Vol.6 No.1 2013
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研究論文:高齢者でも読める文字サイズはどのように決定できるか(佐川ほか)−37−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)要因は特に重要となる。それぞれの影響の概要はこれまでの先行研究で判明していたものの、これらの要因の相互関係は不明であり、文字判読に関する統合的研究が必要であった[6]。人間の視力は、心理物理学的手法によって詳細に計測することが可能である。この研究では、歪みのないフラットな高解像度ディスプレイに、ランドルト環と呼ばれる切れ目のある円環視標をさまざまな大きさで提示し、その切れ目が認識できるか否かをモニターである被験者に判断させる。大きな視標であれば100 %の正確さで認識できる。逆に、小さいと認識は0 %となるが、実際には偶然の確率があるので0 %とはならず、この点は一般的な心理物理学的測定法にしたがって確率的に補正を加える。こうした知覚確率曲線と呼ばれるデータから、ある基準(ここでは80 %正答率)を設定して閾値を求め、これをその観測者のその観察条件における視力とする。観測者は10歳代から70歳代までの111名であった。その内訳は10歳代11名、20歳代28名、30歳代11名、40歳代10名、50歳代10名、60歳代22名、70歳代19名であり、20歳代と60~70歳代の年齢層を多くとっている。この研究では60歳代以上を高齢者、20歳代を若年者として扱うが、一般にはさまざまな定義がある。高齢者は医学的に特別な眼疾患のない人に限定している。これら若年者から高齢者までの被験者は、実験に際してあらかじめ遠点(5 m)において最高の視力が得られるように補正した眼鏡を用いた。いわゆる遠点補正眼鏡による矯正視力である。被験者自身が保有している眼鏡は適性が不明であり、データの信頼性を得るために、この遠点補正は視力の計測条件を整え、基盤的データを収集する上では極めて重要である。視距離は0.3、0.5、1、2、5 mの5段階を設定した。高齢者は近点の視力が落ちると言われているが、人間の目の近点は一般的におよそ30 cm付近となるので、この点を最小の視距離測定点とした。一方、レンズの特性はディオプター(1/m)で記述される。そこで遠点の代表として視距離5mを採用し、遠方の調節能力の特性をこの点で捕えることとした。これらの視距離の範囲(0.3~5 m)と測定点(5点)の設定により、高齢者の目の調節能力の全容が把握できると考えた。輝度レベルは、人間の目の広範な順応領域を踏まえ、明所視用語1から薄明視用語2の広い範囲をカバーした。具体的には、0.05 cd/m2から1000 cd/m2の間を対数でおよそ均等になる間隔で9点を選択した。図3は、これらの測定結果の平均的な特性をまとめたものである。図3(a)は視力に及ぼす視距離の影響を示したものであり、図3(b)は輝度の影響である。図3(a)に見られるように、視距離の影響は40歳代から顕著に現れ、近距離になると視力が急激に低下していく。すなわち、高齢者に近点で文字を見せる場合は、文字サイズを大きくしなければならない。一方、輝度の影響についてみると、どの年代でも輝度が低下するにつれて視力も低下する様子が見られる。輝度の変化に対して視力が変化する様相は、全体的な視力のレベルに差はあるもののどの年代も同じであり、ここでは年齢効果は見られない。環境要因による視力の変化は把握することができたが、このデータは文字サイズと直接関連してはいない。そこで、視力を計測した場合と同じ条件のもとに、日本語の文章で用いられる文字(以下、日本語文字と言う)がどのくらいのサイズまで読めるかを同様な環境において行った。この時、視力と同様に80 %正答率をもって可読とした。この結果により、視力と文字サイズを直接結びつけることができる。図3 視力に及ぼす視距離および輝度の影響(a)視距離の影響。輝度100 cd/m2に固定し、視距離を0.3~5 mの間で変化させたときの結果。(b)輝度の影響。視距離5 mに固定し、輝度を0.05~1000 cd/m2の間で変化させたときの結果。(a)、(b)共に、10歳代から70歳代までの観測者計111名の年代別平均値。10歳代20歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代輝度 (cd/m2)(b)輝度の影響(a)視距離の影響10001001010.10.011010.11.00.1視距離(m)視力
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