Vol.6 No.1 2013
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研究論文:高齢者でも読める文字サイズはどのように決定できるか(佐川ほか)−44−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)議論5 外国語文字と日本語文字の視認性質問(赤松 幹之)図6に示されている各国の文字にこの方法を適用した結果ですが、日本語が最も視認性が悪い結果になっています。元々は日本語データを使って作られた方法を適用したにもかかわらず、日本語の結果が最も悪いのは何か理由があるのでしょうか?また、外国の文字に適用する場合の課題として、日本語から得られた係数を適用することが挙げられていますが、その他に、例えば文字のポイント数の定義(文字高さの定義)の違い等、他言語に適用するときの課題があるのでしたら、追記してください。回答(佐川 賢、倉片 憲治)日本語の結果が一番悪いこと自体に本質的な理由はありません。日本の結果は、最小可読文字サイズ推定式を導いた111名の実験とは別に、新たに行った(同条件、同サンプルの)国際比較のデータに適用したもので、式を導いたときと被験者や測定条件が異なります。ひらがなとアルファベットの違いかと思いましたが、ドイツ等では良く一致していますので、アルファベットに対する推定の問題ではないと思われます。日本語文字から得られた係数の適用に関しては、今後の課題となります。それぞれの言語の文字について適切な係数を求めるのが理想ですが、現実的な方法として、文字の複雑さによってクラス分けし、各クラスの適切な係数を決めたいと思います。また、文字のポイント数の表し方は国際的に決められていますので、それを適用すること、その他の適用上の課題に関しては前述の複雑さのクラス分けが有効であること等を記述しておきたいと思います。議論6 標準化における規定事項質問(小野 晃)この研究の成果としてJIS S 0032 「日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法」が制定されましたが、この規格はどういう項目をNormative(準拠すべき規範的)なものにし、どういう項目をInformative(参考にとどめる情報提供的)なものにしたのか、またそう決めた背景にある考え方に関してもご教示ください。回答(佐川 賢、倉片 憲治)JIS S 0032は「手法」の標準化で、可読文字サイズそのものの値は標準化しておりません。すなわち、Normativeな事項は、最小可読文字サイズを求める方法 [式(2)と表(1)] のみとなります。ここで求めた文字サイズをどのように活用するかは、この規格の使用者に任されています。Informativeな事項としては、附属書に最小可読文字サイズに基づく文章の読みやすさの評価方法等を盛り込んでおります。議論7 技術の普及のための方策質問(赤松 幹之)アクセシブルデザインの普及のために標準文書化が良いというのは分かりましたが、標準文書化がなされても、デザインをする人たちにそれを使ってもらわないとアクセシブルデザインが広まりません。標準文書を広く使ってもらうための取り組みをしているのでしたら、ご紹介していただけませんでしょうか。回答(倉片 憲治、佐川 賢)標準文書の普及が大事であることは、十分理解しております。当初、標準化すれば技術は普及するものと安易に考えていましたが、普及はそう簡単ではないことが良く分かってきました。そこで、まずは「アクセシブルデザイン」というアイデアそのものを広く知ってもらうため、経済産業省や(財)共用品推進機構(アクセシブルデザインの推進母体)と連携して普及のためのパンフレットを作成したり、企業のデザイナーや技術者に向けたシンポジウムを定期的に開催したりしてきました。今後は、アクセシブルデザインを採用した製品であることを、カタログ等で消費者に対して分かりやすく表示する仕組みが必要ではないかと考えています。例えば、アクセシブルデザイン規格への適合性評価制度といった社会的な仕組みです。これによって、消費者が商品を選択しやすくなるのはもちろん、製造者側もアクセシブルデザインの効果を実感できるようになり、製品の普及に弾みがつくものと期待されます。議論8 標準化の限界質問(赤松 幹之)アクセシブルデザインの普及に標準化というシナリオを採用したのがこの論文の主張ですが、標準化という手法の限界についてのお考えを聞かせてください。回答(倉片 憲治、佐川 賢)ご質問の範囲が広いので、いくつかの側面に焦点を当ててお答えします。1)分野については、先端的、革新的な研究で、Only one やNumber oneを狙う研究にはあまり向いていないと思われます。ある程度熟成した技術で、もう1段階、応用面での展開(第2種基礎研究)が必要な領域が標準化に向いていると思います。一方、スピードを競う研究や新分野の開拓を狙う研究ではこれまでの標準化手続きでは限界があり、より戦略的な手法が必要と考えられます。2)技術を標準化することは、同時に多様性への対応に制限を設けることにつながりかねません。この論文で扱った文字の可読性も、ある年齢群の者について、限定された輝度と文字種の条件で読み取れる文字サイズを、いわば最大公約数的に推定したものです。個人の視覚特性をより詳しく求め、環境条件をより細かく特定すれば、その条件でその人が読める文字サイズをさらに精度良く推定することも技術的に可能です。このような精緻化や最適化よりも簡便化と一般化に力点を置いて技術の早期普及を優先させるのが、標準化研究の特長でもあり、限界でもあるかと思います。 ただし、そのような簡便化と一般化を図る技術開発の裏には、この論文でも触れたように、膨大なデータの蓄積があります。一般的な条件だけでなく、個々の条件に応じてデザインの最適化を図りたいといったニーズに対しては、それらのデータも合わせて活用していただくのが効果的であると考えます。このような企業の技術者やデザイナーらのニーズに応えるために、著者らは産総研の研究情報公開データベース(RIO-DB)等をとおして、標準化した技術の背景にあるデータを広く公開する取り組みを始めています。3)研究体制については、標準化を目指すための組織的な推進が必要と言えます。著者の一人(佐川)は国際照明委員会という国際組織で「光と照明」の分野の国際標準化に取り組んできましたが、当初は全くの一人であったため、研究の遂行、委員会活動、国際交流に限界を感じました。産総研になって、研究所内部に新たに工業標準部が組織され、標準基盤研究制度ができる等体制が整ってきました。それによって、標準化を目指した研究への賛同者も増えてグループでの研究もできるようになり、一気に進展しました。逆に、このような支援体制のないところで標準化研究を実施するには、かなりの困難があると思います。4)3)に関連しますが、期間の短い研究プロジェクトで標準化まで実施するには限界があります。標準化には提案してから少なくとも3年はかかりますので(ISOの場合)、その前段の研究期間を含めると、理想的に進んでも全体で6~7年の時間がかかります。最近では3年程度のプロジェクトが主流になっていますので、それらをいくつかつないでいくことが要求されます。このつなぎが途絶えてしまえば、標準化計画そのものが消えてしまいます。あまりに短期的なプロジェクトや新規のプロジェクトをつないでいく方法では、標準化研究は進められません。

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