Vol.6 No.1 2013
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研究論文:地下水観測による地震予知研究(小泉)−26−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)他方、多孔質弾性論は、空隙のある弾性体を考え、その空隙が水で満たされている状況での、応力・歪・空隙中の水圧・空隙中の水の量(以降、単に含水量と称す)との相互関係を示す理論である[10]-[12]。空隙中の水=地下水、空隙中の水圧=空隙圧=地下水圧=地下水位とみなせば、この理論を用いることで地下水と地殻変動を結びつけることができる。多孔質弾性論の立場から考えると、地下水と地殻変動は密接な関係があるので、地殻変動を正確に理解するためには地下水の観測が必須ということになり、この理論を用いることで、地殻変動を仲立ちにして地下水と地震とを理論的に結びつけることができる。実際には、地下深部の地震発生位置付近の含水量や空隙圧を把握するのは難しい。現状の我々の解析では、地震の断層モデルとそれによって生じると考えられる地殻変動については弾性論を用い、その地殻変動と地下水変化との関係については多孔質弾性論を用いる形をとっている。地殻変動と地下水変化との関係で実際によく用いるのは、地震に伴う地殻変動は地下水の移動に比べて十分早いとして含水量の変化はないとしたときの、地殻の体積変化(体積歪変化:ε)と地下水圧変化(p)との比例関係式p = kε (1)である。観測された地下水圧変化から体積歪変化を求めたりその逆を行うのである。ここでkは、地下水圧の体積歪変化に対する感度(以降、単に体積歪感度)とも呼ぶべきものである。地下水圧変化を体積歪変化に換算するのに必要な感度kは、月や太陽の引力による地面の変形(地球潮汐)で生じた体積歪の潮汐変化(日本では10-7程度の大きさ)によるpの変化によって一般に見積もっている。地下水は大きく不圧地下水(水を通さない地層や岩盤の上にある自由地下水面をもつ地下水、自由地下水面では気圧と水圧がつりあっている)と被圧地下水(水を通さない地層や岩盤に挟まれた地下水)に分けられるが、不圧地下水(一般に浅い地下水)ではkはごく小さくて10-7程度の体積歪変化に対する水位の潮汐変化は検出されない。他方、被圧地下水(一般に深い地下水や温泉水)では検出可能で、水位に対するkは、観測点によって異なるがおおむね0.1~10(cm/10-7)程度である[13][14]。図4に三重県津市にあるN14観測点(図1)における2012年3月1日~15日の観測結果を示す。この観測点では、地下水位が地表より上にくるので、井戸を密閉して水圧として測定している。生の水圧データには、気圧や降雨による変化に加え、半日や1日を周期とする変化が見いだせるが、これが体積歪の潮汐変化による地下水圧変化である。気圧や降雨の地下水位(水圧)への影響を統計的に除去するプログラム[15]を用いてそれぞれの成分を分離すると、両振幅で6 cm程度の潮汐成分が認められる。また、気圧・降雨の寄与や潮汐成分を除いた(補正139135131323436南海地震50 hPa50 mm/h40 cm30 cm40 cm20 cm20 cm気圧(N14)降雨(N14)水圧(N14:生データ)水圧(N14:補正値)水圧(N14:降雨寄与)水圧(N14:潮汐成分)水圧(N14:気圧寄与)1510152012年3月図3 1946年南海地震前の地下水位等の低下○:浅い井戸水の水位が低下した11地点、●:浅い井戸水が濁った3地点、(灰色):温泉湧出量が低下した勝浦地点、★:1946年南海地震の震央、実線で囲まれた部分:南海地震の想定震源域、■:道後温泉、(灰色):湯峯温泉。図4 N14観測点(図1)における水圧変化の観測例水圧を水位の単位に換算して表示している。

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