Vol.6 No.1 2013
39/70

研究論文:高齢者でも読める文字サイズはどのように決定できるか(佐川ほか)−36−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)字サイズの推定方法を例にとり、我々が行ったアクセシブルデザイン技術の開発と標準化をとおした技術の普及を述べる。前章で述べたように、アクセシブルデザインの考え方に基づいて問題を解決する場合、対象は個人ではなく集団が対象となる。印刷や表示された文字は、一度デザインされると多くの人が見ることになり、デザインの程度によって読める対象やその数が異なることは言うまでもない。そこで、この研究では高齢者という年齢層の人々を対象とし、より多くの高齢者が読みやすい文字を提供するための技術を検討した。すなわち、最大限多くの人々を対象とするアクセシブルデザインの基本概念をこの研究の基礎に据えた。個々人から見ると必ずしも最適とは言ないケースが生じる懸念もあるが、より多くの人々を対象とすることによる公共性の拡大を重視した。ここで、不特定多数を対象とすることから、アクセシブルデザインでは集団の特徴を抽出し、最適化するという視点が重要となる。あるデザインにより最大数のユーザーを得ようとするには、その集団の特性の分布や特徴を必ず把握しなければならない。この考えは、標準化という考え方に相通じる。標準はより多くの利便性、効率性、効果性を期待して作成され、開発された標準の普及の度合いはまさにその適切さに依存する。アクセシブルデザインの概念も全く同じであり、高齢者や障害者という多くのユーザーが抱える問題を、彼らの特性に基づく技術開発によって解決する。開発されたデザイン手法は標準化という手段によって効率的に普及が図られる。具体的には、例えばエレベーターの点字表示等はその位置や記載方法等を定め、この情報を多くの視覚障害者が共有して初めて意味をもつ。障害者ほど、この共通性や一貫性が効率的な普及を促す要因となる。こうした点が、アクセシブルデザインが標準を必要とし、その概念や利点を最大限に利用する理由となる。具体的な技術開発のシナリオを図2に示す。技術要素を観察条件と文字のデザインの条件に分け、前者は3つの重要な要因(サイズ係数、輝度、年齢)に統合し、後者はフォントタイプと文字種の主要因に統合して、これらの要因を用いて可読データの収集を行った。この結果は最小可読文字サイズの推定法の技術に集約され、最終的に読みやすい文字設計の国内規格開発という目標に繋げる。すなわち、この段階が構成と統合のプロセスである。さらにこの研究の最終目標として国際規格開発を掲げ、必要となる海外のデータを収集した。そのデータを踏まえて、最終的に最小可読文字サイズ設計の国際標準という目標を設定した。この研究はこうしたアクセシブルデザインの概念と標準化の考えに基づいたシナリオと研究開発によって実施された。4 最小可読文字サイズの推定4.1 基盤データの収集この研究における技術開発のポイントは、高齢者を含む、より多くの人々を対象として、文字の可読性と視力の関係における一般的特性を把握することにある。視力は、人間の目が空間的に見分けられる最小のすき間を視角θ(単位は分)で表し、その逆数(1/θ)で定義される。視力1.0は視角1分が見分けられることを示す。この視力の良し悪しによって読める文字サイズが変化することは容易に理解できるが、この間の定量的関係は未知であった。特に、年齢によって変化する様相や、高齢者の特定の年代における視力変化等は十分知られていなかった。これらの関係を多くのデータ収集を踏まえて統計的に導くことがこの研究の一つの課題であり、これによって年齢に応じた適切な文字サイズの設計方法を開発することができる。さらに、さまざまに変化する実生活の環境に適用するためには、この関係性は主要な環境変動要因を踏まえて、より一般的な条件について確立されなければならない。視覚の基本特性から見ると、人間の視力はさまざまな観察条件において変化することが知られている[5]。この主たる要因として、(1)年齢、(2)視距離、(3)輝度レベル(文字背景の明るさ)の3つが挙げられ、これらの要因ごとに視力の変化を把握することが必要となる。前述した視力は距離に無関係に視角で定義されたが、目の調節能力は年齢とともに視距離に依存するので、年齢と視距離の図2 この研究の技術開発のシナリオ可読性の視覚的問題を要素選択から主要因(サイズ係数、輝度、人の年齢、フォントタイプ、文字種)に統合し、それらを用いて可読データの収集を行い、可読文字サイズ推定法を導く。その技術を、研究目標である文字設計法の国内規格や国際規格として確立する。国際規格開発のためには外国語文字の可読データも海外において収集する。外国人による 外国語文字の可読データ研究目標構成と統合要素選択可読閾値の設定文字種人の年齢フォントタイプ輝度(明るさ)サイズ係数ゴシックタイプ明朝タイプ(文字条件)人の年齢漢字(複雑)(観察条件)暗所視漢字(単純)アルファベットひらがな・カタカナ・アラビア数字薄明視明所視視距離視力国際的設計標準(国際規格)日本の設計標準(国内規格)最小可読文字サイズの推定法可読データ(日本人・日本文)の収集

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です