Vol.6 No.1 2013
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研究論文:地下水観測による地震予知研究(小泉)−30−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)い、揚水の影響が少ない、地下水位の体積歪感度が高いといった条件で観測井戸を選び出して地下水位観測網を作れば、短期間で「簡易」地殻変動(体積歪)観測網ができることになり、前兆的地下水位変化検出システムをその地域に適用することが可能になる。また、以前の地下水位データを体積歪感度を使って洗い直すことで、過去にさかのぼって地震前後の地殻変動を推定することも可能になる。以上のことから、その地域の地震災害軽減に低コストで貢献できると考えられる。このような考えに基づいて、我々は、台湾の成功大学と地下水観測による地震予知研究について2002年から共同研究「台湾における水文学的・地球化学的手法による地震予知研究」を行っている[32]。この背景には、1999年に台湾西部で発生した集集地震(モーメントマグニチュード7.6)で大きな被害が生じた結果、将来の地震予知も視野に入れた地震・活断層研究が2001年から台湾で活発になったことがある。約10年間の共同研究によって、1999年集集地震に伴う地下水変化のメカニズムに関する研究[33][34]、地震に伴う地下水変化に関する研究を行うための16点からなる地下水観測網の構築、同観測網での地震時~地震後の地下水変化の分析[35]等において成果をあげてきた。他方、既存の地下水観測井戸のデータを用いる場合は、人工的な揚水の影響を受けることが多くS/Nの評価については大きな課題である。前兆的地下水位変化検出システムの技術移転を台湾に行うことで、人材の養成も含めて台湾側の地震防災に貢献できる。また、台湾は日本以上に地震活動が活発であり、通常の地殻変動の大きさは年率にして日本の10倍以上に達するところもある。したがって、日本で観測するよりも短期間で、地震や地殻変動に対する地下水変化の観測例を蓄積することができるので、台湾において地震と地下水・地殻変動の観測・研究を行えば、より効率的に研究成果をあげることができる。今後とも、双方にメリットのあるこの共同研究を続け、将来的には東南アジアの地震災害軽減に貢献したい。6 2011年東北地方太平洋沖地震後の地震予知研究に対する考え方地震発生の場所・規模・時期をあらかじめ推定して震災軽減に役立てようという研究において、先人たちが「予測(あらかじめ推し測る)」という言葉ではなく、「予知(予め知る)」というより強い言葉を使ったのは(例えば、今村(1929)[36])、地震前の防災行動に直接つながる「精度の高い予測」を目指したからだろう。実際の所、地震予知研究に携わる研究者が、現在に至るまで終始一貫行ってきたのは「地震予測」の研究であり、その精度を高める努力を続けてきたわけである[37]。その成果の一つとして、日本およびその周辺域における地震の長期予測が行われるようになった[38]。しかし、2011年東北地方太平洋沖地震は、これまでその場所で地震学者が想定してきた規模をはるかに上回るマグニチュード9に達し、主に津波によって約2万人の死者・行方不明者を出して、我々の予測のレベルが予知と呼ぶには不十分なことを示した[39]。ただし、データが少なくて評価不能な三陸沖中部や福島県沖(想定地震規模M7.4、30年発生確率7 %)を除く、三陸沖北部・宮城県沖・茨城県沖では、M7−7.5クラスと想定された規模の地震の30年発生確率は80 %以上と高かったので[40][41]、地震の長期予測における場所と時間予測についてはおおむね的中したとも考えられる。特に、宮城県沖では、2005年にM7.2の地震が発生していたのにも関わらず、GPS等の観測結果から、想定されている震源域周辺ではまだエネルギーが解放されていないとして、引き続き30年以内での発生確率99 %という数値(地震調査研究推進本部の長期予測確率の最大値)を変更せず警戒を呼びかけていたのも事実である[42]。このように、同地震前の予測に関しては、科学的にも防災的にも評価できる部分があり、「地震予知(予測)の研究は無駄」といった批判は的外れであろう。今後、2011年東北地方太平洋沖地震の事前の予測とその結果についての科学的な評価・検証を十分に行った上で、さらに地震予知研究を進めるべきと考える[43]。7 まとめ長期の地下水観測と解析結果に多孔質弾性論と(気象庁が明確化した)東海地震予知モデルを組み合わせた第2種基礎研究の結果、「前兆的地下水位変化検出システム」を構築し、アウトカムとして東海地震予知事業に貢献している。「前兆的地下水位変化検出システム」を東南海・南海地震予測にも適用するために、四国から紀伊半島地域にも地下水等総合観測網を拡大し、観測と研究を続けている。また、同システムを用いて東南アジアの地震防災にも貢献するため、台湾で2002年から国際共同研究を行っている。台湾は日本より地震活動が高く、地殻変動も大きいので、日本で観測するよりも効率よく地震と地下水との関係がわかる可能性もあり同システムの改善への期待が持てる。2011年東北太平洋沖地震では、地震の規模を過小評価したことも一因となって大きな被害が出たが、場所や時期については、予測はある程度当たっていたとも考えられる。科学的な検証を行った上でさらに地震予知研究を進めるべきである。

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