Vol.6 No.1 2013
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−7−Synthesiology Vol.6 No.1(2013)座談会:科学・技術・イノベーション時代の新しい研究方法吉川 “もの”を作った人が、どこでうまくいき、どこがまずかったかを記述すればするほど蓄積され、人類は賢くなっていくだろう。今は結果として“もの”しか残っていませんが、“もの”を作った過程も客観的に記述しようという提案がSynthesiologyです。桑原 それは非常に貴重な、残せる事実ですね。有本 小林直人さんを中心にSynthesiologyの論文70編くらい蓄積されたものをアウフヘーベン型、ブレークスルー型、戦略的選択型の3つに分けて構造化されましたが、あれは非常に勉強になります。ファンディングのマネジメントの仕方や、どうやってシナリオを設計し具体化していくかという思考の枠組みを作るときに役立ついいものだと思いました。今後もぜひ続けていただきたい。中村 世の中に価値を生み出すという意味では、すべて構成的なアプローチをとってきていると思うのです。例えば、企業の研究報告の中には隘路となった主要事項が書かれているのではないかと思うのですが、そういうものはなかなか外には出てこない。これらが蓄積されて、そこから何を学べるかというふうになってくるとすごく役立つのではないかと思います。吉川 ちゃんと書いて公開してくれると人類として効率がいいですね。柘植 経済的に社内の財産だからということはあるでしょうけれども、今の学術界の評価関数ではそれをまとめても評価されないというメカニズムがあることも一つの原因ではないでしょうか。そういう意味で、このSynthesiologyを始められた意義は非常に大きいです。イノベーションをおこせる人材赤松 人材育成が重要になってくると思うのですが、いかがでしょうか。柘植 構成的アプローチの役割を担う人材の育成の少し上位の課題として、科学技術創造立国や将来を担う科学技術人材の育成において一番大きな問題は、どんな人材を育てるのか、あるいは自分はどんな人材になりたいのか、育てるほうも育てられるほうも見えていない。教えるほうも、あるいは育つ学生あるいは子どもたちも「どんな人間が社会を支えているか」ということをもっと早い段階から各教育レベルで見えるようにしていくことが大切です。そうすると、自分はこんなふうになりたいというイメージを持って勉強できるのではないでしょうか。科学技術で日本が生きていくなら、少なくとも4つのタイプの人材カテゴリーが必須だと思います。まず、最先端科学技術を担うtype-D(Differentiator)ですが、これには2つあって、純粋のキュリオシティドリブンからなるケースと社会的な目的があるケースです。2つ目は、持っていなければ必ず負けてしまう技術を生み出すtype-E(Enabler Technologies)、3つ目は幅広い基礎技術と基盤技術・技能を有するtype-B(Base)、そして4つ目がtype-D、E、Bを統合し、社会経済的な価値を生み出すtype-Σです。タイプΣ型統合能力人材をいかに育てるかという視点が今の科学技術政策や教育政策の中で私は欠けていると思っているのですが、そこを“見える化”し、教育と研究とイノベーション政策と一緒に育てていく。D型、E型、B型で一芸に秀でた人がひょっとしたらΣ型に育っていくのではないかと思っています。赤松 同感です。私の周りの研究者を見ていても、D型、E型、B型の中でシンセシスに対する感覚のいい人が中にいて、何かの機会にその能力が拡大していくことがあるという印象があります。桑原 シンセシスはそれ単独で主張があるべき分野であることと、構成的アプローチはそれとは全く別のものだけれども、シンセシスを記述していく上では極めて有益な連結ができる一つの手段というふうに全体を整理してほしいと思います。全体の中の一部であるイノベーションについてですが、イノベーションをおこそうと思ったら構成的なアプローチをとらなければいけない、これは明々白々です。ただ、「イノベーションとは何か」という定義が曖昧に桑原 洋 氏
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