Vol.6 No.1 2013
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研究論文:高齢者でも読める文字サイズはどのように決定できるか(佐川ほか)−35−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)この論文では高齢者の視覚的課題を取り上げ、その中でも年齢にともなう視力の衰え(加齢変化)と文字の読みにくさに焦点を当てて問題解決に向けて我々の取った考え方と方法論を述べる。文字の読みにくさは、日常生活における不便さ調査でも最も多く指摘されている課題の一つである。我々は、家電製品の説明書や注意書き、包装ラベル、製品タグ、案内パンフレット等々、安全や操作に関するさまざまな情報を主として文字から読み取る。高齢者やロービジョンと呼ばれる視覚障害者には、ここに多くの不便さが存在する。これらの人々に対して、読みやすい文字を提供することは極めて重要であり、安全で快適な社会生活の基盤整備や向上に繋がるものと期待される。この論文ではさらに、開発した文字設計手法やデータを広く社会に普及させるための手段として標準化をとりあげる。この研究において標準化は重要な位置付けにあり、その考え方と有用性、さらに標準化に必要な技術的視点や研究の特徴についても述べる。2 問題解決への二つの手法高齢者や障害者が有する問題にはさまざまな側面から取り組まねばならないが、人間工学的手法から見ると、その解決方法には以下の二つの考え方がある。まず一つは、福祉用具からの考え方である。この考えでは加齢や障害によって衰えた機能、あるいは失われた機能を、特別な用具や機器を身体に装着・付加して補い、若年者や障害のない人と同様な機能を回復させるものである。すなわち、ここでは製品や環境、サービス等には何ら修正や変更を加えず、そのまま利用してもらうことになる。この手法は実際に“福祉用具”という研究領域で開発されているものであり、人間機能を人工的に向上させるというデザイン概念である。これに対してもう一つの考え方では、製品や環境、サービス等を、衰えた機能や失われた機能のままでも利用できるように製品側のデザインを修正・変更する。すなわち、人間機能の衰えがあっても、特別な用具を用いずに利用できるようにする考え方である。この手法は“アクセシブルデザイン”という研究領域のもとに進められているものであり、この論文の基盤となるデザイン概念である。類似する概念に、ユニバーサルデザイン、バリアフリーデザイン、インクルーシブデザイン等がある。それぞれの間で具体的手法は異なるものの、福祉用具をあてがうのではなく、人間機能に合わせて製品等をデザインするという意味ではアクセシブルデザインと同じ概念である。この二つのデザイン概念と解決方法を、文字の読みにくさという問題に適用してみよう。図1はその違いを示す概念図である。図の左側に示す福祉用具の考え方では、文字が読みにくい原因を人間の視力の低下と考え、この視力を技術的に向上させることを考える。具体的には、眼鏡や拡大鏡を開発することに該当する。適切な眼鏡や拡大鏡を開発することにより、例えば視力の衰えた高齢者でも、小さな薬瓶ラベルの文字を読むことができる。視力という人間機能を小さな文字に合わせる考え方である。この手法では、眼鏡は特定の個人に最もよく合うものとして開発され、他人には無用となる。すなわち、個人専用であり、想定された個人の身体に付加・装着することでその個人の問題を解決することが基本である。一方、アクセシブルデザインの考え方では、文字の読みにくさの原因は文字サイズが小さすぎることにあると考える。したがって、文字を大きくする等、文字を適切にデザインする。ここではもちろん眼鏡等の使用は前提とせず、文字のデザインから問題を解決する。文字という製品側の要素を、低下した視力に合わせるという考え方である。製品側のデザインであるので個人対応ではなく、同じく視力の低下した多くの人々が読めるようにすることができる。ここでは、デザインをする前に、対象のグループや集団がどのような(低下した)機能・能力を有するグループか、その特性をあらかじめ把握しておくことが必要となる。この過程でグループの特徴抽出や標準化の重要性がクローズアップされてくる。3 開発と普及のシナリオこの論文では、視力の加齢変化を考慮した最小可読文図1 アクセシブルデザインおよび福祉用具の基本概念と特徴可読性の問題を例として解決の方法を示す。左側は福祉用具の概念を示すもので、眼鏡のように個人対象のデザイン手法。右側がアクセシブルデザインの概念で、大きな文字サイズによる製品のデザインをすることにより、問題の解決を図る。■グループ対象■ 製品の性能向上製品・環境のデザイン(アクセシブルデザイン)■個人対象■身体の機能向上人間製品・環境人間機能のデザイン(福祉用具)用法一日3回食後服用、・・・・・・・・用法一日3回食後服用、・・・・・・・・用法一日3回食後服用、・・・・・・・・人間製品・環境
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