Vol.5 No.4 2012
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研究論文:調光ミラーガラスの開発(吉村ほか)−259−Synthesiology Vol.5 No.4(2012)田嶌 一樹(たじま かずき)2003年東北大学大学院工学研究科博士後期3年の課程修了、同年産業技術総合研究所特別研究員。2006年産業技術総合研究所入所。博士(工学)。以後、電気的に駆動するエレクトロクロミック方式調光ミラーの研究開発に従事。現在、サステナブルマテリアル研究部門環境応答機能薄膜研究グループ主任研究員。専門は金属材料(薄膜、バルク)、機能性セラミックス材料、およびそれらを用いたデバイスの物性解析など。最近は有機高分子材料の適用など新規材料開発も行っている。2010年電気化学会棚橋賞受賞。この研究では、エレクトロクロミック型調光ミラーを担当。山田 保誠(やまだ やすせい)1998年名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期課程材料機能工学専攻修了。博士(工学)。同年、名古屋工業技術研究所(現産総研中部センター)入所。2005年より1年間スウェーデン・ウプサラ大学オングストローム研究所客員研究員、帰国後1年間企画本部企画主幹を務める。2007年より5年間豊田工業高等専門学校非常勤講師を兼務。現在、サステナブルマテリアル研究部門環境応答機能薄膜研究グループ主任研究員。2010年電気化学会棚橋賞受賞。この研究では、薄膜の評価およびガスクロミック型調光ミラーを担当。査読者との議論議論1 Mg-Ca、Mg-Ba、Mg-Sr系調光ミラー用材料の発見の経緯質問(村山 宣光:産業技術総合研究所先進製造プロセス研究部門 )Mg-Ca、Mg-Ba、Mg-Srが調光ミラー用材料として優れた特性をもっていることを発見されたことは、すばらしい成果です。この発見の経緯を教えてください。ある程度予想された上で特性を評価されたのでしょうか。あるいは、セレンディピティ的な発見だったのでしょうか。回答(山田 保誠)全く目的の異なった研究ですが、サステナブルマテリアル研究部門の別の研究グループでは、発火しやすいことから扱いにくい金属であるマグネシウムを難燃性にする研究を行っており、マグネシウムにカルシウムを添加することで燃えにくくなるということを発見していました。調光ミラーでは、耐久性を高めるためにマグネシウムの酸化を抑える必要があるのですが、この成果を知って、カルシウムを加えることで燃えにくくなるのであれば、酸化もしにくくなるのではないかと考えたことが、この材料の研究を始めたきっかけです。作製して測定してみると、むしろ光学特性は優れていることがわかり、新材料系の発見につながりました。一般的に、カルシウムはとても活性が強く不安定な金属とされていますから、我々も、もしサステナブルマテリアル研究部門にいなければ、完全に異分野の研究である難燃性マグネシウムのことを知る機会はなく、したがって、元々活性の強いマグネシウムにカルシウムを添加する等という発想は思い浮かばなかったと思います。議論2 Mg-Ca、Mg-Ba、Mg-Sr系調光ミラー用材料の知財戦略質問(村山 宣光)Mg-Ca、Mg-Ba、Mg-Sr系材料の調光ミラー用材料としての知財取得で、可能な範囲で結構ですので、工夫された点や苦労された点を教えてください。回答(山田 保誠)調光ミラーに関する特許は、日本国内では我々のグループが基本的な材料特許を取得していますが、欧米では、マグネシウムとほとんどすべての遷移金属との合金薄膜の特許がすでに押さえられてしまっていました。そこで、この制約からのがれるため、マグネシウムとアルカリ土類金属の合金薄膜を用いた調光ミラー材料という形で特許出願しました。その際、これまでの遷移金属の添加に比べてアルカリ土類金属の添加がなぜ有効なのかということを詳しく調べ、その優位性について、単に現象論的に効果を述べるのではなく、理論的な観点から強調するようにしました。これにより、アルカリ土類金属を添加したマグネシウム合金薄膜が、調光ミラー材料として新しいカテゴリーの材料であることを主張しました。どうしても、基になる材料特許を押さえられてしまうと、それを用いたデバイスに関して、いくら構造等に工夫を加えても、ひっかかってしまうということがありますから、基本的な材料特許として独自の材料を申請できた意義は大きいと思います。議論3 全固体型調光ミラーデバイスの新規性質問(村山 宣光)全固体型調光ミラーデバイスは、著者らのアイデアなのでしょうか。回答(吉村 和記)酸化タングステン薄膜等を調光層に用いるこれまでのエレクトロクロミック材料においては、全固体型のデバイスが開発されていましたが、マグネシウム合金薄膜を用いた調光ミラーについてはまだ実現していませんでした。当初、これまでの全固体エレクトロクロミック素子の構造に準じて、調光層、電解質層、対極層と積層して作製したところ、動作するものができませんでした。なぜうまく動かないのかを検討した結果、調光ミラーでは積層順を逆にする方が良いのではないかと思いつき、その構造のデバイスの研究を行ったところ、良好なスイッチングを示すデバイスを開発することができました。この逆積みの多層薄膜構造が我々のオリジナルです。議論4 調光ミラーガラスの実用化に向けた課題の整理質問(五十嵐 一男:国立高等専門学校機構)調光ミラーガラスを実用化するための3つの課題として、光学特性の改善、耐久性の改善、エレクトロクロミック方式の開発を挙げていますが、前者二つは、本質的にクリアしなければならない課題である一方、3項目は用途によってであり必ずしも実用化の必要条件ではないように思われますが、その点はいかがでしょうか。回答(吉村 和記)ガスクロミックだけではどうしても用途が限定されてしまうため、エレクトロクロミック方式でスイッチングできることは実用化を目指す上で重要です。2002年の時点では、マグネシウム合金薄膜系の調光ミラーがエレクトロクロミックでスイッチングできるかどうかは全くわかっておらず、調光ミラーの実用化研究において重要な課題でした。議論5 調光ミラーガラスの実用化にとっての大型化技術の位置付け質問(五十嵐 一男)実験室レベルから実使用レベルのサイズに大型化することによって光学特性、耐久性ともに新たな課題が生じることが想定されます。したがって、大型化も実用化にとっては大きな課題と思われますが、この論文では一切触れられていません。実用化戦略の中で大型化の位置付けはどのように理解すればいいのでしょうか。回答(田嶌 一樹)ガスクロミック方式については、大型化は比較的簡単にできますが、エレクトロクロミック方式ではこれが問題になります。そのあたりの記述を追加しました。
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