Vol.5 No.4 2012
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研究論文:有害化学物質の環境分析法の標準化(谷保ほか)−272−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)月)とおよそ同時に、ISO国際標準分析法(2009年3月)と世界初のCRM(2010年)が使用可能になった。一方で、規格化したことで間接的に発生する弊害として、Oasis®WAXカートリッジの使用について指摘したい。ISO 25101によるPFOS/PFOA関連物質の分析は、分析法に関する基礎的な知見やISO 25101の基となる厳密な精度管理条件を前提としており、それらが不十分な場合には、分析値の信頼性・再現性の低下がみられることがある。SPEとして多用されるOasis®WAXカートリッジは、ISO 25101およびJIS K 0450-70やその基本技術となった原著論文[13]に記載したように、低濃度試料について洗浄液として適切な緩衝溶液を用いればC2からC18までの多様なPFOS/PFOA関連物質について優れた結果が得られる。しかし、ギ酸等を用いる簡易溶出法(PFOS含有廃棄物ガイドライン(2010)等に記載されている)を適用すると、マトリックスにより回収率が大きく変動することを我々は確認している。このため、ギ酸を用いる場合には、溶出条件の最適化を十分行わなければ信頼性は確保できない。Oasis®WAXカートリッジと類似の性質を有するSPEカートリッジを用いた場合、短鎖(PFBA)の回収率や再現性の低下が起きる原因は同じである。さらに、最近の研究ではこのSPEカートリッジを海水分析に使用する場合には特に厳密な脱塩操作・溶出条件管理が必要なことを確認している。高濃度試料中の炭素鎖8のPFOS/PFOAの測定に限定すれば、むしろ単純なC18系あるいはポリマー系のSPEの方が、コンタミネーションやPFOS/PFOA以外の関連化合物の低回収率などの問題はあるが、初心者には使い易い。なお、ISO 25101およびJIS K 0450-70には、Oasis®WAXカートリッジ以外にも使用可能なSPEカートリッジ例として、C18系[23]やポリマー系SPE(Oasis®HLBカートリッジ[26][28]など)について、それぞれAnnex(informative)および附属書(参考)として記載されている。現状では、ISO 25101の基本概念である「固相抽出法と液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計を用いたPFOS類分析技術」の信頼性をどのように確認するかという、最も重要なQA/QCの本質が十分理解されていない例も多い。ISOの問題点としては、JISのように巻末に「解説」がなく、その分析操作を行う理由や背景等の詳細な説明が少ないことである。JISでは、妥当性確認結果だけでなく、JIS策定審議中に議論された事項、規定の理由や背景を詳細に解説し、ユーザーが操作の一つ一つを十分理解できるようにした。分析化学の基礎に立ち返り、高水準の試験データを作成し、各国・各試験室間の試験データの相互受け入れを可能とする同水準の試験データを得るための優良試験所基準(Good laboratory Practice:GLP)用語8を充実させることが必要である。6 おわりに近年、化審法が環境省・経済産業省・厚生労働省の3省管轄になり、POPs条約検討委員会も同様の枠組みで進められている。省庁間で適切な情報共有と領域横断的な国際規格のサポートが実現できれば、日本の有する環境汚染科学に関する貴重な知見・技術を元に多数の国際規格の確立が環境分析分野で期待できる。これは狭い意味での環境だけではなく、製品中に含まれる有害物質や越境汚染、バーゼル条約等、有害化学物質問題の国際的解決を可能にするための基礎でもあり、リスク・動態モデルや政策策定には、これらの実測値の信頼性を客観的に確保することが必要不可欠である。また、日本がコンビナーとして最近確立した水質測定に関するISO国際規格には、ここで述べたISO 24293[1]とISO 25101[2]、加えてISO 22719[43]の3件がある。さらに現在、海水のpH測定法の国際規格化も進行中であり、これらはすべて地球汚染・温暖化等、現在の国際社会の最重要課題の一つである地球環境問題に密接に関係する国際規格であることは注目に値する。これは、ISOの主目的である「国際規格を用いて国際問題を解決する」という概念を地球環境問題へ拡大し、国内産業・環境政策と国際経済問題の解決へ向けて動き出した一例と考えられる。今後、数多くの環境測定の国際規格化を省庁の枠組みを超えて実現し、環境問題の解決策をいち早く見いだすことにより国際的な貢献を行うことは、「環境問題先進国」としての我が国の責務であると考える。また、近年においては環境問題等の課題解決技術の先行図10 ペルフルオロオクタンスルホン酸カリウム標準液(NMIJ CRM 4220-a)
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