Vol.5 No.4 2012
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研究論文:有害化学物質の環境分析法の標準化(谷保ほか)−262−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)まとめられるが、個々の分析法とそのQA/QC(精度保証/精度管理:Quality Assurance and Quality Control)まで厳密に議論されることはまれで、分析精度・信頼性まで考慮されていないのが現状である。地球環境問題では、CO2による温暖化でみられるように、世界の何処で測定された値であっても相互に比較可能な等しい信頼性を有することが不可欠である。このため我々は、まず分析法として信頼性の高い方法を開発すること、次に分析法を国際標準化することによって世界の環境研究者・分析従事者がこの方法にのっとって信頼性の高いデータを出すこと、さらに分析値をSI単位にトレーサビリティのとれたものにするため認証標準物質を作成することを目指した。なお、環境分析法の標準化について読者の参考とするため、ISOとJISの環境分析の体系について、以下、簡単に紹介する。ISOの規格化は各分野の専門委員会(TC: Technical Committee)のもとで行われ、環境測定のISOには、TC146(大気)とTC147(水質)がある。それぞれのTCはさらに分科委員会(SC:Sub-Committee)、作業部会(WG:Working Group)に分かれ、各WGには国際会議の調整や規格原案の作成を行うコンビナーが決められている。この研究で規格化したノニルフェノール(ISO 24293:2009[1])およびPFOS/PFOA(ISO 25101:2009[2])はいずれもISO/TC147(水質)/SC2(物理的・化学的・生物的方法)の分科委員会に属し、それぞれWG17(フェノール類)およびWG56(PFOS/PFOA)の作業部会で議論し規格化された。また、環境測定のJISには、環境指標や無機イオン、金属等を対象としたK 0101やK 0102、揮発性有機化合物を対象としたK 0125、農薬類を対象としたK 0128、ダイオキシン類を対象としたK 0312等がある。この研究で規格化したノニルフェノール(K 0450-60-10:2007[3])およびPFOS/PFOA(K 0450-70-10:2011[4])はいずれもK 0450シリーズとして制定された。そもそもK 0450シリーズは、内分泌かく乱物質が世間で注目されていた1998年に、用水・排水中で微量で人および生態系に影響を及ぼす有機化学物質の測定の標準化を行うことを目的として規格化が始まり、一連の規格として、ビスフェノールA(K 0450-10-10)、アルキルフェノール類(K 0450-20-10[5])、フタル酸エステル(K 0450-30-10)、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)(K 0450-40-10)、ベンゾフェノン(K 0450-50-10)が制定されている。なお、ノニルフェノールのJIS規格化はISO規格化とおよそ同時に開始し、PFOS/PFOAのJIS規格はISO規格の制定後に、MOD(一部修正規格)として規格化を開始した。この報告では、有害化学物質の環境挙動解明から分析法開発、2件のISO規格[1][2]と2件のJIS規格[3][4]を具体例として、標準化に至るまでの研究過程とその意義について述べる。2 国際的有害化学物質規制に対応した環境分析技術の必要性と標準化地球環境問題に関する国際標準化は、国際機関や国立研究機関等の公的セクターの果たす役割が重要であり、我々もこの観点から国際標準化活動を行ってきた。一方で、環境分析法は公的な国際貢献の他にも、国内の産業界の排出実態の把握や、適切な環境対策の実施に有用であり、特に、化学物質の国際規制への対応が企業の存続にとっても必須となってきたことから、国内においても標準化の要望があり、JIS化を行った。2.1 ノニルフェノールの環境分析技術の必要性と標準化4-ノニルフェノール(NP、図1)は、ノニルフェノールエトキシレート(非イオン界面活性剤としてゴム・プラスチック工業、繊維工業、金属加工業等さまざまな産業分野で使用)の工業原料として使用される一方で、内分泌かく乱作用が強く推察されている。また、NPは、下水処理や水環境中で好気・嫌気分解により、ノニルフェノールエトキシレートのエトキシ基が順次分解されて生成することが知られている。このため、工業界の自主規制によりノニルフェノールエトキシレートの家庭用品への使用は禁止されている。これらを鑑みて、2012年8月には水質汚濁に係る環境基準が改正され、水生生物の保全に係る水質環境基準として新たにNPが追加された。我々は、NPについて、外洋海水鉛直分布を1998年に初めて報告[6]し、また、NP異性体について、分析法の開発と各異性体のエストロゲン様活性を明らかにする研究[7][8]を開始するなど、分析法の開発、PFOAPFOS図2 ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とペルフルオロオクタン酸(PFOA)の構造式
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