Vol.6 No.1 2013
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研究論文:高齢者でも読める文字サイズはどのように決定できるか(佐川ほか)−40−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)収集され、そのまま日本における標準化技術として確立された。一般に標準化にあたっては、適用範囲を明確にすることが重要である。最小可読文字サイズの推定技術に関しては、適用範囲として以下の項目を挙げた。(1)日本語一文字の読みやすさを対象とする。(2)最小の可読文字サイズを、年齢、視距離、輝度の3つの変数を考慮して表す。(3)10歳代から70歳代のすべての年齢に適用できる。ただし、ロービジョン等の視覚障害者には適用しない。(4)白地に黒文字等の高コントラストの文字を対象とする。アクセシブルデザインの視点から見ると、この研究の技術は高齢者を含むおよそすべての年齢に適用できる。しかし、ロービジョンと呼ばれる視力の低下した人には適用できず、これについては別途検討が必要である。現実の環境において文字を読む条件は複雑であるが、この研究ではそのうち主要な要因である年齢、視距離、輝度レベルを考慮している。もう一つの重要な要因であるコントラストについてはさらに検討が必要であるが、印刷文字等白地に黒の高コントラストの文字には、この研究の手法が適切に適用できる。例えば、電子式ディスプレイでは外光による写り込みによるコントラストの低下を生じることがあるので、この手法の適用には注意が必要である。標準化において重要な他の視点は、眼鏡による視力の補正である。この実験では高齢者も若年者も遠点(5 m視距離)で視力を補正して実験に参加したが、現実にはいわゆる老眼鏡では近点が見やすいように補正されている。この場合は、この研究によって推定した最小可読文字サイズよりも小さな文字も読むことができる。したがって、この研究成果は、老眼鏡や拡大鏡等を使わない最も見づらい条件における最小の文字サイズを推定したものである。この研究の成果は、このような議論を経て、JIS S 0032「日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法」として制定された[8]。このJISの制定により、高齢者にも見やすい文字設計の尺度が確立されたと言える。すなわち、種々の環境要因(年齢、視距離、輝度)を考慮した、最小の可読文字サイズが決定できるようになった。このレベルを基準として、“最小可読”だけでなく、さらに上の段階として“読みやすい”レベルの文字サイズ等も決めることができる。5.2 ISO(国際標準化機構)における標準化この研究で開発した技術は、国内の標準としてだけでなく国際的にも普及させることができる。式(2)は目の基本特性を表すものであり、どの言語の文字においても成り立つと予想される。特に、数字やアルファベットは文字の構成が類似しており、目の特性が同じである限り、これらの文字に対する判読性はどの国においても同じはずである。この点を確認するため、異なる言語や文字を有する外国語に対して、その可読性を比較検討した。実験では、同じ台紙と印刷技術で作成した、高コントラストおよび高解像度の印刷による実験サンプルを韓国、中国、ドイツ、日本、タイ、米国のそれぞれの研究機関に配布し、その可読性を比較した。韓国はハングル文字、中国は漢字、タイはタイ文字、その他はアルファベットを用い、それぞれ明朝タイプとゴシックタイプを用いた。明朝タイプとゴシックタイプはserif fontおよびsans-serif fontとしてどの文字にも共通で取り入れられている。一般的な違いは、文字を構成する線分の端にあるハネ飾りの有り、無しによって決まる。各国の被験者は、若年者および高齢者ともおよそ20名ずつである。国によって視力の分布や照明レベル等がやや異なるが、同じ実験環境で同時に測定した視力を用いれば、文字サイズの補正や式(2)の適用が可能である。図6(a)、(b)は文字サイズに対する正答率データの一例で、(a)、(b)はそれぞれ明朝タイプ、ゴシックタイプの文字判読に対応する。照度等やや条件が異なり、また文字の種類も異なるので、例えば韓国やタイのデータはやや異なるが、各国の実験結果は全体的におよそ一致している。したがって、文字判読能力に関して基本的に大きな差はなく、式(2)による最小可読推定が妥当であると言える。各国それぞれのデータと、式(2)の適用による推定フォントサイズと実測サイズを比較した結果が図6(c)である。式(2)の適用にあたっては、各国の実験条件における実測の視力と視距離が同時に計測されているので、サイズ係数が分かり、表1の係数から最小可読文字サイズが推定できる。ハングル文字、漢字、タイ文字に対しては表1の漢字11-15画の係数を、アルファベットに対してはひらがな等の係数を用いた。日本およびタイのデータがやや異なるものの、推定フォントサイズは全体的に実測値(80 %判読率サイズ)とよく一致していることが分かる。ただし、まだ予測性は十分とは言えない。例えばハングルやタイ文字等では日本語文字とは字形が大きく異なるので、当然のことながら式(2)中のaおよびbの値も異なるはずである。これらの値を適切に定めれば、式(2)による推定はさらに改善できると思われる。国際比較した実験結果に裏付けられた最小可読文字サイズの推定方式は、ISOにて国際標準化の審議が開始されている。国際的にはアルファベットが多く用いられているので、まずアルファベットや数字を対象として、式(2)の推定式および係数の値を確立するのが適切と思われる。さらに、漢字やアラビア数字、タイ文字や韓国(ハン

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