Vol.6 No.1 2013
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研究論文:地下水観測による地震予知研究(小泉)−28−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)に伴う地殻変動を事前に検出できれば地震予知ができることになる。気象庁(2003)[21]がこのような前兆すべりによる地殻変動検出による東海地震予知シナリオを発表したとき、地下水変化を体積歪変化として評価できるようになっていた我々はそれに対応して地下水観測による定量的な地震予知方法を作り上げた[17]。この方法を使うことで、歪計・傾斜計・GPSといった地殻変動観測機器と同様にして地下水位変化を定量的に評価できるようになった。図7は、産総研の榛原観測点の直下でマグニチュード6.5の大きさに相当する前兆すべりが生じた時に想定される、気象庁観測点での体積歪変化と産総研観測点での地下水位変化を示したものである。上述のように、産総研の地下水観測点のノイズレベルは体積歪に換算して気象庁の体積歪観測点の同程度~数倍なので、それを反映して有意な変化の検出は気象庁の体積歪観測点と同程度か遅れる。他方、実際にこのような変化があった場合には、歪観測とは独立な観測である地下水位観測結果も前兆すべりで説明できることから、前兆すべりが発生しているという推定への信頼性が増すと考えられる。もちろん、前兆すべりの場所や大きさによって現れる水位変化は異なるので、我々は、東海地震の想定震源域周辺すべてで前兆すべりの大きさも変えて同様の計算を行って、観測値と比較できるようにしている[17]。このような観測から解析にいたる手順一式を、我々は「前兆的地下水位変化検出システム」と呼んでいる。このシステムによって、地下水観測による前兆現象検出についての精度が増し、東海地震予知手法全体についての信頼性向上に貢献したと考えられる。産総研の東海地域における地下水観測データは産総研を経由してリアルタイムで気象庁に送られていて、東海地震予知のために気象庁で24時間監視されている。すなわち、産総研による東海地域での安定な地下水観測そのものが社会的なアウトカムとなっている。4.2 前兆すべりモデルに基づく過去の南海地震前の地下水変化の解釈上述の前兆すべりモデルに基づいて2章で示した南海地震前の地下水低下を考えてみる。南海トラフのプレート境界で南海地震の前に逆断層型のゆっくりしたすべり(前兆すべり)があれば、四国や紀伊半島では広い範囲で地震前に地盤が隆起し体積歪が増加する。被圧地下水は体積歪が増加すると上述のように水位が下がり得る。不圧地下水は体積歪変化に対して鈍感だが、海岸付近の不圧地下水は海水と圧力平衡にあるので、地盤が隆起すると、相対的に低下した海水面に呼応して(陸地の表面から見て)水位が低下する(図6)。したがって、過去の南海地震前の地下水位や温泉湧水量の低下は、定性的ではあるが前兆すべりによって説明することができる。他方、1946年南海地震における不圧地下水の地震前の変化については、京都大学防災研究所(2003)[23]の前兆すべりモデル(1946年南海地震の断層の一部で、本震の10%程度のすべりが地震前に生じたとするモデル)で予測される隆起量が最大でも数cm程度なので、上述した数十cm以上という水位低下の振幅は説明できない。他方、同じモデルによる体積歪増加は大きく、被圧地下水の水位ならば数十cm以上の低下も可能である[16]。しかし実際には、1カ所の勝浦の温泉を除いて、浅い地下水と考えられるものの水位が大きく低下していフィリピン海プレート1)滑り駿河・南海トラフ2)地盤 隆起・沈降2)地盤の伸縮3)不圧地下水 水位変化3)被圧地下水 水位変化草薙 大東 小笠 榛原 10 cm-72 -48 0-24本震までの時間本震発生 気象庁 歪計 産総研地下水位 草薙 草薙 榛原 榛原 小笠 小笠 大東 大東 -72 -48 0-24東海地震の想定震源域図6 プレート境界で逆断層型のすべりがあったときの地盤の隆起・沈降と伸縮およびそれによって地下水位変化が生じることを示す模式図図7 前兆すべりに伴う地下水位変化のシミュレーション[17]左側の小さな○は産総研の地下水観測点の位置。灰色のナスビ状の形は東海地震の想定震源域を地表に投影したもの。左側の想定震源域の中の灰色の四角で示した矩形状の断層でM6.5相当の前兆すべりが72時間かけて生じた時に気象庁の歪データや産総研の地下水位データにどのような変化が生じるかを計算したのが右の図。通常時のノイズレベルを越えたときに「有意な変化」として▼印を入れている。

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