Vol.5 No.4 2012
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研究論文:マンモグラフィの安全を支える線量計測(田中ほか)−224−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)よる吸収を、高いエネルギー成分については画像のコントラストの低下を、それぞれ招くため、このような工夫がなされている。以上のように、マンモグラフィでは特性X線を多く含む低エネルギーのX線が使われるという特徴がある。2.3 マンモグラフィにおける線量評価胸部撮影に代表される一般X線撮影における線量評価では、皮膚吸収線量が用いられる。一方、マンモグラフィでは、・乳房に対してのみ局所的にX線が照射されること・乳房組織において、乳腺組織が放射線に最も脆弱であるとされていること・使用するX線のエネルギーが低いため単位長さ当たりの吸収量が大きく、乳房内で線量が急速に変化すること等を理由に、平均乳腺線量という特別な線量により評価されている。この平均乳腺線量とは乳腺組織の単位質量あたりの吸収線量であり、乳房組織内の全乳腺組織に吸収されるX線のエネルギーを、乳腺組織の全質量で除した値として定義される。国際単位系ではJ/kgが単位であるが、特別な名称の単位Gy(グレイ)が割り当てられている。平均乳腺線量は、乳房中の深さ方向(X線源から受像素子への方向(図2)に対して不均一な乳腺の吸収線量を代表する線量である。ただし、平均乳腺線量は、乳房中の乳腺の量(割合)や分布、乳房の圧迫厚によって値は変わる。そのため、マンモグラフィの精度管理では、乳腺組織と脂肪組織の質量比が1:1の割合で均一に混合した厚さ45 mm(42 mm厚の場合もある)の乳房を標準乳房とし、この標準乳房に対する平均乳腺線量を評価している[6][7]。関連学会等では、この平均乳腺線量に対してガイダンスレベル(または低減目標値)を設け、線量の適正化(低減化)が図られている。この平均乳腺線量は実測が極めて難しい量であり、精度管理においては、関連学会等が推奨する標準乳房を模擬した物質(ファントム)を利用して評価される。図2にマンモグラフィ装置を使った平均乳腺線量の評価の様子を示す。線量計の基準面がファントムの表面と一致するように線量計を設置し、ファントムの表面(X線源側)に入射するX線の線量を測定する。ただし、この時に線量計で測定される線量は「空気カーマ」用語4と呼ばれる単位で測定されるため、空気カーマから平均乳腺線量への変換係数が必要となる。この変換係数はモンテカルロ計算により算出されており、X線の線質ごとの数表として精度管理マニュアル等に掲載されている[6][7]。そのため、平均乳腺線量の評価には、マンモグラフィ装置からのX線の線質の評価も必要となる。ただし、エネルギースペクトルを医療現場で直接測定することは、手間やコストを考慮すると現実的でない。そのため、マンモグラフィの線質は、空気カーマの量を半減するのに必要な物質(マンモグラフィではアルミニウム)の厚さによって表現される。線質を表すこの物質の厚さを半価層という。以上のように、平均乳腺線量の評価には、線量(空気カーマ)と線質(半価層)を線量計によって測定することが必要不可欠となる。2.4 マンモグラフィ用線量計の現状線量計には測定原理の異なるさまざまな種類が存在する。マンモグラフィの医療現場では、電離箱式線量計と、半導体式線量計の2種類が主に利用されている。電離箱式線量計は、X線と空気との相互作用によって生じた電離量(イオン-電子対)の測定を基礎とした線量計である。マンモグラフィでは診断用X線の中でもエネルギーの低い(物質による吸収が大きい)X線が利用される。そのため、マンモグラフィ用X線の電離箱式線量計では、X線入射面は透過性の高い薄膜(主に金属蒸着した樹脂)が用いられる。電離箱式線量計は、空気カーマの定義に近い測定ができるため、二次標準線量計として使用される。一方、使用する温度や気圧等の環境条件によって放射線有感体積中の空気の質量が変化するため、環境条件に応じた補正が必要となる。また、X線の入射面に薄膜を使用していることから、取り扱いに注意が必要となることに加え、薄膜によるX線の吸収が生じ、X線のエネルギーが低いほど、線量計の感度がX線のエネルギーに依存して変化しやすくなる。半導体式線量計では主にシリコンが活用され、pn接合(逆バイアス電圧を印加)による空乏層を放射線に対する有感層として作用させる線量計である(pin型もあり、そのX線乳房支持台(この下にフィルム等の受像素子を設置)電離箱式線量計圧迫板約65 cm(線源-線量計間距離)この中にX線管球が設置されている図2 マンモグラフィ装置の線量評価における線量計の設置例ファントムの厚みの分だけ、線量計の基準面を乳房支持台から浮かせており、写真中では電離箱式線量計のみ設置。
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