Vol.5 No.4 2012
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研究論文:有害化学物質の環境分析法の標準化(谷保ほか)−263−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)環境動態や毒性の解明に努めてきた。その後、2002年に、NPの水分析法の国際規格化の必要性を経済産業省へ説明し、基準認証事業(2002-2004年)「ノニルフェノール分析法の標準化」として採択され、分析法のISOおよびJIS提案を目指した研究を開始するに至った。NPはアルキルフェノール類の一種であり、2002年当時は、JIS K 0450-20-10:2002[5]があり、ISOもISO/CD 18857-1(現ISO 18857-1[9])として、ドイツがコンビナーとして策定中であった。両分析法とも、NPを単一の化合物として総量測定していて、異性体組成に関する情報はなかった。しかし、この研究で分析法を開発し規格化したISO 24293は、NPを内分泌かく乱作用が異なる13種類の異性体に分離し測定することを初めて可能にした分析法である。これは、ダイオキシン類(ポリ塩素化ジベンゾ-p-ジオキシンおよびポリ塩素化ジベンゾフランの総称)の分析において、210種類存在する異性体の中でも有害性が高くかつ有害性が異なる17種類の異性体を選別して個別に測定していることに相当する。NP異性体はそれぞれ異なるエストロゲン様活性を示すため、正確なリスク評価のためには、環境中における異性体別濃度を把握することが重要であり、環境試料中の異性体別濃度データの蓄積が重要であった。開発した分析法をISOとして規格化するためには、すでにISO/TC147/SC2/WG17(フェノール類)においてNPの総量測定法を策定中(ISO 18857-1[9])であったコンビナーを務めるドイツとの調整が必要であった。そこで、ISO/TC147の議長(ドイツ)とWG17のコンビナー(ドイツ)と事前打ち合わせする場を設け、有害性の正確な評価を可能にする異性体別詳細分析の必要性を説明した結果、その意義が共有され、2003年のISO/TC147総会において、異性体別分析法の日本側の新規提案が承認された。結果として、国内JIS規格化[3]を開始する前に、ISO新業務項目提案(NWIP: New Work Item Proposal)として2005年に採択され、フェノール類のワーキンググループWG17において国際標準化を開始した。ISO策定において、日本側の提案した分析法は専門委員との議論の過程でおよそ受け入れられたが、環境水試料中の懸濁物質(SS)の量と標準物質については議論があった。SSについては、環境水試料中に含まれるSS量の違いにより、分析精度への影響が焦点となったため、異なるSS量の環境水試料を用いて精度管理試験を行い、この結果をAnnex(informative)に掲載することで合意した。また標準物質については、市販の混合物を測定者自らが値付けする必要があったため、市販の5つのメーカーの混合物について測定した結果をAnnex(informative)に掲載することで合意に至った。詳細は3.1章および4.1章に記載する。以上の議論のもと、2005年に作業原案(WD: Working Draft)、2006年に委員会原案(CD: Committee Draft)、2009年に国際規格原案(DIS: Draft International Standard)、同年に最終国際規格原案(FDIS: Final Draft International Standard)を経て、2009年7月に国際規格としてISO 24293が発行された。2.2 PFOS/PFOAの環境分析技術の必要性と標準化PFOSおよびPFOAは、図2に示すようにフッ素化アルキル基を有するペルフルオロアルキル化合物(PFASs)の一種である。PFOS/PFOA関連物質は、炭素-フッ素のとても強い共有結合を有するため、また、一分子中に疎水基(フッ素化アルキル基)と親水基(スルホン酸基やカルボキシル基等)を有するため、耐熱性、耐薬品性、界面活性、光透過性、イオン透過性等の多様な物理的化学的性質に優れている。そのため、フッ素樹脂産業、先端電子機器材料、半導体、メッキ、エッチング、写真技術、乳化剤、撥水剤、防汚加工剤、消火剤あるいはそれらの中間原料等、機能性工業材料として多岐にわたり使用されてきた。図3にPFOS/PFOA関連物質に関係する社会動向および研究動向を示す。PFOS/PFOA関連物質は1940年代に製造法が開発され、1950年代から市販されてきた。しかし、2000年2月に野生生物からPFOSが高濃度で検出され、同年5月には米国3M社がPFOS関連物質の事業からの撤退を報告し、これを契機にPFOS関連物質による環境問題が一般に広く知られるようになった。その後、極域の野生生物からも高濃度で検出される等PFOS関連物質の環境残留性、生物への蓄積性の高さや長距離移動性、人や生物への影響の懸念が明らかになってきた[10]。このような状況を受けて、国際的に使用や排出に関する規制が検討され、我が国ではPFOSとPFOAは2002年12月に化学物質の審査および製造等の規制に関する法律(化審法)の第二種監視化学物質となった。また、2006年1月には、米国環境保護庁(USEPA)が世界の主要製造メーカーに2015年までのPFOAおよびPFOA前駆体の自主的削減および撤廃を要請し、工場周辺の飲料水についてもガイドラインを設ける等、排出削減に向けた取り組みが始まった。PFOSは2005年6月以降、POPs条約による規制の検討が開始され、2010年にはPFOSとその原料となるペルフルオロオクタンスルホニルフルオリド(PFOSF)が、POPs条約対象物質として、日本国内では化審法第一種特定化学物質として、一部のエッセンシャルユースを除き生産・使用が世界的に禁止されることとなった。しかし、規制が開始されてから分析法を標準化するのでは対応が後手に回ることになる。産業界および社会における対策を効率的

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