Vol.6 No.1 2013
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−65−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)編集後記本号の座談会で語られていますように、今基礎研究における構成的アプローチが注目を集めています。21世紀の人類が抱える課題は、例えば環境やエネルギー、最近の例でいえば原子力発電所の安全性のように複雑かつ複合的で、これまで科学研究が得意としてきた分析的なアプローチだけでは解決できないことが強く認識されています。また足元を見れば産業における研究開発活動のほとんどが構成的なアプローチで行われていることも事実です。基礎研究の成果をイノベーションに活かすために、分析的なアプローチと構成的なアプローチを同時に一貫して行う科学と技術の新しい研究方法が求められていると考えます。本誌シンセシオロジー(構成学)は構成型研究を記述するオリジナルな論文誌で、発刊して丸5年がたちました。創刊から昨年の3月まで本誌の編集委員長を務めましたので、改めて5年間を振り返ってみたいと思います。本誌にはこれまで約100件の研究論文が掲載されました。そこでは社会的価値につながる研究目標を達成するための著者独自のシナリオが記述されています。構成型研究のシナリオの書き方は著者によってさまざまですが、研究で最も大切な部分であるにもかかわらず、これまでほとんど公開されてきませんでした。シンセシオロジーを発刊して、構成型研究のシナリオが実は異なる専門分野の人にも理解可能で大いに役立つことが分かってきました。研究分野が極度に細分化され、分野相互のコミュニケーションが非常に難しくなった現代の科学技術の状況を考えますと、科学技術の研究者や技術者が自己のシナリオを公開し、専門分野にかかわらず相互に意思疎通・理解し、学ぶことができることは画期的であると言えます。本号の座談会の他にも、構成型研究の価値や進め方について各界の有識者からいろいろなご意見を伺ってきましたが、それらは本誌の論説や対談、座談会などで毎号お届けしてきました。また本誌の発刊以来読者からの反響も大きく、異なった分野の研究でもよく理解できるとか、企業の研究開発の進め方にも参考になるといったポジティブな意見をたくさんいただきました。著者からも、従来の学術論文では本質的な事柄であっても書けないことがたくさんあったが、この雑誌にはそれが書けるのがよいといった意見が出ています。本誌の特徴の一つとして、査読者と著者との議論を論文の末尾に掲載したことがあります。査読意見には査読者の所属と実名が記載されています。構成型研究の論文形式がまだ十分に確立していないことから、当初論文の書き方を公開の場で議論し開発していくという趣旨で始めたものですが、思わぬ副次的効果がありました。実名が公表されることから査読者は極端に偏った意見を出せなくなり、むしろ責任を持った公平な査読意見が得られるという好結果を生みました。また査読者と著者との議論は、読者に対しても重要な情報を与えるもので、読者が論文内容を理解する上で非常に役に立つことが分かってきました。科学技術の基礎研究と社会のイノベーションとを双方向で結ぶ太いきずなとして、構成型研究と本誌シンセシオロジーがあります。多くの新しい試みを盛り込んだ本誌に対して今後さらに多くの読者からの支持をお願いし、また構成型研究を実際行っている産業界や学界のさまざまな方からの論文投稿を歓迎します。新しい科学技術の研究開発とイノベーションが日本から始まることを期待しています。(編集委員 小野 晃)本号では5周年記念座談会の記事を冒頭に掲載しました。座談会には要職を勤められている方々にお集まりいただくことができ、研究開発と社会とをつなぐためには何をすべきかについて、大変中身の濃い議論をしていただきました。心より感謝申し上げます。研究論文としては4編の論文を掲載しました。固体酸化物型燃料電池(SOFC)の実用化を促進させるとともに、市場に出回った時の商取引のために必要となる性能評価手法の開発と標準化についての田中論文、地下水の水位変化から地殻変動を予測する技術の開発とそれに基づく地下水位変化検知システムの構築に関する小泉論文、明るさと文字までの距離に応じて高齢者でも読める文字サイズを決めるための研究と標準の構築についての佐川論文、光ファイバセンサを用いたひずみやアコースティックエミッションのセンサの開発とその宇宙構造物の振動検知への応用を述べた津田論文です。標準化に関わる2つの論文は、性能評価や商取引のための標準と高齢者向けの製品デザインを支援するための標準で、両者は異なる性質の標準ですが、いずれも良い製品を市場に出すために何が必要かを考えた上で進めた研究開発です。また、地下水水位変化が地震予知に有効であると学術的には考えられ研究が行われていたものですが、それを実際に社会に役立たせるためには、必要な地点にこの地下水水位変化システムを設置するまで行わなければなりません。これらは社会を強く意識した研究のシナリオに基づいて進められたものです。光ファイバセンサによる振動検知では、ある種のミスがあったお陰でブレークスルー技術ができたというセレンディピティがありましたが、その後も宇宙構造物に利用するという技術的制約を満たすために様々な課題を解決して研究開発が進められています。宇宙構造物という制約の強いものをゴールに設定することで、他にも適用可能な技術につながっていきます。実際の研究開発に要している時間は数年から20年以上と様々ですが、ゴールを見失わないことが大切であるとあらためて感じさせられました。(編集幹事 赤松 幹之)
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