Vol.5 No.4 2012
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研究論文:有害化学物質の環境分析法の標準化(谷保ほか)−265−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)要性に注目したドイツ・ライプニッツ研究所、米国ワッズワースセンター等、世界トップレベル研究機関との共同研究により、数度にわたり国際合同調査航海を行い、日本海、大西洋、南太平洋、ラブラドル海の表層から深層までの鉛直分布を測定し、各海域で鉛直分布濃度が異なることを発見した。特に、表層水が深層に一気に潜り込み、表層水と深層水がよく混合している北大西洋において、表層から深層まで一定濃度の鉛直分布を観測し、熱塩対流による地球規模外洋海水大循環メカニズムにより、PFOS類の深層海水への供給が行われていることを発見した[14][15]。これにより、大気経由輸送メカニズムしか議論されてこなかったこれまでのPOPs遠距離輸送メカニズムにおいて、海流による地球規模長距離輸送メカニズムの重要性を指摘した。現在では欧米の海洋学者を中心に、このメカニズムに関する調査が行われている。2012年にカナダPFOS/PFOA研究の中心研究機関であるカナダ環境省等と産総研の連名で大西洋全域の表層海水分布を報告する[16]等、産総研が開発した外洋調査研究手法が世界的に利用されている。分析法の国際標準化において、これらの研究実績が高く評価され、2005年6月に開催されたISO/TC147総会において、日本がコンビナーとして作業部会WG56(PFOS/PFOA)を立ち上げ国際規格化を開始した。同年にはPFOSとその96の関連物質がPOPs条約対象物質として提案されている。規格化に際し、基準認証研究開発事業(2006-2008年)「新規POPs候補物質の分析法の標準化」により、研究開発(分析法の開発、分析性能の向上および精度管理試験による信頼性の確保等)や規格原案の作成を行った。日本側が提案した分析技術についてはおよそすべて受け入れられたが、専門委員との議論に挙がった課題についていくつか触れたい。まずは、使用する分析機器の選定である。PFOSおよびPFOAの環境測定が始まったごく初期には、今日一般に用いられている液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計(LC-MS/MS)ではなく、液体クロマトグラフ/質量分析計(LC-MS)いわゆるシングルMSを用いた分析も行われていたため、LC-MSの使用の適否が議論された。原案策定過程においてLC-MSを規定に入れるようイギリスの専門委員より提案があったが、LC-MSはLC-MS/MSに比べ、選択性が低く、試料により妨害物質との分離が不十分な場合があり、国際精度管理試験でも23機関中1機関しか使用していなかったことから、Annex(Informative)に記載するに留めた。また、分析試料としては、排水試料も対象試料として検討されていたが、国際精度管理試験では分析値のばらつきが大きいことから対象試料から外すことになった。PFOSおよびPFOA以外の関連物質については、同じ分析法を用いて測定できる点を指摘されたが、ISO策定当初はPFOSおよびPFOAのみを対象に進められており、後からその他関連物質を加えると、規格化が大幅に遅れるため、早急な規格化が求められていた状況を鑑み、対象成分はPFOSおよびPFOAに限定することになった。以上の検討により、2005年に作業原案(WD: Working Draft)、2006年に委員会原案(CD: Committee Draft)、2007年に国際規格原案(DIS: Draft International Standard)、2008年に最終国際規格原案(FDIS: Final Draft International ろ過法分析試料の適用範囲決定機器分析固相抽出法コンタミネーションの原因解明分析法の妥当性確認国内業界からの国内標準法の要請ニーズ・活用事例環境動態の解明分析法・データの質の向上政策立案に必要なデータの蓄積化学物質規制の有効性評価環境自主管理の実効性向上環境負荷量の把握分析試料・対象成分の拡大研究目標構成と統合要素技術精度管理要件の明示分析法の改善分析法の開発国内精度管理試験分析法・データ信頼性確保認証標準物質国際精度管理試験マトリックス効果の低減分離カラムの選定と最適化分析性能の向上固相抽出カラムの選定と最適化コンタミネーションの低減分析法の国際標準化分析法の国内標準化図4 PFOS/PFOA分析法の標準化のシナリオ

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