Vol.6 No.1 2013
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研究論文:地下水観測による地震予知研究(小泉)−27−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)された)水圧には、この期間ではほとんど変化がないことがわかる。4 東海・東南海・南海地震予測と産総研の地下水等観測図2に示したように、駿河~南海トラフで最も近年に発生したM8クラスの巨大地震は、1944年東南海地震(M7.9)と1946年南海地震(M8.0)である。この二つの地震では、震源域が駿河トラフまで及んでいなかったので、駿河トラフでの巨大地震(東海地震)が切迫しているとされ、大震法が1978年に制定されて国による地震予知事業が始まった。産総研は旧工業技術院地質調査所のこの事業を継承し、東海地方周辺に地下水観測点を設け、観測データを気象庁に提供し、東海地震の判定を行う地震防災対策強化地域判定会の説明者として国の地震予知事業を当初から分担してきた[16][17]。我々は、東海地方での長年の地下水観測によって、通常時の観測点毎の地下水変化の特性をつかむとともに、図4に示したような気圧や降雨の地下水への影響を統計的に除去するプログラムを開発し[15]、地下水観測のS/Nを向上させてきた。加えて、多孔質弾性論を用いることで、地下水の観測によって体積歪変化も推定してきた。その結果「体積歪観測」として考えたときの地下水観測のS/Nを定量的に評価できるようになっていった。観測された地下水位(水圧)・湧水量には、平常時において、気圧や降雨・潮汐の影響を除去しても、図4の補正値に示すように長期的な上昇や下降といった変化が残る。また、期間を24時間以内といった短期間に限っても数mm~数cm程度の水位変化が残る。このような変化は「ノイズ」と考えられる。そのノイズのレベルを越える変化があったときに異常な地下水変化として検出できることになる。このようなノイズは体積歪を直接観測した場合でも存在する。地下水観測のノイズレベルと体積歪観測のノイズレベルは、そのままでは単位が異なるので比較ができないが、上述のkを使うことで、地下水データを体積歪データに換算でき比較可能となる。図5は、地下水位のノイズレベルを体積歪に換算し、気象庁の体積歪計のノイズレベル(1999年時点)と比較したものである。地下水位も歪も長期的な変化におけるノイズの見積が困難なので、1時間、3時間、24時間といった短い時間の差(階差)の中でのノイズレベルを見積もっている。気象庁では、1999年の時点では歪計における雨量補正を行っていなかったので、降雨時と通常時(降雨のない時)を区別してノイズレベルを求めているのに対し、産総研は水位において降雨補正をしているのでその区別をしていない。産総研の地下水観測点のノイズレベルは、気象庁の体積歪計のそれに比べて同程度~数倍程度である。水位計等の地下水観測機器の価格が、体積歪計のそれに比べて1/10~1/100であることを考慮すると、コストパフォーマンス的に優れていることがわかる。また、後述するように、歪計等の高価な地殻変動観測機器が整備されていない地域や国々においても、地下水位等の観測が行われている所が多いことも考慮すれば、地震予知のための手法として汎用性に優れているともいえる。21世紀に入り、次の東南海・南海地震の切迫性が増すと[20]、「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が2003年に施行され、同地震に対する観測施設の整備が求められた。同法は、国に四国・紀伊半島を中心とする東南海・南海地震防災対策推進地域において地震防災対策を求める一方で、観測網の整備と研究も求めている。このようななか、産総研は、東南海・南海地震予測のために、紀伊半島~四国周辺に地下水等観測施設を2006年度から新規に構築して2011年度末までに14点の整備を終え、現在は、さらに新規2点を整備中である(図1)。これについては4.3で述べる。4.1 地下水観測による東海地震の前兆すべり検出現時点で東海地震の最も有望な前兆現象は、地震直前に将来の地震発生域周辺で起こるゆっくりすべり(前兆すべりまたはプレスリップと呼ぶ)である。図6に、プレート境界で逆断層型のすべりがあったときの地盤の隆起・沈降や伸縮およびそれに伴う地下水位変化を模式的に示した。このようなすべりが地震直前にあって、それ01020304050榛原草薙大東小笠浜岡豊橋1豊橋2(通常)榛原歪計(降雨)榛原歪計(通常)静岡歪計(降雨)静岡歪計(通常)浜岡歪計(降雨)浜岡歪計1時間階差3時間階差24時間階差地下水位(歪換算)のノイズレベル歪計ノイズレベル体積歪(10-8)図5 東海地方における、産総研の主な地下水観測点のノイズレベル(左側7組のグラフ、観測点の位置については図1参照)と気象庁の体積歪計のノイズレベル[18](右側6組)との比較(松本・北川(2005)[19]の図を一部修正)。豊橋には観測井戸が二つあるので、それぞれ豊橋1・豊橋2としている。

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