Vol.5 No.4 2012
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研究論文:マンモグラフィの安全を支える線量計測(田中ほか)−225−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)場合は、真性半導体層(i層)が放射線に対する有感層として作用する)。電離箱式線量計では電離電流のキャリアが電子-イオン対であるのに対して半導体式線量計では電子-正孔対となり、半導体式線量計は固体の電離箱と例えられる。半導体式線量計は、電離箱式線量計と比べると堅牢性に優れ、温度・気圧の補正が不要等取り扱いの簡便性に優れているため、医療現場での線量評価に多く使われている。しかし、表層のSiO2層や不感層等によるX線の吸収が大きいため、マンモグラフィ用X線のような低エネルギー領域では感度がX線のエネルギーに大きく依存することが知られている。電離箱式線量計、半導体式線量計ともに、マンモグラフィX線(もしくは低エネルギーX線)用のものが開発されているが、線量計の構造上、感度のエネルギー依存性(以下、エネルギー特性という)は避けられない。そのため、医療現場等で実際に測定するX線のエネルギー領域において、正確に値が測定されているX線の標準場を用いて線量計を校正することが学会等からは推奨されている。2.5 国際的な動向欧米諸国では我が国よりも早くから乳がんの問題に直面していたため、精度管理体系の構築も我が国よりも早くから始まっていた。アメリカでは1986年に米国放射線専門医会(American College of Radiology; ACR)がマンモグラフィの精度基準を作成したことを契機に、精度管理が進められた。その後、1992年にはマンモグラフィ品質標準法(Mammography Quality Standard Act; MQSA)が連邦法として成立し、マンモグラフィ検査は法制化されている[8]。この法律によって、マンモグラフィ検査を行うすべての施設が、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA)が承認した検査機関(ACRや州政府等)の認定を受けた上で、FDAによる医療監査と認可を受けることが義務付けられている。この法律の中では、線量計の校正は2年に一度行うことが義務付けられており、国家標準へのトレーサビリティを担保することも明記されている。アメリカの国家標準を担っている国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology; NIST)は、Mo/Mo線質によるマンモグラフィの線量標準の供給を行っている。ACRによって発刊された精度管理マニュアル[9]は、我が国の精度管理マニュアルを作成する際の基礎となっている。欧州では、マンモグラフィの品質管理について、European Reference Organization for Quality Assured Breast Screening and Diagnostic Services(EUREF)が中心となって、ガイドラインが作成されている[10]。このガイドラインでは、線量測定は6カ月に一度行うこととされている。このガイドラインを基に、欧州各国ではそれぞれの方法で精度管理が実施されている。ドイツやイギリス等を中心にMo/Mo線質による線量標準が供給されている。しかし、欧州内においてマンモグラフィ用の線量計の校正をW/Al線質によって実施している国や機関も多く、線質の違いが校正結果に影響を与えることが懸念されていた。そのため、欧州計量標準協力機構(European Collaboration in Measurement Standards; EUROMET)に所属する国および機関の中で、マンモグラフィの線量計の校正に関する国際比較が行われた。この国際比較では、複数の電離箱式線量計と半導体式線量計を巡回させ、各国もしくは各機関が校正に使用している線質(Mo/MoやW/Al等を問わず)で校正し、その校正結果が比較された。その結果、マンモグラフィ用(軟X線用)の電離箱式線量計のようなエネルギー特性が小さい線量計については、線質の違いによる校正結果の影響は、現場での線量測定に対して大きな問題にはならないという結論であった。しかし、半導体式線量計のようなエネルギー特性の大きい線量計については、Mo/Mo等のマンモグラフィ用X線の線質に近い条件で校正することが望ましいと結論付けられた[11]。このような流れの中、国際度量衡局(International Bureau of Weights and Measures)に対して、Mo/Mo線質に準じたマンモグラフィ用の線量標準をもつよう、国際度量衡委員会放射線諮問委員会に参加する各国から要望が上がった。これを受け、国際度量衡局では、Mo/Mo線質によるマンモグラフィ用X線の校正場を整備し、2009年から国際度量衡局を幹事機関とした基幹国際比較が実施されるようになった[12]。2.6 マンモグラフィ用線量標準への社会的要請マンモグラフィのような低エネルギーX線では、線量計(電離箱式線量計、半導体式線量計ともに)のエネルギー特性が大きいため、日本では、医療現場で測定するX線に近いエネルギーで校正することが学会等から推奨されてきた。これまでは、マンモグラフィのエネルギー領域のX線の線量標準は、W/Al線質で供給を行ってきた。産総研で保管している電離箱式線量計のエネルギー特性を図3に示す(産総研のW/Al線質の軟X線標準の半価層の範囲)。比較的エネルギー特性の小さいとされる電離箱式線量計についても、マンモグラフィで使用されるX線のエネルギー領域では感度(校正定数)の変化が、図3でデータごとの縦棒で表した校正の不確かさ(95 %の信頼区間)よりも大きく、また、変化の様子が線量計の型式によって異なることが分かる。この違いは、線量計のX線入射面の材質およ
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