振器長を制御して光コムのモードの一つを光周波数基準(安定化レーザー)に位相同期する場合、周波数が高いために周波数安定度が同じであっても位相雑音の絶対量が大きく、制御系の利得と帯域が不足して、位相雑音の低減は難しい。残留する位相雑音が多ければ、光コムの相対線幅は改善されない。相対線幅を改善するためには、二つのパラメーターの高速制御が必要である。我々は、モード同期ファイバーレーザーの共振器中に電気光学変調器(EOM)を挿入した高速制御型光周波数コムを開発し[18]、両方ともに帯域1 MHz程度の制御を実現した[19]。EOMを挿入したモード同期レーザーは今のところファイバーレーザーでしか報告がなく、モード同期ファイバーレーザーの長所となっている。4.5 これまでのTi:Sコム、Yb添加光ファイバーを用いたファイバーコムとの比較光コムの光源としてモード同期ファイバーレーザーを採用し、本章で述べてきたような開発を経て、これまで主流であったTi:Sコムの欠点の多くが克服された。また、我々が開発してきたファイバーコムは、波長1.5 µm帯に利得を持つエルビウム(Er)添加光ファイバーをレーザー媒質としたものであるが、波長1 mm帯に利得を持つイッテルビウム(Yb)添加光ファイバーを用いたファイバーコムもいくつかのグループで開発されている。表1はTi:Sコム、Erファイバーコム、およびYbファイバーコムの特徴についてまとめたものである。これら3タイプの光コムを比較すると、我々が採用したErファイバーコムの優れた点はパワーやパルス幅といった、時間軸上での光パルスとしての性能ではなく、低雑音(狭線幅)性、信頼性や高速制御といった、周波数軸上での○(分散補償用の空間光学系が必要)◎△(空間光学系、励起レーザーの不安定性)長時間動作、および堅牢性主に半導体レーザー主に半導体レーザー主に固体レーザー励起レーザー~数MHz~数MHz~数十kHz制御帯域(共振器長)数十kHz~数MHz数十kHz~数MHz数十kHz~数MHzフリーランニング時のCEO信号のスペクトル線幅900-2500 nmまたは700-1400 nm900-2500 nm400-1200 nm波長領域(広帯域化後の典型値)1030 nm1550 nm780 nm波長(オシレーターの中心波長典型値)数十フェムト秒数十フェムト秒数フェムト秒光パルス幅(チャープ補償後の典型値)~10 W(増幅後)~200 mW(増幅後)~1 W出力(平均パワー)YbファイバーコムErファイバーコムTi:Sコム表1 モード同期レーザーの種類による光コムの特徴

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