Vol.6 No.1 2013
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研究論文:地下水観測による地震予知研究(小泉)−33−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)しょうか。地震発生プロセス(準備過程)について、最近の海外事例についてコメントをお願いします。回答(小泉 尚嗣)地震に関連した地下水変化に関する観測・研究については、台湾以外に米国地質調査所(USGS)とも連携を続けてきています。観測事例を増やすために、このような連携が今後さらに重要になることは事実で努力を続けたいと思います。地震後の解析で、前兆滑りの可能性のある現象が観測された海外の事例としては、1960年チリ地震(M9.5)、1997年カムチャッカ地震(M7.8)、2001年ペルー地震(M8.4)の最大余震地震(M7.6)があります。日本では、1944年東南海地震(M7.9)、1946年南海地震(M8.0) に加えて、1964年新潟地震(M7.5)、1983年日本海中部地震(M7.7)があります。また、2011年東北地方太平洋沖地震についても、直前の地震活動の移動の様子や、海底津波計の観測結果から、前兆滑りが発生していた可能性が示唆されていますが、東海地震の前兆滑りで想定されているような滑りの加速はなかったようです。このような結果を受けて、今後、地震発生プロセスに関しては、今までのモデルの見直しや新たなモデルの提出があると考えられます。モデルの改善・創出と精密な観測データとは密接な関係があります。今後も、モデルに適切な拘束条件を与えるべく、精密な観測・解析を行う一方、国内外の地震発生プロセスの研究成果を注意深く収集していきます。議論6 気象庁の体積歪計と地下水観測コメント(佃 栄吉)地下水の観測データの価値について、気象庁の体積歪計があれば必要ないとも読めます。地下水データの特徴と他のデータとの補完性についてもう少し詳しく述べてはいかがでしょうか。回答(小泉 尚嗣)この論文でも述べましたが、ノイズレベルから推定できる地下水観測の歪検出精度は、体積歪計のそれに比べて同程度~やや劣ると考えられますが、水位計等の地下水観測機器の価格が、体積歪計のそれに比べて1/10~1/100であることを考慮すると、コストパフォーマンス的に優れているといえます。また、歪計等の高価な地殻変動観測機器が整備されていない地域や国々においても、地下水位等の観測が行われている所が多いことも考慮すれば、地震予知のための手法として地下水観測は汎用性に優れているともいえます。さらに、歪観測と地下水位観測は独立なので、両方のデータが前兆滑りモデルのような一つの物理モデルで説明できる場合は、物理モデルそのものとその物理モデルが示す予測への信頼性が増すと考えられます。議論7 地下水による地震予知研究の社会的リスクコメント(佃 栄吉)地下水の変動については、論文にあるとおり、観測が比較的容易であることや、生活に密接なものであるので、一般の宏観現象として、報告されることも多々あり、精度の悪い民間情報(多くは誤情報)が発信されて、社会が混乱する恐れもあります。その際に、長年にわたる科学的観測データが重要であり、社会的役割も大きいと思います。気象庁との連携等も必要と思います。想定される対応についてコメントをお願いします。回答(小泉 尚嗣)ご指摘のとおり、きちんと管理された精度のよい地下水観測データを示すことで、地震予知に関する誤った情報の流布を防止できると考えます。したがって、観測データのグラフを公開しています。地震と地下水に関する研究成果については、積極的なアウトリーチ活動(産総研の一般公開や出前講座等)を行っています。気象庁とは、観測データや解析結果を提供するだけでなく、地震に関する種々の情報・解析手法等について共有するようにしています。異常な地下水変化等について気象庁に問い合わせがあったときは、我々の方から適切な解釈の仕方について情報を提供することもあります。また、民間に限らず、地震に関して発信される種々のデータやモデルに対して、自治体の防災担当職員が正しく解釈・判断できることが、社会的な混乱の予防に重要という観点から、観測点を置いている自治体の防災担当職員を主な対象として「地震・津波に関する自治体職員用研修プログラム」を実施しています。

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