Vol.6 No.1 2013
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研究論文:地下水観測による地震予知研究(小泉)−29−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)る。したがって、図6のモデルで1946年南海地震前の地下水変化を説明するためには、前兆すべりによる微小な地殻変動があることに加えて、それによって不圧地下水が大きく変化する何らかの特殊なメカニズムが必要となる。被圧地下水が先に水位を低下させた後、不圧地下水から被圧地下水へ水が移動し、不圧地下水も水位が低下するというのはあり得る一つのメカニズムである。このような特殊なメカニズムの存在する場所が限られているために、1946年南海地震前の地下水位低下の出現率は低いのかもしれない。4.3 新たな観測システムの設計と整備以上のことから、東海地震用に構築した「前兆的地下水位変化検出システム」を東南海・南海地震にも適用するためと、過去の南海地震前の地下水位低下メカニズムを明らかにするために、産総研は、地下水等総合観測点を2006年度から2012年度までに、整備中のものも含めて四国~紀伊半島周辺に16点構築し(図1)、東海地域の観測網と統合して観測・解析を行っている[22]。観測点の選定にあたっては、過去の南海地震前後に地下水が変化した場所や(図3)、東南海・南海地震の想定震源域に近い場所(図1)、および、後述する短期的ゆっくりすべりや深部低周波微動の発生位置を考慮して決めた(図1)。歴史的にみれば、東海地震は、東南海・南海地震と連動して発生するのが通例なので(図2)、この観測と解析は東海地震予知にも役立つ。四国から紀伊半島に整備した新たな産総研の観測点では(図1のN1-N14)、地下水の観測に加えて歪や傾斜や地震の観測も行っている。近くに国土地理院のGPS観測点がない場合はGPSも測定している。過去の南海地震では、被圧地下水と考えられる深い地下水(温泉水)だけでなく、不圧地下水と考えられる浅い地下水も変化したとされており(図3)、上述のように鉛直方向の地下水の移動があり得ることから、深さの異なる3本の井戸を掘削して水位(水圧)・水温の観測を行っている(図8)。現在整備中のN15・N16観測点でも同様の観測を行う予定である。なお、観測データはリアルタイムで産総研に送られている。また、産総研を経由してリアルタイムで気象庁にもデータが送られている。東海地震および東南海・南海地震の想定震源域の深部延長では、想定されている前兆すべりに酷似した短期的ゆっくりすべりが深部低周波微動[24](プレート境界付近の深さ30−40 km程度で発生し、通常の地震より低周波の微弱な波を出し、始まりと終わりがはっきりしない地震)と共に年に数回発生することが知られており[25]、その時空間分布を正確に把握することが東海・東南海・南水位計水温計地震計30 m200 m歪・傾斜・地震計孔1孔2孔3GPS600 m海地震の予測精度向上に必須である[26]。短期的ゆっくりすべりが拡大して想定震源域にまで及べば、本震を誘発することが考えられる。さらに、震源域に応力が集中して本震の発生が近づくと、震源域の深部延長部分でも応力状態等が変化して短期的ゆっくりすべりの発生パターンが変わることがシミュレーションで推定されている[27]。産総研は、防災科学技術研究所や気象庁と協力してこの短期的ゆっくりすべりや微動のモニタリングを行っていて、今までよくわかっていなかった紀伊半島での短期的ゆっくりすべりの時空間分布[28][29]や微動の高感度検出[30]等においてすでにいくつかの成果を出している。同時に、この短期的ゆっくりすべりによって地下水がどのように変化するかどうかも調査している。現状では、一部の観測点の被圧地下水について、短期的ゆっくりすべりに伴う地下水圧の変化は検出されているが[31]、それは、歪変化等から想定される範囲内である。また、短期的ゆっくりすべりに伴う不圧地下水の水位変化は検出されておらず、過去の南海地震前の地下水位低下メカニズムを明らかにするには至っていない。これらの観測データのグラフは、http:/www.gsj.jp/wellweb/で公開しており、グラフは毎日更新している。5 地下水観測による地震予知研究手法を海外にも適用する試みについて地殻変動観測機器は一般に高価であり、地震リスクが高くても、地殻変動観測が不十分な地域や国々はたくさんある。例えば、東南アジアの国々もその一例である。しかし、そのような国々でも、地下水の観測は、地震予知以外の目的で一般に行われている。降雨の影響が少な図8 N1-N16観測点(図1)における典型的な観測システム
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