Vol.6 No.1 2013
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−8−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)座談会:科学・技術・イノベーション時代の新しい研究方法なっている気がします。辞書や客観的に言われていることから考えると「従来の壁を破って、全く新しいものに到達すること」であり、従来のものの改造や改良ではなく、“イノベーション”という言葉そのものが社会への出口を非常に意識していると理解すべきです。「従来の壁を破って」となると、創造的人間や有能な人が必要です。そういう人たちの教育と、イノベーションに積極的に参画してくれる人の教育を分けて考えるべきでしょう。前者に対して私はあまり経験を持っていませんが、メーカーは「これだ」と思う人にいろいろと経験させ、失敗もさせ、それで育て上げていくという選択と実践のプロセスです。もっといい教育法があってしかるべきだと思うけれども、まだ思いつきません。もう一つの積極的にイノベーションに参画する人には、イノベーションはどういうものかを正確に教えてほしい。私の理解では、研究成果だけでできるものではなく、これを担う母体である国や企業が必要な投資を積極的に行い、投資のリターンの確実性をより大きくするように計画し、社会の受容性を考え、実現できるようにする。それには規制緩和や政府のインセンティブな策も必要でしょう。また、参画する人は部分的に参画していくわけですから、イノベーションをよくわかっている人たちが全力を挙げて協力して初めてできる。この人たちの育成は具体的にできると思いますので、教育として一つの形を作れるといい。余談になりますが、日本でイノベーションをおこそうと今言っていますが、何個おこすのかということの設定ができていないのではないか。産業を含めた国レベルで考えると、経済の解決のために大きなものを考えないといけない。選択が絶対必要ですし、国としてそういうことを考え、設定するメカニズムが必要ですね。赤松 大学でのイノベーション人材育成を考えたとき、どのようなアプローチがありますか。安西 イノベーティブなプロジェクトマネージャーを育てていかないと日本の将来はないと考え、慶應義塾大学では理工学部にシステムデザイン工学科を立ち上げ、独立大学院としてシステムデザイン・マネジメント研究科を作りました。研究科のほうでもドクターが出始めたところですが、半分以上が実務経験のある学生です。今申し上げたように、イノベーティブなプロジェクトマネージャーを養成するために、システムデザイン能力、システムマネジメント能力、システム思考能力、コミュニケーション能力の育成が目的になっています。イノベーションをおこすようなマインドにさせる学習の場を作るということが肝心です。新しいことを発想し、チームで仕事ができ、チームのリーダーになれる、そういう人材養成を念頭に置いて詳細なデザインを描き、プロジェクトを通して学べる実践的なカリキュラムを作っています。文理融合のチームを作り、企業でイノベーションをおこした教授たちがダイレクトに教える。日本の現状を考えると議論だけしていては間に合わないので、人材育成の実践をしています。赤松 研究科くらいになるとマネジメントの訓練をすることは可能だと思うのですが、もっと早くからそういう感覚を身につけられないかというお話がありました。安西 高等学校の学力中間層の勉強時間がこの15年で半分に減り、大学生については1週間の勉強時間が5時間以下が70 %近くを占めている。それは学生が悪いのではなくて教育方法が悪い。一斉授業で、教壇から教員が一方的に話をして、期末試験では覚えたことを書けば大体単位が取れるという育ち方をしてきて、大学院に行って、ポスドクになって、あるいは企業に行っていきなり「クリエーティブになれ」「イノベーティブになれ」と言われて、できるわけがない。高校までに、合理的な思考の基本を身につけなければいけない。もちろん基礎学力も必要だということで、その二本立てで進めるという議論が中央教育審議会の高大接続特別部会で始まっています。これは非常に大事なことで、日本全体が「言われたことはできるが、新しいことに勇気を持って挑戦しない」とよく言われますが、そこを解決していこうというものです。これこそ小さい時からやらなければいけない教育という空気は盛り上がってきています。これができるかどうかが日本の将来にかかわる。有本 大学の修士課程やドクター、ポスドクと話していると、自分のやっていることが大きな学問体系の中有本 建男 氏
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